乳児院における処遇評価基準並びにマニュアルの策定

文献情報

文献番号
199900325A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児院における処遇評価基準並びにマニュアルの策定
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
帆足 英一(東京都立母子保健院)
研究分担者(所属機関)
  • 庄司 順一(青山学院大学文学部教育学科)
  • 松原 康夫(明治学院大学社会学部児童福祉学)
  • 水谷 暢子(浜松乳児院)
  • 鈴木 祐子(二葉乳児院)
  • 呉 太善(東京都立母子保健院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子どもの権利を擁護する視点のもとに、乳児院における児並びに保護者に対して適切な処遇が行われているかどうかを評価する基礎的な実態を把握するため、全国の114乳児院を対象として、以下の調査を実施し検討を行った。
1)処遇状況を把握するための生活アンケート調査
2)説明と同意、苦情処理に関わる実態調査
3)児並びに保護者の権利擁護に関わる実態調査。
なお、本研究計画は、当初3年計画で立案したが、初年度のみの研究とのことで、処遇評価基準を策定する基礎資料として、処遇状況の把握を行うことという条件が付与された。
研究方法
全国の乳児院114施設を対象として、上記に関わる詳細なアンケート調査を行い、103施設より回答が得られた。回収率は90.3 %であった。
結果と考察
1)処遇環境に関わる調査結果
乳児院で乳幼児が生活する養育単位についてみると、一つの居室の構成人数としては11~15名が37施設(35.9%)、6~10名が24施設(23.3%)等となっており、処遇規模は比較的大きかった。しかし、日中は更に小グループに分けた養育が行われている。居室数は施設規模(定員)に影響されるが、2室が41施設(39.8%)、3室・4室が共に18施設(17.5%) 等となっていた。
食事時間は、朝食が7時30分頃からが38施設(36.9%)、7時頃からが33施設(32.0%)、昼食が11時頃からが45施設(43.7%)、11時30分頃からが42施設(40.8%)、夕食が5時頃からが49施設(47.6%)、4時30分頃からが32施設(31.1%)となっていた。これは2~3交代勤務の影響に加えて乳児院は0~2児で構成されており、午睡時間等への配慮もあると考えられたが、一般の家庭と比較して昼食並びに夕食時間が早めとなっていた。過去2年間に食事時間の改善を行った施設が20施設(19.4%)、今後、食事時間を改善する必要があると回答した施設が38施設(36.9%)であり、食事時間の改善について再考を要すると考えられた。
入浴は、保育者(保育士・看護婦)が家庭と同様に一緒に入るのが53施設(51.5%)で、保育者も一緒に裸で入るが43施設(41.7%)であった。
保育者との個別的な外出を86施設(83.5%)が実施しており、担当児との個別的なかかわりを重視していることが伺われた。また、職員によるポランティアとしての外泊体験を77施設(74.8%)が認めているが、ボランティア保険等への加入は27施設(26.2%)にとどまっていた。また、親元への外出、外泊を認めていない乳児院が2施設(1.9%)あり、改善を要すると思われる。
クリスマス会、運動会等の主要行事に保護者を招待している施設は約2/3であり、地域との交流を兼ねて行事を実施しているのが約40施設(38.8%)であった。
担当保育制は、89施設(86.4%)で実施されているが、退所するまで担当を交代しないが69施設(67.0%)、居室(保育単位)が変わるごとに交代するが24施設(23.3%)等となっている。担当保育制を実施していない少数の乳児院における処遇改善はもとより、入所中に極力交代しないですむ処遇体制の樹立が望まれる。
子どもの衣類や玩具の個別化は、73施設(70.9%)が実施している。個別化の内容としては、衣類と玩具が32施設(31.1%)、衣類のみが31施設(30.1%)、収納場所等が36施設(35.0%)であった。
男性保育士や看護士の導入は、わずか15施設(14.6%)にとどまっており、養育環境における父親にかわる男性の存在の必要性について、施設長の一層の理解が求められる。
