サル等を用いたウイルスベクターの安全性及び有効性評価のための実験系の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900345A
報告書区分
総括
研究課題名
サル等を用いたウイルスベクターの安全性及び有効性評価のための実験系の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 永井美之(国立感染症研究所)
  • 山田章雄(国立感染症研究所)
  • 佐多徹太郎(国立感染症研究所)
  • 北村義浩(国立感染症研究所)
  • 神田忠仁(国立感染症研究所)
  • 西山幸広(名古屋大学医学部付属研究施設)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
101,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療におけるベクターの安全性を有効性との比較において評価する事を目的とした。ベクターとして、センダイウイルス(SeV)、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスをとり上げた。安全性の確認には種々な予備実験が必要で、vivoでのウイルスゲノムの高感度検出法が先ず必要であり、増殖サイクルに不明の点が多いウイルス(単純ヘルペス、AAV)についてはvivoでの増殖誘導の危険性の確認が必要である。更に、サルに直接接種しその安全性を総合的に判断する必要がある。
研究方法
生体組織内でのベクターの動向を病理学的に検索する方法を佐多が担当し、高感度検出法HybrATの実用化への研究を行った。AAVベクターとHSVベクターについては、それぞれ神田と西山が担当し、それぞれの増殖サイクルで安全性に関わる部分の解明を担当した。センダイウイルスのサルでの有効性及び安全性試験は永井が担当し、レトロウイルスベクターの安全試験は北村が担当した。又、サルの免疫学的性格付けについては山田が担当した。吉倉は全般的な研究総括と調整を行った。
結果と考察
(病理学的安全性評価研究)mRNAないしゲノムRNAの高感度検出法として、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片の適用可能なHybrAT法を確立した。簡便で、組織内局在を正確に判定出来、組織切片内の微量核酸の検出に有用であることが分かった。(アデノ随伴ウイルス及びアデノ随伴ウイルスベクターのサルにおける病原性と安全性の評価技術の開発に関する研究)AAVベクターの安全性の基盤となるAAVの生活環には不明な点が多い。今回、AAVは潜伏・持続感染した宿主細胞がアポトーシス等で死滅しそうになると、ヘルパーウイルスの共存なしに小規模な増殖をして、周辺部の細胞に感染し、新たに持続感染するという生活環を持つことが分かった。(ヘルペスウイルスベクターの安全性の評価技術の開発に関する研究)単純ヘルペスウイルス(HSV)はベクターとして次第に注目を浴びてきているが、機能不明の遺伝子が多い。今回、必須遺伝子の一つUL14がカプシド蛋白質及びウイルスDNAパッケージング関連蛋白質の核内への輸送に関与していることが示唆される結果を得た。ウイルス粒子主要蛋白質の一つVP16がシグナル伝達系のプロテインキナーゼJNKを活性化するとともに、ウイルスのUS3はJNKの活性化を抑制する作用を持つことが分かった。ヒト膵臓癌腹腔播種モデルを用いてUS3欠損ウイルスベクターの抗腫瘍性をUL39欠損ウイルスベクターと比較した処、後者はヌードマウスに対する毒性は前者より有意に低いにも関わらず同等の有効性を示すことが分かった。(センダイウイルスベクターのサルにおける病原性と安全性の評価技術の開発に関する研究)サルに接種する実験としては、センダイウイルス(SeV)ベクターの有効性及び安全性について検討した。1)サルへのサル免疫不全症ウイルス(SIV)のGag蛋白発現ベクター投与、(2)マウスへのヒト免疫不全症ウイルス(HIV)のEnv蛋白発現ベクター投与、(3)マウスへのH5型インフルエンザウイルス(H5N1)のヘマグルチニン蛋白質(HA)発現SeVベクター投与、を行いSeVベクターによる良好な遺伝子発現と感染防御免疫能の獲得および安全性が確認された。(レトロウイルス及び、レトロウイルスベクターのサルにおける病原性と安全性の評価技術の開発に関する研究)遺伝子治療に多用されているamphotropic murine leukemia virus (A-MLV)の非ヒト霊長類であるサルに
おける病原性を明らかにする為、高い力価(1x10^7/mL)のウイルスを得られることが分かった。来年度はサルへの接種を行う。(ウイルスベクターの安全性評価のためのサル実験系開発に関する研究)医学生物学的研究に不可欠なカニクイザルの免疫学的な性状に関しては情報が少ないので、Aローカスの主要なalleleの塩基配列を決定し、少なくとも5種類のalleleが存在することを明らかにした。一方、カニクイザルにおいては一部の個体がCD3に対する単クローン抗体(FN18)に反応しないことが知られているが、これはCD3分子の遺伝的多形性によるものである事が分かった。
結論
遺伝子治療に用いるベクターおよび挿入遺伝子産物の検出はnon-human primate (monkey)を用いた安全性評価法の確立が重要であり、単なるPCRによるベクター検出だけでなく、組織局在を明らかにすることがその安全性評価に重要である。今回得られた高感度検出法はその点で従来使われてきた方法と比較し、検出感度、信頼性、簡便性において優れており、また種々の応用が容易に可能であり、ほかの目的でも利用されうる。すでに論文として発表した。AAVの増殖と再感染の繰り返しがヒト体内で頻繁に起こっているならば、患者細胞DNAに組み込まれたAAVベクターが野生型AAVとの重感染でレスキューされ、患者から新たな感染がおこる可能性がある。AAVベクターの安全性を考える上で重要な情報である。ヘルペスウイルス遺伝子産物の機能解析の結果から、より毒性の低いヘルペスウイルスベクターを開発するために必要となる情報が得られた。また、ヒト癌に対する腫瘍治療用ベクターとして、ヘルペスウイルスの有効性を評価するモデル系が確立できた。SeVベクターは、他のウイルスベクターよりin vitro実験系では蛋白発現量が多く、高効率な遺伝子治療用および組み換えワクチン用ウイルスベクターとして研究開発に値すると考えられる。SeVベクターを遺伝子治療に使用するための安全性及び有効性の検討を目的としてサル、マウスを用いた動物実験を開始し、今年度までの成果でSeVベクターの有効性が示唆された。293細胞を用いることによって、1x10^7 /mL 程度の力価のアンホトロピックウイルスが得られることが分かった。よって安全試験で10^8-10^9/kg体重で投与する場合、約10リットルのウイルス感染293細胞の培養上清から精製を行えば必要なウイルス量が得られる。MHCに関しては得られた結果からallele特異的プライマーを合成することにより、少なくともこれらのalleleが存在する個体に関してはタイピングが可能になり、MHCの明らかなサルの供給の可能性が出て来た。一方、CD3に関しては遺伝子多型である事が分かり状況がはっきりした。

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