ADA欠損症における遺伝子治療臨床研究

文献情報

文献番号
199900355A
報告書区分
総括
研究課題名
ADA欠損症における遺伝子治療臨床研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
崎山 幸雄(北海道大学医学部遺伝子治療講座)
研究分担者(所属機関)
  • 小林邦彦(北海道大学医学部小児科学講座)
  • 小林正伸(北海道大学医学部附属癌研究施設病理部門)
  • 有賀正(北海道大学医学部遺伝子治療講座)
  • 川村信明(北海道大学医学部小児科学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「アデノシンデアミナーゼ欠損症における遺伝子治療臨床研究実施計画書」に基づいた遺伝子治療により患児の免疫機構が再建されたため、平成9年3月で治療は中断された。本研究は、遺伝子治療の中断後、ADAGENによる酵素補充療法を継続下に遺伝子治療の有効性、安全性について長期的、客観的評価を行うことを目的とする。さらに、恒久的な免疫機構の再建を目指して血液幹細胞を標的とする遺伝子治療の実用化に向けた基礎研究も合わせて検討する。
研究方法
1)ADAGEN:週1回、1バイアル、筋肉内注射を継続した。2)遺伝子治療中断後の臨床経過、一般血液生化学検査、リンパ球機能検査、増殖性レトロウイルス検査、遺伝子導入細胞の検索、導入遺伝子の発現解析等を経時的に実施した。3)臍帯血CD34陽性細胞へのADA遺伝子導入基礎実験として、新規レトロウイルスベクターPG13/ADA(MPSV)、フィブロネクチン、Flt3リガンド等を使用した遺伝子導入法が半定量PCR法で検討した。
結果と考察
1.平成9年3月で遺伝子治療は中断され、その後はADAGENを継続しながら患児の免疫機能の評価、導入遺伝子の体内動態の検討、遺伝子治療に関わる安全性の評価が解析されて以下の結果を得た。1)ADAGENは遺伝子治療前25単位/kg体重/週から治療後は14.4単位/kg体重/週での維持が可能になった。2)中断後の末梢血リンパ球数は、500~ 1,000 /μL 前後を維持している。3)導入遺伝子は末梢血単核球の5~10%に継続して検出されている。4)末梢血単核球中ADA活性は5~10単位を維持し、抗CD3抗体による試験管内刺激によって20~30単位に増加を認める。5)免疫学的検査では、特異抗体の上昇、正常域の血清免疫グロブリン値が維持されて、静注用グロブリン製剤の定期的投与は中止されている。6)これまでに特別な副作用は認められていない。7)増殖性レトロウイルス検査は全て陰性であった。8)患児は普通の学校生活を送りながら易感染性もなく良好に経過している。
2. 臍帯血CD34陽性細胞へのADA遺伝子導入基礎実験では、新規レトロウイルスベクターPG13/ADA(MPSV)を用い、フィブロネクチン、Flt3リガンド、TPO、SCF、IL-6の併用によりLASNに比して30~40倍の遺伝子導入効率の上昇が確認された。
遺伝子治療の中断3年を過ぎて効果と安全性が確認された。しかし、標的細胞である末梢血T細胞の生存期間を推察すると、治療効果の持続には限界があり、今後も慎重な経過観察が重要と考えられる。また効果が減弱してきた場合の具体的な治療法の検討は必要であり、そのひとつの可能性として、血液幹細胞を標的とした遺伝子治療臨床研究に向けた基礎研究が重要と考える。
結論
レトロウイルスベクターLASNを用いて末梢血T細胞を標的とした遺伝子治療臨床研究では、中断後3年間の経過観察により遺伝子治療の持続的な有効性と安全性が確認された。また、血液幹細胞への遺伝子導入法として新規レトロウイルスベクターPG13/ADA(MPSV)とフィブロネクチン、Flt3リガンド、TPO、SCE、IL-6の有用性が示唆された。

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研究報告書(紙媒体)

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