AAVを利用した遺伝子導入法の基礎研究とその応用(パーキンソン病の遺伝子治療法開発)(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900353A
報告書区分
総括
研究課題名
AAVを利用した遺伝子導入法の基礎研究とその応用(パーキンソン病の遺伝子治療法開発)(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中野今治(自治医科大学)
  • 永津俊治(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療臨床研究では臨床的有効性が確認されたものはまだ少なく、ベクター開発などの基盤研究の重要性が指摘されている。本研究では、非病原性アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子導入法に焦点を当て、その基礎研究から応用の可能性について検討した。AAVベクターの実用化を図るには、効率の良い作製法の開発が必須である。特に、AAVベクター作製用パッケージング細胞株の樹立は重要課題であり、そのための基礎実験を推進した。また、AAVの性質を利用した染色体部位特異的遺伝子組込み(TVI)法は、治療用遺伝子の第19番染色体AAVS1領域特異的組込みを狙った方法で、より安全性が高く将来性のある技術として位置付けられ、その開発を推進した。応用研究としては、神経細胞がAAVベクターに適した標的細胞であることに着目し、神経変性疾患であるパーキンソン病の遺伝子治療法の開発研究を行った。治療用遺伝子としては、チロシン水酸化酵素(TH)、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)に加え、GTPシクロヒドロラーゼI(GCH)の各遺伝子を用いた。治療効果はパーキンソン病モデルラットの系で検討した。さらに、前臨床研究として、霊長類のカニクイザルを用いた遺伝子治療実験に着手した。尚、大腸菌で発現させた組換えGCHを用いて、酵素化学的解析を行った。
研究方法
1。AAVベクター作製技術の開発:高効率のパッケージング細胞株の開発に向けて、Cre/loxPによりAAV蛋白質の発現を厳密に制御するシステムに関する検討を進めた。本年度は、変異loxPを用いた新規Cre/loxPシステムにより、全Rep/Cap蛋白質の発現を一括制御する方法について検討した。2。第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法の開発:ITRで挟んだneo遺伝子発現ユニットを持つプラスミドとRep発現プラスミドを標的細胞(293細胞またはK562細胞)に同時にトランスフェクションした。この系における染色体組込み部位には、AAVS1以外の未同定の部位が含まれる。これらの領域をAlu-PCR法により解析し、組込みが生じやすい塩基配列の特徴について検討した。また、RepのN末端の極性アミノ酸をアラニンに置換した変異Repに関して、細胞毒性を中心に詳細な解析を行った。その他、DNAシャフリング法によりランダムに変異を挿入したRep遺伝子の解析も進めた。3。パーキンソン病の遺伝子治療法開発:TH遺伝子、AADC遺伝子、GCH遺伝子、あるいはLacZ遺伝子を含むAAVベクター(AAV-TH、AAV-AADC、AAV-GCH、及びAAV-LacZ)を作製した。黒質線条体路に6-OHDAを注入して作製したパーキンソン病モデルラットの系で、AAV-TH + AAV-AADC + AAV-LacZ、あるいは、AAV-TH + AAV-AADC + AAV-GCHを定位脳手術により線条体に注入した。導入遺伝子の発現に関して、THと神経細胞のマーカーであるMAP2、あるいはグリア細胞のマーカーであるGFAPとの螢光二重染色を行い、標的細胞の種類を検討した。また、THとAADC、THとGCHに関して螢光二重染色を行い、co-transductionの効率を検討した。さらに、ベクター注入部位近傍での遺伝子発現の範囲を免疫組織染色により調べた。遺伝子治療の効果判定では、アポモルフィン誘発異常回旋運動の程度を調べた。生化学的検査では、線条体のBH4とドーパミンの測定を行った。カニクイザルを用いた前臨床研究(筑波霊長類センターとの共同研究)に関しては、MPTP長期投与によりパーキンソン病モデルを作出し、AAVベクターを線条体に注入する実験を開始した。その他、GCHを大腸菌で発現させ、酵素化学的性質を調べた。 
結果と考察
1。AAVベクター作製技術の開発:変異型loxPは野生型loxPとほぼ同等の組換え
効率を有することが判明した。全てのAAV蛋白質の発現を制御する新しい手法の目処が立ったため、今後、高効率のAAVベクター作製用パッケージング細胞樹立への応用が期待される。2。第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法に関する基礎的検討:Alu-PCR法により遺伝子組込み部位の塩基配列を解析したところ、AAVS1以外の場合には共通の特徴的な塩基配列はなかった。変異Repの解析では、TVI活性を保持し細胞毒性の減弱したミュータントの分離を試み、そのような傾向の性質を持つものが5個(H18A、RD61AA、R122A、E201A、E226A)得られた。DNAシャフリング法により得られた変異Repに関しては、スクリーニングにより候補となるクローンが得られ、現在確認実験を行っている。TVI法の実用化を推進するには、細胞毒性を減弱化させた変異Repの開発が重要となるが、そのための基礎的な知見が得られた。3。パーキンソン病の遺伝子治療法開発:パーキンソン病モデルラットを用いた遺伝子治療実験では、螢光二重染色で、TH陽性はMAP2陽性(神経細胞)であり、GFAPは陰性であった。また、MAP2陽性細胞の約20%がTH陽性であった。THとAADC、THとGCHの螢光二重染色では90%以上の効率でcoexpressionが認められた。TH免疫組織染色では、遺伝子導入後12カ月の時点で広範囲に遺伝子発現が確認された。治療効果については、AAV-TH、AAV-AADC、AAV-GCHの三者同時の遺伝子導入を行った群の方が、前二者の群に比べて、アポモルフィン誘発回旋運動の明らかな減少が観察された。線条体におけるBH4とドーパミン濃度も三者併用の方が有意に高かった。効率よくドーパミンを生成するためにGCH遺伝子の併用が有効であることが今回の実験で示された。カニクイザルの系では、長期MPTP投与によりパーキンソン病モデルが作出できた。線条体へのAAVベクター注入後、十分広範囲に遺伝子発現を確認できた。大動物での実験はヒトへの臨床応用の前段階として極めて重要なステップである。その他、大腸菌で発現させたGCHの酵素化学的解析では、反応触媒部位はC末端側に存在すること、N末端側は酵素反応に対して抑制的に働いていることが示唆された。
結論
AAVベクターに関する基礎研究としては、AAVベクター作製用パッケージング細胞の開発が重要課題であり、そのために必要な技術として、全AAV蛋白質の発現を一括制御するためのシステムの構築を行った。第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法に関しては、導入遺伝子の組込み部位の塩基配列の解析を行った。また、TVI活性を保持し、細胞毒性を減弱させた変異Repの開発を行った。AAVベクターの応用研究としては、パーキンソン病の遺伝子治療法の開発を進めた。治療用候補遺伝子としては、ドーパミン合成に必要なTH、AADC、及びGCHの各遺伝子に注目し、それぞれをAAVベクターに挿入して遺伝子治療実験を行った。その結果、パーキンソン病モデルラットの系で、これら三者の併用が最も有効であることが示され、治療効果も長期間持続することが判明した。また、MPTP投与によるパーキンソン病モデルサルを使った前臨床研究を開始した。

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