サルモデルにおけるベクターの安全性・有効性の評価実験系の開発

文献情報

文献番号
199900343A
報告書区分
総括
研究課題名
サルモデルにおけるベクターの安全性・有効性の評価実験系の開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中村 伸(京都大学霊長類研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 清水慶子(京都大学霊長類研究所)
  • 今村隆寿(熊本大学医学部)
  • 恵美宣彦(名古屋大学医学部)
  • 安部明弘(名古屋大学医学部)
  • 植田昌宏(エスアールエル検査本部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療・遺伝子ワクチンにおいて目的遺伝子を生体導入するためのdelivery systemは極め重要な要素で、遺伝子の導入担体・ベクターや導入方法の開発と共に、それらの有効性、安全性を検証するための評価実験系の確立も必須である。しかしながら国内ではベクターの安全性と有効性を評価・検討するための実験系の確立が遅れている。
サル類は進化的位置から遺伝子構造、免疫系、感染感受性ならびに代謝系など医生物学的特性はヒトに類似し、ヒトの疾病とその治療に関わるbiomedicalな研究において他の実験動物にない希有な実験モデルである。そのため、遺伝子治療薬剤の安全性や有効性を評価する上でサルモデルでの実験は不可欠である。
本研究ではこうしたサル類の医生物学的特質に着目し、原理的に異なる3種の非ウイルス性のベクター・遺伝子導入法について、その安全性と有効性をin vitro(培養細胞レベル) およびin vivo(生体レベル)で比較検討しつつ、サルモデルでの有用な評価実験系を開発する。こうした研究成果を基に、遺伝子治療用ベクターの評価・解析のための実験系を確立し、より安全で効率的な遺伝子治療・遺伝子ワクチンの発展を目指す。
研究方法
遺伝子投与担体(ベクター)の調製:
レポーター ・ GFP遺伝子(pEGFP C1プラスミド)を用いて、リポソームベクター(VSVG/カチオニックリポソーム(DOTAP)/ pEGFP C1プラスミド/ポリブレン混合ミセル)、アテロコラーゲンベクター (アテロコラーゲン/pEGFP C1プラスミドミニペッレト)、および遺伝子銃投与ベクター(金粒子/DNA複合体)を調製した。
有効性、安全性の解析:
サル培養細胞での遺伝子導入効率、発現性は、アカゲザル腎臓から樹立した培養細胞(MA104)を用いて分子細胞生物学的に解析した。サルモデル系での遺伝子導入効率、発現性、母子移行などは、カニクイザル、ニホンザルあるいはコモンマーモセットを適宜用い、GFP DNAの導入効率や体内動態を指標に検討した。さらに導入遺伝子の細胞・組織でのタンパク質発現に関しては、抗GFP抗体を用いた免疫組織化学的手法で精査した。
炎症反応、組織・細胞障害性の検討:
早期炎症マーカーのTNFおよび遅延性炎症マーカーのCRPについて、それぞれの血中濃度をELISAで測定して、炎症反応の強弱を検討した。また。血小板や白血球の変動、組織因子発現についても調べ、炎症応答のモニターとした。また、投与部位での組織・細胞の障害性や浸潤白血球に関しては細胞染色で検討した。
抗体産生の分析:
ビオチン化標識-抗サルIgG抗体およびIgE抗体を用いたサンドイッチELISAで、GFP抗体の産生を経時測定した。
Th1/Th2バランスの解析:
サルのTh1サイトカイン(IFN-_, IL-2)およびTh2サイトカイン(IL-4, IL-10)遺伝子について、リンパ球からtotal RNAを抽出し、それぞれの特異プライマーを用いたRT-PCR法で、各サイトカイン遺伝子の発現性を半定量し、Th1/Th2バランスを解析した。
結果と考察
研究結果・考察=検討した3種の遺伝子導入ベクター・方法(リポソーム、アテロコラーゲン、遺伝子銃)の内、カチオニックリポソーム(VSVG/リポソーム/ pEGFPC1プラスミド/ポリブレン混合ミセル)が、遺伝子導入効率、タンパク質発現性に優れていた。さらに、リポソームベクターでの細胞障害、白血球浸潤、炎症サイトカインの産生、血小板や白血球の変動、ならびに組織因子発現なども認められず、高い安全性も確認された。
抗体産生については、DFP遺伝子の単独投与では見られなかったが、ウイルス由来DNAのVSVG plasmidとの混合投与では、抗GFP、抗VSVG抗体が共に検出され、 VSVG DNAによる免疫応答亢進作用が示唆された。
Th1/Th2バランスに関しては、コントロール個体の分析が終わった所で、遺伝子投与サルについては解析中であるが、これまでの結果で興味ある点は、サルのTh1サイトカイン( IFN-_, IL-2)遺伝子の発現性は、ヒトのそれに比べ強く、サルモデルではTh1応答の亢進が窺える。
ペアー飼育で得たコモンマーモセットの妊娠メスに、リポソームベクターでGFP遺伝子を投与し、20時間後に胎児の血液、主要組織を採取し、それらのGFP DNAをPCRで分析した。胎児の肝臓や心臓でのGFP DNAは検出限界以下で、今回の実験では母体から胎盤を通過して胎児への移行は認められなかった。さらに、今回とは妊娠週齢の異なる妊娠ザルを用いて、胎児でのGFP DNAを精査し、それらの結果も併わせて母子移行について結論する。
結論
本研究ではサル類の医生物学的特質に着目し、ベクターの安全性と有効性を検討するための、サルモデルでの有用な評価・実験系を開発する。
非ウイルス性の遺伝子導入担体(ベクター)および導入方法として、リポソームベクター、アテロコラーゲンおよび遺伝子銃を特定し、サル(カニクザル、ニホンザル、コモンマーモセット)モデルでのレポター(GFP)遺伝子の遺伝子導入効率、発現性など、ベクター・導入法の有効性の評価・解析系の確立を目指した。同時に、Th1/Th2バランス、抗体産生、炎症応答、血球動態、母子移行等の安全性の評価・検討も進めた。さらにサル培養細胞での遺伝子導入効率、核DNAへの挿入、細胞内分布や半減期、細胞性状への影響など、細胞レベルでの有効性、安全性の評価実験系も検討した。
上述の研究成果に加え、下記に示す研究会「サルモデル系での遺伝子治療研究」の開催、海外研究室(Dr. Eberle, USAおよびDr.Brown,UK) 訪問など、関連の研究交流や共同研究を促進し本研究事業の推進を図った。

公開日・更新日

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