遺伝子治療のための標的遺伝子導入技術の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900356A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子治療のための標的遺伝子導入技術の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
島田 隆(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、臨床試験で使われているウイルスベクターは、細胞に対する特異性がなく、標的細胞以外の細胞にも遺伝子が導入されてしまう。それ故、生殖細胞への遺伝子導入や正常細胞への遺伝子導入による副作用の可能性が危惧されている。又、他の細胞への感染でベクターが消費されてしまうことは、標的細胞そのものへの導入効率を下げる大きな原因の一つとなっている。これらの安全性と導入効率の問題点を解決するため、特定の組織にだけ遺伝子を導入し発現する標的遺伝子導入法の開発を目的としている。
研究方法
NOD-SCIDマウスを抗NK抗体にて処理後、ヒト末梢血単核球を腹腔内に移植しhu-PBL NOD-SCIDマウスを作製した。GFP遺伝子を組み込んだ高力価HIVベクターを調製し、腹腔内に投与し、10日後に、マウスの末梢血、腹水、肝臓、脾臓より単核球を分離し、CD4とGFPの発現をFACSで解析した。オリゴデンドロサイトに特異的に発現しているミエリン塩基性蛋白(MBP)のプロモーターとCD4遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター(AdMBPCD4)を作製した。HIVのco-receptorであるCXCR4を供給するためのアデノウイルスベクター(AdCACXCR4)を作製した。標的細胞としては、in vitroの実験ではラットの神経初代培養細胞を、in vivo の実験では定位脳固定法を用いてベクターをラット脳に直接注入した。オリゴデンドロサイトの同定はCarbonic anhydrase II (CAII)に対する抗体を用いた免疫染色を行い、蛍光顕微鏡やレーザー顕微鏡により解析した。
結果と考察
高力価のHIVベクターを投与したNOD-SCIDマウスの各臓器に組織学的な変化は見られなかった。野生型HIVの出現も認められなかった。末梢血、腹水、肝臓、脾臓のすべての単核球においてCD4陽性細胞のみに1-2%の効率でGFP遺伝子の発現が確認できた。細胞から抽出したDNAのPCR解析においても0.1-1%の細胞へのベクターの組み込みが認められた。
HIVベクターはリンパ球を標的とするエイズの遺伝子治療のための理想的なベクターと考えられる。しかしHIVベクターは生産方法が煩雑で、高力価のベクターを大量に調製することが難しかった。我々は硫酸セルロースカラムや限外ろ過カラムを使い効率よくベクターを濃縮する方法を開発した。この方法で調製されたHIVベクターがほぼ100%のヒト初代培養リンパ球に遺伝子導入が可能であることを示した。更に、本実験においてはNOD-SCIDマウスを用いた実験で、in vivoでもリンパ球特異的遺伝子導入が可能であることを明らかにした。従って、理論的には患者の体内でリンパ球を特異的に治療することが可能であり、HIVベクターはリンパ球を標的とする各種疾患の遺伝子治療にとって大変有用なベクターであると考えられた。
我々の開発した、二段階遺伝子導入法を使って非分裂細胞に対する細胞特異的遺伝子導入を試みた。ラットの初代培養細胞にAdMBPCD4とAdCACXCR4を感染させると、CAII陽性細胞で特異的にCD4が発現していることが認められた。その後、GFPをもつHIVベクターを感染させると、CAII陽性オリゴデンドロサイトでのみGFPが発現していることが確認できた。
In vivoでのオリゴデンドロサイト特異的遺伝子導入を検討する目的で、ラットを麻酔後、定位脳固定法を用いてAdMBPCD4とAdCACXCR4の脳内への注入を行った。その後、HIVベクターを同じ場所に注入し、GFPの発現を調べた。レーザー顕微鏡により抗CAII抗体の蛍光と、GFPの蛍光を比較すると、GFP遺伝子はオリゴデンドロサイトでのみ発現していることが確認された。
オリゴデンドロサイトは神経系の変性を伴う先天性代謝異常症である異染性ロイコジストロフィーやKrabbe病の重要な標的細胞である。神経系疾患の遺伝子治療法として、ウイルスベクターの直接脳内注入が考えられているが、神経細胞(ニューロン)や神経ネットワークを遺伝子レベルで改変することは、精神活動に影響を与える可能性があり、倫理的に大きな問題であると考えられている。グリア細胞を標的とする遺伝子治療では神経細胞に遺伝子を組み込まない遺伝子導入法の開発が不可欠である。
本研究では、我々が開発した二段階遺伝子導入法を応用してオリゴデンドロサイトに特異的に遺伝子を導入する方法を検討した。MBPプロモーターはオリゴデンドロサイトで特異的に活性化されることが知られている。又、アデノウイルスとHIVは非分裂細胞にも効率よく感染することが知られている。これらの特徴を利用して、アデノウイルスベクターを使ってオリゴデンドロサイトに特異的にCD4を発現させられることを示した。CD4陽性となった細胞はHIVに感受性となりHIVベクターによる特異的遺伝子組み込みが可能になった。
ほとんどのヒト組織細胞は通常細胞分裂していない。したがってin vivoで遺伝子治療を行う場合は非分裂細胞を対象とすることになる。アデノウイルスベクターとHIVベクターは非分裂細胞に遺伝子導入できることで注目されているが、この両者を組み合わせることで非分裂細胞への細胞特異的遺伝子導入が可能であることが示された。組織特異的プロモーターを選択することで多くの種類の細胞に対するin vivo遺伝子導入が可能になると考えられる
結論
高力価のHIVベクターによりin vitro及びin vivoでのリンパ球特異的遺伝子導入が可能であることが示された。アデノウイルスベクターとHIVベクターを組み合わせた二段階遺伝子導入法により非分裂細胞への細胞特異的遺伝子導入が可能であることがin vitro及びin vivoの実験で明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-