一時保育における保育の処遇のあり方について

文献情報

文献番号
199900322A
報告書区分
総括
研究課題名
一時保育における保育の処遇のあり方について
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
民 秋言(白梅学園短期大学)
研究分担者(所属機関)
  • 倉戸直実(浪速短期大学)
  • 大嶋恭二(東洋英和女学院大学)
  • 高野陽(東洋英和女学院大学)
  • 迫田圭子(立正大学)
  • 粂幸男(名古屋市立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一時保育が、利用する子どもに与える影響を明らかにし、これはいかなる保育処遇によるものかを検討し、それに対する方策、を考える。
研究方法
先行研究を分析うえで、一時保育実施園の実態調査を行った。全国域の12調査対象地区を設定し、各地区で公私立およそ2か園ずつを選び、面接聴取調査(13園)並びに質問紙による調査(60か園)を実施した。質問紙調査票は、本研究会が平成10年度から実施している調査研究を参考・継続するものとして作成した。また、一部の実施園の保育をビデオに録画し(3か園)分析、さらに、行政などの関係資料(約20点)を収集した。調査の期間は平成12年1月~2月であった。
結果と考察
一時保育について、園・在園児・一時保育児・一時保育利用者にとっての影響・問題点を整理した。さらに、今後の一時保育の取り組みや対策の方法についても若干の提案をしている。
一時保育は、平成2年度に一時的保育事業として制度化され、平成10年度から一時保育と呼び名が変わり、今日では一時保育促進基盤整備事業という制度で取り上げられている。一時保育の開始年次をみていると、制度化された平成2年とそれに続く、3~5年と、平成7~9年の2つの山がある。平成7年はエンゼルプランの立ち上げと軌を一にしているといえる。
一時保育の実施園は、平成8年度では、公私立合わせて1051か園(保育園総数の4.7%)である。うち公立は31.6%、私立は68.4%である。尚、新エンゼルプランでは、目標を3,000か所としている。
まず、一時保育の概要について説明する。利用している子どもの年齢は1歳から3歳により集中してみられる。これらの子どもは1・2年間は継続して利用している。利用のためには、(Ⅰ)断続的な労働等、(Ⅱ)緊急・一時的な事情、(Ⅲ)心理的負担等私的理由といった3つの条件が定められている。さらに自治体によっては、(Ⅳ)体験入園を加えているところもある。この割合は、(Ⅰ)35.6%、(Ⅱ)36.4%、(Ⅲ)17.8%、そして(Ⅳ)10.3%となっている。子どもの受け入れ条件は、このほか、一日あたりの受け入れ可能数、入所年齢、登園時の健康状態、利用料、実施時間、平日以外のサービス実施日、などをあげることができる。ここでは、とくに実施時間と担当者、保育室の状況に注目したい。担当者のうち、一時保育専任は60%程度、クラスを担任しながらの保育士もおよそ同じ率でみられる。主任は20%余、園長は6%程度であった。保育室は「通常保育の保育室」を利用しているものが70%近くを占め、「特別の部屋を用意」は40%となっている。また、登園時の子どもの健康状態の把握については、「保護者からの報告」が50%余、「保育者の観察」が35%余、合わせて90%近くになる。一方で「保健婦・看護婦が観察」するが2%に満たないことは注目に値する。
次に、子ども様子を知ることはわれわれにとって重要である。20項目にまとめた子どもの様子を、先に述べた利用の理由(群)別にクロス集計している。
検定で5%以下の有意差が認められたものとして興味深いのは、断続的な労働等群で、主任が「担当していない」時に、「保育園に来るのを楽しみにしている」子どもが多いこと、逆に、「登園時に保護者と別れるのをいやがる」や「眠りが浅くすぐに目覚める」、「時々思い出したように泣く」は、主任が「担当している」ときに頻度が高くなっている点である。この傾向は体験入園群の子どもが、「ぐっすり眠る」のはクラス担任保母が「担当せず」にもみられる。さらに「園の施設や遊具に興味を示す」とか、私的理由群の「通常保育の子どもの遊びに入りたがる」にも同様の様子がうかがえる。
このデータから一時保育の担当者の在り方が問われていることがわかる。クラス担任保母も含めてとくに主任は、たとえベテランでも一時保育の専任ではなく、例えば電話の応対や本務なども入り込み、それに専念できない。そのため、子どもが安定しない様子を示す。子どもが安心して過ごし、受け止めてくれる保育者の存在が求められているのである。