心理指導員が6施設(5.8%)、平成11年度より予算化された家庭支援専門相談員が42施設(40.8%)において導入されていた。
保育者の研修についてみると、何らかの研修に一人当たり年1~3回参加しているが、参加した職員が資料に基づいて伝達研修を実施しているのは55施設(53.4%)であった。
保護者に園だより等作成して保護者に渡している乳児院は、34施設(33.0%)、担当保育者が個別のお便りを書いて保護者に送っているのが49施設(47.6%)であった。
2)説明と同意、苦情処理に関わる調査結果
入所に際して説明と同意を行っている乳児院は、92施設(89.3%)であった。具体的には、口頭説明のみが33施設(32.0%)、文書を渡し説明が32施設(31.1%)、文書を渡し説明、署名を得るが31施設(30.1%)であった。半数以上の乳児院が必ず説明している内容としては、面会、外出、外泊、同様に半数以上の乳児院が必要に応じて説明している内容としては、行事、日課、養育内容等であった。入所に当たって措置制度について説明している乳児院は48施設(46.6%)となっているが、児童相談所において必ずしも十分な説明が保護者になされていないという意見が目立っている。
入所前の見学を全施設が受け入れ、説明等を実施している。また、児童相談所や市町村担当課に乳児院のパンフレット等を置く、ホームページやVTR等で乳児院を広く理解してもらうように努力していた。
「ご意見箱(苦情箱)」を設置しているのは僅か4施設(3.9 %)であり、今後の改善が期待される。乳児院に苦情窓口となる担当者を決めているのが49施設(47.6 %)、それを入所の際に伝えているのは 39施設(苦情窓口を設置している乳児院の79.6 %)であった。
苦情処理委員会を乳児院内に設置しているのは、僅か3施設(2.9%)に過ぎず、そのメンバーに外部委員を導入しているのは、1乳児院(1.0%)のみであった。
苦情処理対策としては、日常の接遇に配慮することはもとより、ご意見箱等の設置並びに苦情の窓口を設置し、入所の際に必ず説明することが望まれる。また、乳児院内に苦情処理委員会を設置して、そこに寄せられた意見や苦情を処理する体制を施設内でも樹立していくことが望まれる。
3)権利擁護に関わる調査結果
面会日の実態をみると、いつでも可が99施設(96.1%)、面会時間についてもいつでも可が27施設(26.2%)となっていた。虐待事例等、児との面会が望ましくないと判断された場合に面会を制限するが76施設(73.8%)、同様に外出の制限が97施設(94.2%)、外泊の制限が93施設(90.3%)となっていた。子どもの安全がおびやかされる恐れがあるために面会・外出・外泊の全てを認めることのできないケースが増加しているという乳児院は、11施設(10.7%)、同様に面会のみしか認められないケースが増えている乳児院が30施設(29.1%)、面会、外出は認めて外泊は認められないケースが増えている乳児院が21施設(20.4%)となっている。このことは、虐待等処遇困難な事例が増加している結果、児童相談所との協議
のもとに、保護者の面会権等を制約せざるを得ない事例が多くなっているものと考えられる。
これらを背景として、過去1年間に強引な引き取り要求事例を経験した乳児院は、40施設(38.8%)、その際に警察官の派遣を依頼したのが5施設(4.9%)、職員が身の危険を感じたことがたまにあるが30施設(29.1%)、保護者からの電話や直接来所によって業務に支障を来した例がたまにあるが35施設(34.0%)であった。
子どもの権利擁護機関については、55施設(53.4%)が行政の設置した第三者組織がよいとしている。乳児院内にすでに設置しているのは1施設(1.0%)のみで、設置には賛成であるがまだ検討していないが61施設(59.2%)であった。
その他、子どもの権利擁護の視点から、いくつかの場面を想定した処遇内容のあり方について調査を行っているが、紙面の都合で省略した。
以上の結果については、最終報告書を調査研究に協力してくれた全国乳児福祉協議会に報告し、今後の処遇改善、処遇評価、保護者への説明と同意、苦情処理、権利擁護のあり方等に生かしてもらう予定である。
結論

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-