若年性関節リウマチの実態調査とQOL向上の医療・行政的政策立案の関する研究

文献情報

文献番号
199900323A
報告書区分
総括
研究課題名
若年性関節リウマチの実態調査とQOL向上の医療・行政的政策立案の関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
横田 俊平(横浜市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 相原雄幸(横浜市立大学)
  • 満田年宏(横浜市立大学)
  • 伊部正明(横浜市立大学)
  • 森雅亮(横浜市立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
若年性関節リウマチ(JRA)は小児期の原因不明の慢性関節炎の総称である。3つの病型(全身型、少関節型、多関節型)に分類し、病型ごとの特徴について詳細な検討がなされてきたが、病因については依然推測の域を出ない。またそれぞれの病型が均質な疾患を表現しているかも明らかでなく、病型分類が治療選択、予後推定に役立ってはいない。しかし小児期の慢性関節炎疾患として考えた場合、原因は不明ながら種々の病態が存在することは明らかであり、病型分類や疾患カテゴリーの把握を厳密に行うことで治療選択、予後推定に有用な方法を開発すべきであると考える。
小児期の慢性関節炎疾患はいずれも初期には関節炎による疼痛、関節可動域制限による生活障害が起こり、運動・登校は不可、著しい成長障害を来たし、慢性期には関節破壊・拘縮による関節変形、自立した日常生活も送れなくなる。しかし近年治療薬および治療方法の改良、とくにメトトレキサート少量パルス療法の導入は小児期の慢性関節炎疾患の治療を根本的に変革するものであった。慢性関節炎の治療は、早期炎症を徹底抑制することにより予後を著しく改善することが判明しつつあり、早期診断・早期治療こそ患児を守る唯一の方法である、と考えられるようになった。しかしわが国全体を見渡した場合、このような考え方の進歩を実現している施設は限られ、本症についての実態は、発症頻度すら明らかにされず、また一般小児科医において関節炎の診察法すら普及していない。
ところで、わが国の小児期慢性関節炎疾患については1985年厚生省研究班(渡邊信夫班長)において班員内の患者群の解析から米国診断基準を参考に本邦のJRA診断の手引きが作成され、疾患としての取り組みが開始された。米国では約6万5千人が登録され人口比から本邦では3万~3万5千人の患児の存在が推定されるが、全国調査はこれまで行われず患児の実数把握は困難であった。
今回の研究はまず全国的な実数把握を行い、より有効な診断の手引きを作成して、個々の病態に沿った標準的治療法を普及し、対象患児を長期治療・観察するシステムを構築ことである。これまでの小児期の慢性関節炎の考え方、最近の病型再分類の動向をみた上で、病型分類と新しい治療様式について検討を加える。
研究方法
全国調査は、100床以上の病床を有し小児科医の常駐する全国約1500病院に一次調査を実施し15歳以下の慢性関節炎JRA症例の有無を問い、有と回答した施設へ病型分類、血清学的特徴などを問う二次調査を実施した。
当初、改正された「小児特定疾患JRA」登録者について解析を進める予定でもあったが、登録症例の1/4~1/3が他疾患の紛れ込みである可能性が高いと判明し、次年度にはより効率のよい研究方法が求められた。
一次調査では男児727例、女児879例、計1606例が集計され、二次調査の結果に基づき病型分類を行ったところ全身型54.4%、多関節型24.6%、少関節型21.0%であった。この過程で、1)小児科医が関節所見の診察が不慣れで炎症関節数の数え方に謝りが多くあること、2)多くの症例が内科リウマチ医、整形外科医へ診療依頼されていること、すなわち成長期にある小児の特徴に配慮が足りない診療が行われていること、3)分類基準が炎症関節数に依拠しているため病型分類が不完全であり(少関節型がしばしば多関節型)、したがって治療が不適切であること、4)関節炎を併発する他疾患の紛れ込みが多数認められること、5)もっとも重要な早期の積極的治療が普及していないこと、6)専門的治療が受けられず患児も家族も大きな不安と不満を抱いていることが問題点として浮上した。
またこの研究期間に地方病院の依頼に対応して院外診察をしばしば行い、また地方保健所で企画された「難病相談会」に出席し「小児特定疾患JRA」登録者およびその家族に接する機会を得たが、JRAの診察・診断および治療に大きな疑義が生じた例が多数存在した。小児リウマチ専門医の乏しい現在、JRAの診察、診断、治療に関する啓蒙が必須であり、早急にその対策をとる必要のあることが痛感された。
