病院における子ども支援プログラムに関する研究

文献情報

文献番号
199900324A
報告書区分
総括
研究課題名
病院における子ども支援プログラムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山城 雄一郎(順天堂大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 野村みどり(東京都立保健科学大学作業療法科)
  • 帆足英一(東京都立母子保健院小児科)
  • 中川 薫(東京都立保健科学大学看護学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本においては、子どもの発達段階に対応した遊び、保育、教育、診療にともなう精神的ケア、インフォームドコンセント(プリパレーション)、家族サポートまで含めた、総合的な子どものための支援プログラム・病院環境は未整備な状況である。本研究の目的は、国際的・学際的視点から、米国の病院における子ども支援プログラムの到達点を把握し、それを踏まえて、日本の病院における子ども支援プログラムに関する実態・問題・課題を全国実態調査から明確化することである。日本においては、小児科学、小児看護学、保育学、教育学、建築学、医療社会学など各専門分野の教育・研究は益々高度化・細分化し推進されつつあるが、病院における一人一人の子どもの総合的な支援プログラムに関する研究はみられず、学際的視点から研究に取り組む必要性は高い。
子ども支援プログラムの整備によって、患者である子ども、その家族、担当の医師や看護婦の負担軽減、治療効果促進などを図ることができ、近年、縮小傾向にある小児科、小児病棟の計画のあり方を見直す必要性も明らかにでき、更に、近年の少子社会における子育て支援対策の一環としても期待される。
研究方法
1)米国調査では、第34回ACCH(子どものヘルスケア協会、1965年設立)年次大会の日米文化交流フォーラム等における情報収集・意見交換を実施した。また、ミラー子ども病院、UCLA子ども病院、マクブライドスクールでは、具体的な実態を見学とヒアリングの方法で調査した。
2)診療科目に小児科を有する全国の病院から、30%の割合で無作為抽出した1094病院と、日本小児総合医療施設協議会会員の25施設の小児科医長宛てに、調査票を郵送し、実態を最も把握している医師または看護婦に回答を依頼した。調査票は郵送法にて回収した。有効回収票は290票、有効回収率は25.9%であった。
3)病棟内保育の現状を認識する目的で、全国医療保育研究会の病棟保育士を対象に質問紙調査を実施した。
結果と考察
研究結果=1)病院における子ども支援プログラムの米国における到達点について、以下のことを明確化できた。
a.チャイルドライフプログラムとプリパレーション 
チャイルドライフプログラムは、入院という子どもにとっての重大な環境移行を円滑に促すこと、また、病気の子どもの回復を促進することを目的に遊びを治療に取り入れたプログラムである。視察調査では、病棟や外来部に分散された各種プレイルームを拠点に、チャイルドライフスペシャリストによる遊びのプログラム、子どものためのインフォームドコンセントであるプリパレーションが入院・外来の患者を対象にきめ細かく提供されている実態を把握し、小児医療の中にチャイルドライフプログラムが極めて効果的に定着している状況を確認できた。
b.病院における教育プログラム
病院における個々の児童生徒に対する柔軟な教育プログラムを作っていく上で、最も重視されていることは、哲学として、学校が治療であるということ(入院する学齢の子どもの治療に一番役立つものが学校であるということ)、次に、重要なことはコミュニケーションで、家族・両親とのコミュニケーションでは、学校が子どもの人生や性格形成にいかに大切か説明し、医師や看護婦やソーシャルワーカーとのコミュニケーションでは、教育プログラムを説明して連携を促進すること、子どもの在籍校とのコミュニケーションでは、子どもの病状や状況を説明し、クラスメートの不安を取り除き受け入れ体制を整えることなどが重視される、第三に、病院における学校の存在感をアピールし、学校の重要性を医療スタッフに伝えることが重要と考えられている。
病院では、学籍移動せずに、障害児には特殊教育、健常児には普通教育の各プログラムが提供され、共に在籍校との連携が重視されていることがわかった。
c. 家族支援プログラム
1980年代以降、家族中心ケア(家族の参加と教育を勧めるプログラム)が子ども病院の中核概念と捉えられ、親が専門家として医療チームの一員に迎えられたり、また、病気の子どもを抱える家族の問題を個人的問題としてでなく、家族同士で支え合うために、家族会プログラムが生み出されるに至っている。これによって、研修を受けた親がピアレントコンサルタント、ファミリーコンサルタントとして病院に雇用され、親の相談や病棟におけるコーヒータイムの主催(病室を離れられない親たちの休憩とサポートのため)、病院スタッフの研修講師をつとめ、従来の医療にみられなかった家族中心ケアを推進し大きな効果を上げている。家族中心ケアにおいては、サポート、信頼、コミュニケーション、アフィニティ(受容と尊重と暖かい愛情を注ぐこと)が重視される。
d.子どものための病院環境
1990年代、トータルな病院環境の整備が進められてきた。そのキーワードは、家族中心ケア、ノーマライズされた環境、自然へのアクセス、経路探索、患者中心ケアと協力体制である。その特徴は、患者・家族が自らの生活をコントロールし、プライバシーを確保でき、エンパワーメントを強調したものである。
