臨床応用をめざした造血器腫瘍原因遺伝子の単離と疾患モデルマウスの作成

文献情報

文献番号
199900332A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用をめざした造血器腫瘍原因遺伝子の単離と疾患モデルマウスの作成
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
金倉 譲(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 北村幸彦(大阪大学大学院医学系研究科 病理病態学講座)
  • 竹田潤二(大阪大学大学院医学系研究科 社会環境医学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の分子生物学の進歩により造血器腫瘍の分野においても多くの癌遺伝子が単離されてきた。しかし、一部の例外的な疾患を除いて、実際の症例の多くにおいてどのような遺伝子異常が原因となり腫瘍化がおこるのかについては明らかではない。従来、造血器腫瘍における新規癌遺伝子のクローニングは、染色体転座部位の近傍に存在する遺伝子をポジショナルクローニングするという方法がとられてきた。また同様に癌抑制遺伝子のクローニングについても染色体欠失部位に存在する遺伝子を検索するという方法が用いられてきた。しかし、いずれの方法も、特定の染色体異常が検出された場合にのみ解析が可能で、染色体異常が検出できない症例や複雑すぎる染色体異常を有する症例は解析不可能であった。我々は、本研究プロジェックトにおいて、レトロウイルスを用いた発現クローニングシステムを用いて造血器腫瘍患者の腫瘍細胞から癌遺伝子を直接的にクローニングし、その機能についての解析を行うことを目的としている。
研究方法
本研究では造血細胞に対し極めて効率よく遺伝子導入を行うことが可能なレトロウイルスの感染システムを用いて個々の造血器腫瘍の患者腫瘍細胞よりその原因遺伝子をクローニングする計画である。具体的には、1. 造血器腫瘍細胞よりcDNAライブラリーを作成し、レトロウイルスの発現ベクターにsubcloningする。2. マウスのIL-3依存性細胞株Ba/F3にレトロウイルスの発現ライブラリーを感染させる。3. IL-3非依存下でも増殖可能なクローンを獲得する。4. 獲得したクローンのcDNAあるいはgenomic DNAをtemplateにしレトロウイルスのベクター部分をprimerとしてPCRを行い、組み込まれたcDNAを回収する。この方法により造血因子非依存性の増殖をもたらす腫瘍化遺伝子のクローニングを試みる計画である。更に、これらクローニングされた遺伝子を用いてトランスジェニックマウスやCre-loxP systemを用いたコンデイショナルなターゲテイングマウスを作成することにより、その分子のin vivoでの機能についても詳細に解析する計画である。
結果と考察
1. レトロウイルスの発現クローニングシステムについて。白血病症例の腫瘍細胞及び白血病細胞株より作成した発現ライブラリーをBa/F3細胞に感染させた。IL-3非依存性増殖を示すBa/F3細胞の亜株より作成したライブラリーを感染させたBa/F3細胞よりIL-3非依存性に増殖するクローンを獲得した。このレトロウイルスに組み込まれたcDNAは、機能がいまだ明らかでないヒト16番染色体上に存在する遺伝子のマウスホモローグと考えられた。本遺伝子を導入したBa/F3細胞ではIL-3非存在下でも恒常的なMAPKの活性化とbcl-2の持続性発現が認められた。2. 造血器腫瘍の病理解析について。北村らは幹細胞因子の受容体c-kit遺伝子の活性化点突然変異に由来する家族性消化管ストローマ細胞腫の家系の解析を行った。また、今回単離した新規癌遺伝子に対する抗体を作成し、この分子のマウスの発生過程での各種臓器における発現についての解析を開始した。3. 疾患モデルマウスの作成について。竹田らは血液系だけに発作性夜間血色素尿症(PNH)の原因遺伝子PIG-Aに変異を導入したマウスを作成しPNH発症の分子機序について解析を行った。また、新規癌遺伝子の造血器特異的なトランスジェニックマウスやノックアウトマウスの作成を開始した。今後更に、個々の症例からの腫瘍化遺伝子のクローニングも期待される。
結論
本年度は、3年計画の2年目であり、既にレトロウイルス
の発現クローニングシステムを用いて機能が明らかでない新規癌遺伝子のクローニングに成功した。現在、この分子のin vitroでの機能解析を行うと共に、造血器特異的トランスジェニックマウス及びノックアウトマウスの作成を開始している。また、抗体を用いたin vivoでの発現様式の解析も開始した。平成12年度中にはこれらの研究結果が得られると考えられ、また、個々の症例からも更に腫瘍化遺伝子がクローニングされることが期待される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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