そこで、患児・家族の現在の不安・不満に対処しつつ、調査活動を行い、かつ筋・関節の診察法やJRAに関する啓蒙活動を同時進行させる方策を考えた結果、以下のような立案を行った。1)保健所との関連の中で「JRA難病相談会」を企画する、2)小児リウマチ専門医が診察を行いつつ、患児・家族の相談に対応する、3)「小児特定疾患」の登録と実際の専門医の診断との適合性を検討する(他疾患の「紛れ込み率」を算定する)、4)新しい実際的な病型分類法式の有効性を検討する、5)「相談会」には近隣の小児科医の参加を求め、小児リウマチ専門医による筋・関節の診察法、JRAに関する話題、JRA治療の進歩などにつき講演を行い、知識や技術の普及を図る。当初はパイロット地域を選択し、その後全国的な展開を図る。なお小児リウマチ医は「日本小児リウマチ研究会」登録小児科医から選択を行い、「相談会」についてはJRA患児の家族の会である「あすなろ会」に依頼して積極的に参加を促してもらうことが確約されている。なお、血清学的所見を基礎にした新しい病型分類法については、現在米国CINCINNATI小児病院リウマチ部門において検討が加えられており、いずれ日米共同の会議を開催して国際基準案へと昇格させる予定である。
結果と考察
研究結果=(1)診断名としての「若年性関節リウマチ」
小児期の慢性関節炎の治療は、他の諸疾患と同様に病態に照らした方法が選択されるべきであるが、ともすれば病名を逐った治療法が行われている現状がある。この理由のひとつに、小児期の慢性関節炎の病型分類が、客観的な指標ではなく、全身症状の有無や炎症関節数により行われていることが挙げられる。
アメリカ・リウマチ協会(ARA:1985年)の規約によると、JRAは16歳未満の小児に発症し、6週間以上持続する関節炎疾患で、全身型、多関節型、少関節型と三病型が分類される。ヨーロッパ(EULAR)の規約では関節炎の持続期間が3ヶ月以上という点と、感染症、乾癬、強直性脊椎炎などを原因とする関節炎は除外する点とがARA規約とは異なるが、三病型分類は同様である。
ARAおよびEULARの病型分類は、小児期の慢性関節炎にはいくつかの発症形態があり、病態も異なることを明らかにしたが、残念ながら病因探求への指向性は持ち得なかった。例えばリウマトイド因子陽性例は恐らくは同一の病因に起因すると思われるが、これらの病型分類によると2関節に炎症を認めれば少関節型であり、6関節であれば多関節型となる。
また一般小児科医(関節炎を診る整形外科医、内科医でも同様であるが)の間ではJRAというより上位の疾患概念がひとり歩きをし、三病型の異同にまで言及されず、結果として病型により異なる治療法についての知識が普及しなかった。例えばリウマトイド因子陽性の多関節型の慢性関節炎に対しMTXの有用性には著しいものがあるが、全身型も同じJRAであるとの認識でMTXが用いられてしまう。しかし弛張熱、心膜炎、肝脾腫の改善が認められないなどとの誤解は数限りなくある。
こうした誤解を解き、病型に応じた標準的な治療法を確立するためには、均質な病態の症例を集積し、それに名前を与え、同一の治療様式による治療反応性を検討し、可能であれば病因的解析に付する努力が必要である。また小児期に発症した慢性関節炎であっても、いずれは成人へ持ち越していく(carry-over)可能性は高く、成人における慢性関節炎の疾病分類、病型分類と著しく異なっていてよいとも思われない。小児期の慢性関節炎について、時代はこのような対応を求めるようになったと言える。まずは理に叶った病型分類を、ついで早期診断基準を作成することが私たちの努めである。
(2)当科における慢性関節炎の実態
当科では約70例の小児期慢性関節炎の治療経過を追っているが、このうち発病初期から観察できた42例について、これまでの診断基準、病型分類に囚われず、臨床症状、血液検査所見から病型分類を試みた。対象は16歳以下の発症で、2週間以上続く関節炎のある患児で、炎症関節数は問わない。ただし、感染性関節炎や外傷による関節炎など原因が明らかな関節炎は除いた(表1)。
表1:小児期に遭遇する慢性関節炎を呈する疾患群
<定義>
●小児の慢性関節炎の定義=16歳未満、2週間以上持続する関節炎、炎症関節数 にはこだわらない。
●リウマトイド因子・抗核抗体・HLA検査が必須。
<病型分類>
Ⅰ.SPRASH症候群(SPRASH syndrome)
Ⅱ.小児特発性慢性関節炎(Idiopathic Chronic Arthritides of Childhood)
type 1: リウマトイド因子(RF)陽性型