2)わが国の病院における子ども支援プログラムの実態を全国郵送調査により以下のことが明らかになった。
a.家族参加への支援
1)実施状況
まず、何らかの「家族参加への支援」が実施されていると回答がしたのが、270病院(93.1%)、特に実施されていないと回答したのが12病院(4.1%)であった。
具体的内容で実施率の高かったのは、「親が、子どもの食事や入浴介助などの日常生活援助に参加できる」(75.5%)、「親がいつでも子どもに付き添える」(74.8%)、「子ども兄弟が見舞いに来ることが出来る」(73.8%)、「子どものクラスメートが見舞いに来ることができる」(69.0%)であった。
b.「インフォームドコンセント」
1)実施状況
「インフォームドコンセント」に関して何らかが実施されているのは、237病院(81.7%)、特に実施していないとしたのは、36病院(12.4%)であった。具体的な内容で実施率が高かったのは、「病気の告知や治療方法について、子どもの理解力に応じて説明する」(70.3%)、「痛みを伴う処置の前に、子どもの理解力に応じて説明をする」(64.1%)であった。
2)インフォームドコンセントに取り組む場合に必要と思われること
「事前に、子どもの理解力に応じて十分に説明を施す」(56.6%)、「待合室や処置室を暖かい雰囲気のインテリアにするなど、ハード面の環境整備」(37.2%)などが高く認識されていた。
c.プレイセラピー
1)実施状況
「提供していない」(57.9%)、「一部提供している」(31.0%)、「十分提供している」(4.1%)で、過半数の病院でプレイセラピーが提供されていない実態が認められた。
2)プレイセラピーを提供することの必要性についての認識
「たいへん必要である」(23.4%)、「比較的必要である」(34.5%)、「どちらともいえない」(17.6%)、「それほど必要ない」(13.4%)、「全く必要ない」(2.1%)であった。
3)プレイセラピー提供のための条件整備についての認識
「プレイセラピーの室、スペースが確保されること」(36.6%)、「行政や病院管理者・職員がプレイセラピーの必要性を認識すること」(34.1%)、「診療報酬制度の中にプレイセラピーを位置づけること」(30.3%)などが高く認識されていた。
d.入院する児童生徒への教育
1)実施状況
入院する児童生徒へ教育が行われていない病院は60.3%、行われているのは30.7%あった。
行われている率が相対的に高いものは、「小学校特殊学級の教育」が12.8%、「養護学校の訪問教育」が11.0%、「養護学校分校の教育」が10.3%であった。
2)入院児童生徒のための教育方針
「学籍移動(転校)せずに、入院すると教育も受けられると良い」が63.8%と過半数を占めた。
e.EACH憲章に対する認識
西欧諸国・関連団体の活動目標であるEACH憲章の各条項の評価に関しては、全10条項を過半数が適切と評価していることがわかり、それらの条項の実現を図るための広範な支援対策整備が求められていることがうかがわれた。
3)病棟内保育の現状が今回の調査から下記のごとく明らかになった。
a.病棟の保育環境
施設面では保育室は70%、面接室は80%が不十分との回答であった。しかし保育教材や図書、雑誌などの設置及び装飾や行事の実施などは半数以上が十分であるとしている。
b.保育士の配置と勤務
保育士の配置は1人から最大7人で、37%の多くが1人勤務であった。
c.保育の対象
幼児を対象としていることが多い。
d.保育士の業務内容
入浴(44%)、歯磨き・洗面(58%)、環境整備(78%)、検査介助・測定介助(11%)、および与薬(18%)は少なかった。
e.他職種との連携
保育士の打ち合わせは、必要な時看護婦と行っている(47.8%)。
考察=米国の子ども病院における最先端の子ども支援プログラムとして、家族中心ケアがたいへん重視され、親が専門家として医療チームの一員に迎えられるなどの家族会プログラムが生み出されるに至っている。これらは、病院と家族の強力なパートナーシップに基づくプログラムで、それらを受け入れるための病院環境の特徴は、患者・家族が自らの生活をコントロールし、プライバシーを確保でき、エンパワーメントを強調したものであり、病院内に家族のための生活・学習スペースが確保されている。家族中心ケアを受け入れる基盤として、チャイルドライフプログラムにおけるプリパレーション(子どものためのインフォームドコンセント)の定着、学齢の児童生徒を対象とする柔軟な教育プログラムの開発、また、それらを受け入れるためのトータルな病院環境整備・改善が進められていることを把握ができた。わが国の小児病棟等では、「インフォームドコンセント」について広くは認識されていた。「プレイセラピー」や「入院児童への教育」については、必要性は高く認識されているものの、実施率は各々35.1%、30.7%にとどまっており、社会の支援体制や医療における制度的な改革等の必要性が示唆された。保育士に関しては医療保育士としてのアイデンティティを確立し、専門職として機能していくことが望まれる。
結論
以上の結果から、日本の子ども病院においては、まず、家族中心ケアとそのための病院環境整備について総合的、学際的、実践的な研究に取り組むことが急務の課題と考えられる。今回取り上げた「病院における子ども支援プログラム」については、病棟保育士も含め必要性が高く認識されているものの、それを充実させるためには、社会の支援体制や、医療における制度的な改革が必要である。

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