さらに、一時保育のために「特別の部屋」を「使用する」時には、「保育中にこやかにしている」や「ぐっすり眠る」等が高く、「通常保育の園児と同じ部屋」を「使用せず」で「ぐっすり眠る」の数値が高いことも合わせてみると、専用の部屋が、情緒安定の条件のように思われる。しかし、上の3つの群で、「通常保育の子どもに興味を示す」や私的理由群の「通常保育の子どもと遊びたがる」や体験入園群の「園の施設や遊具に興味を示す」の数値をみると、「特別の部屋」を「使用せず」、あるいは「通常保育の園児と同じ部屋」を「使用する」方が、子どもはより活動的かつ主体的に一時保育を楽しんでいるように捉えられる。
続けて「一時保育のための特別プログラム」を用意しているかどうかについてみると、断続的な労働等群、体験入所群に、「通常保育の子どもに興味を示す」や私的理由群の「通常保育の子どもの遊びに入りたがる」「子ども同士でよく遊ぶ」や「園の施設や遊具に興味を示す」など子どもが生き生きと一時保育を送る姿を見ることができる。このように「特別プログラムを用意する」より、むしろ、「通常保育の園児と一緒にする」というように園全体で子どもを受けとめることが必要であろう。しかし、「その子にふさわしいクラスに入れる」というプログラムに注目するならば、それを「実施している」時には、緊急一時的な事情群によく現れているように、「元気に園内を動き回る」をはじめ、「通常保育の子どもに興味を示す」「通常保育の子どもの遊びに入りたがる」がともに高い数値を示している。このことから一時保育は、一人一人の子ども、その発達に見合った受け止めも求められていることが分かる。
次に一時保育が子どもに及ぼす影響についてみてみよう。
本研究には、一時保育の子どもへの影響を整理する作業がある。その過程で、一時保育が影響を与えるのは、園、在園児、一時保育児、一時保育利用保護者の4者があげられ、それらへのプラス面、やりにくさ・困ったこと及び今後の課題とに分けている。
まず園にとってのプラス面として「地域社会の住民や保護者の実状が保育者一人一人によく理解され」、それを「積極的に園の保育の在り方に生かす姿勢」が身に付いたとともに、「地域のニーズに応えているという実感を得、やりがいを感じている」といった、「地域に根ざした保育園」づくりに役立っている。「利用者へのサービス内容の工夫と強化をして」育児支援の広がりを果たすことができたなどである。
一方、やりにくさや困ったこととして「一時保育は変則的で予測が立てにくい」や「不安定な子どもを毎日あずかる」こと、そして、もっとも高い利用年齢層である1歳ころは感染症の羅患頻度も高い。したがって「感染症には特に注意が必要」である。また「不安をサポートし、かつリードできる」「子どもを受け止める力量と優しさ」のある保育者の確保の難しさなどがある。
次に在園児にとってのプラス面と難しさをあげる。在園児が「一時保育の子どもたちのことを、相手の身になって考えること」ができるようになった。その反面で「生活リズムのちがい」で保育の難しさも訴えられている。
一時保育児にとってのプラス面は「在園児との交流によりたくさんのお友達ができた」、さまざまな「遊びと体験ができた」「生活習慣の自立がはかられた」「発達の遅れに少しは対応できた」といった直接子どもに関わるものと、「育児ノイローゼの親から子どもが回避できる」などの点があげられている。一方、「子どもが泣くなど不安な状態で一日を過ごしている」などの「環境になじむことの難しさ」を指摘するケースが多くみられる。
最後に一時保育利用保護者にとってのプラス面としては、「育児をしているとイライラして子どもにあたる」親を一時的に解放できる、「一時的に子どもから離れて過ごす機会を一時保育に求めている」といった面が注目できる。また「保護者同士のつながり」を求めての利用もみられる。一方、やりにくさとしては「一時保育に通わせることは、子どもに悪い、かわいそうという罪悪感」のようなものがいまだにあることにも注目しておく必要がある。
今後の課題として、とりわけ保育者の力量が第1にあげられる。一時保育の研修が本格的にすすめられていかねばならない。また「今後充実すべき事項」としては、「行政からの補助金」が約半分を占める。「一時保育専用職員」を確保することの要望も多い。
最後に園長に、その意義について尋ねた。ほとんど全てが「意義あり」としている。看護職員による健康観察は少なく、保育者が行なっている。従って判断の目安や基準がしっかり確立されていることが望まれる。
一時保育は、新エンゼルプランにも位置づけられ、かつプラス面は多い。さらに一人一人の子どもをしっかり受け止め、かつ園全体で子どもを受けとめる保育体制を作ることは、つまりは通常の保育の充実につながる。今までみてきた課題を一つずつ解決しながら、より充実した一時保育を目指すことが必要であろう。
結論

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