type 2: 抗核抗体(ANA)陽性型
type 3: RF/ANA陰性型: 詳細は不明
Ⅲ.小児二次性慢性関節炎(Secondary Chronic Arthritides of Childhood)
-炎症性腸疾患関連関節炎(潰瘍性大腸炎、クローン病に併発する関節炎)
-乾癬関連関節炎(家族歴あり)
-強直性関節炎・付着部炎関連関節炎(少関節型、HLA B27関連、家族歴有)
-反応性関節炎(腸管感染症に続発する関節炎)
まず臨床症状から慢性関節炎症例を大きく3群に大別できた。1) 第Ⅰ群:全身症状が著しく、関節炎を全身症状の一部として発現している群(12例:28.6 %)、2) 第Ⅱ群:関節炎が病像の中心にあり、全身症状は軽微である群(25例:58.5 %)、3) 第Ⅲ群:感染性胃腸炎に伴う関節炎(反応性関節炎)、炎症性腸疾患に伴う関節炎など原病に伴って関節炎を発現する群(5例:11.9 %)。
第I群の症状は、弛張熱の持続、心膜炎、発熱に伴う皮疹、関節炎、脾腫大・肝腫大である。この群の一部はマクロファージ活性化症候群への移行を認め、生命の危機を経験した例もあった。
第Ⅱ群は、「リウマトイド因子陽性」を共通項として括るとリウマトイド因子陽性群(16例:38.1 %)とリウマトイド因子陰性群(9例:21.4 %)とに分かれるが、リウマトイド因子陰性群は全例抗核抗体陽性であった。したがってこの群は抗核抗体陽性群とする。なおリウマトイド因子陽性群にも抗核抗体陽性例はあったが、リウマトイド因子陽性所見を優先させた。
リウマトイド因子陽性群は10歳以上の女児に多く、全身症状は微熱、食思不振、るいそうなどを認める。多関節に炎症を認めることが多いが、1~4関節の場合もある。関節炎症は激しく、関節破壊・拘縮を後遺し、関節予後は概ね不良である。多くの例でMTXが有効であるが、病勢の激しい早期には多剤少量併用療法が推奨される。関節予後の改善には早期診断・早期徹底治療が求められる。
これに対し抗核抗体陽性群は、5歳以上の女児に多く、罹患関節数は少ない。関節炎症もおとなしく、関節予後は比較的良好であるが、炎症抑制に失敗すると関節拘縮を後遺する。特徴的に慢性ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)の併発率が高く、関節予後の他に眼科的予後に留意が必要である。多くはMTXを含むDMARDの併用が必要である。
第Ⅲ群は関節炎発症の基礎に消化管感染症や炎症性腸疾患、また私たちの症例には含まれていなかったが強直性脊椎炎(HLA B27関連)、乾癬などの基礎疾患を有するいわば「二次性慢性関節炎」である。原因となる基礎疾患が存在しその治療を優先すること、また多くの例ではその治療は関節炎の治療にもなっているので治療的側面からも別のカテゴリーとして捉えるべき疾患である。
結論
新しい小児期慢性関節炎病型分類の提案
第Ⅰ群は、関節炎の病因に関しては、弛張熱、心膜炎、肝脾腫などの全身症状の一環としての関節炎と捉えるべきものであり、第・群の関節炎とは病態的にも成因も異なると推察される。その治療も、関節炎とともに著しい全身症状への対応、マクロファージ活性化症候群への移行を監視することが主題になる。一方、第Ⅲ群は病因論的には関節炎は基礎疾患の成因と密接な関連を疑わせるという点で、また治療の点でも基礎疾患への対応が治療の中心的課題になるという点で、第Ⅱ群の慢性関節炎とは別個に考えてよい疾患と思われる。成人の「慢性関節リウマチ」に対応する小児期の慢性関節炎として取り上げるべきものは、第・群に相当する慢性関節炎であり、これを「小児特発性慢性関節炎:Idiopathic Chronic Arthritides of Childhood(ICAC)」とすることを私たちは提案したい。すなわち、「小児期に遭遇する慢性関節炎疾患」という大枠の中に第・群、第・群、第・群の関節炎を網羅するが、第・群は独立した「疾患」と考え、第・群は原因は不明ながら基礎疾患を有しその症状の一部として関節炎を発症するものと定義でき、第・群こそが関節炎が主病変となる原因不明の関節疾患でICACとして一群を形成すると考える。なおICACには1)「リウマトイド因子陽性型」、2)「抗核抗体陽性型」、さらに私たちの症例には存在しなかったが他施設では存在することが知られる、3)「リウマトイド因子陰性・抗核抗体陰性型」の三型が存在するものと思われる。1)ではHLA DR4が、また2)ではHLA DR8が遺伝的均一性を保障している。

公開日・更新日

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