利用者の立場から見て望ましい出産のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900320A
報告書区分
総括
研究課題名
利用者の立場から見て望ましい出産のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
渡部 尚子(埼玉県立大学短期大学部 看護学科)
研究分担者(所属機関)
  • 島田三恵子(浜松医科大学 医学部看護学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊娠・分娩・産褥・育児に関する現在の保健医療福祉サービスやケアに対する利用者側からの評価を行い、その現状と問題点、女性達のニーズを明らかにする。
研究方法
全国47都道府県から層化無作為抽出法により、大学病院17カ所、一般病院69カ所、産婦人科診療所90カ所、助産院100カ所、合計276カ所を抽出し、北海道、東北、北陸信越、東京、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、沖縄の11地方および医療機関4種の平成9年の分娩数に比例配分して、調査対象者数を割付けた。平成11年6~9月に出産した入院中の褥婦および産褥1カ月健診来所の母親の合計10,268名を対象とした。
調査方法は、日本助産婦会および日本母性衛生学会会員の協力を得て全国の各施設に依頼し、入院中の褥婦に妊娠・分娩ケアに関する調査票、産褥1カ月健診の母親に産褥・育児期のケアに関する調査票を配布した。
調査内容は、WHOの「出産科学技術についての勧告」を参考に、妊産褥期の実際の医療介入やケアの実践状況、施設の選択理由・転院理由、問題解決度、再来希望、満足度、退院後問題点、希望するサービス、妊娠分娩経過、及び対象特性である。
(倫理面への配慮)調査の目的・内容・意義等について説明し、回答は任意とした。回答後、対象者自身が封をしたものが各施設で回収され、返送された。
結果と考察
有効回答は入院中褥婦4,149、1ヶ月健診の母親4,068であった。その結果について施設別に見ると、妊婦健診での説明は助産院では約9割が「わかりやすい」と答えたが、医院・一般病院・大学病院では、医療が高度な施設になるほどその回答が減少した。「超音波検査」、「分娩監視装置」について約3割は説明がなかった。分娩時のケアでは「浣腸」・「剃毛」・「点滴」・「会陰切開」の実施が助産院では数%と非常に低く、医院・一般病院・大学病院では4~7割と、高度な医療機関になるほど実施率が高くなり、これらは産婦の正常・異常による差がみられなかった。「産婦の意思・希望の尊重」「仰臥位以外の体位のすすめ」「産痛緩和」「分娩直後の母子対面」は病院でも助産院でも8~9割実施していた。        
産褥・育児期のケアでは正常な褥婦・新生児における初回授乳の時期は「分娩後1時間以内」が助産院、医院、一般病院では多かったが、大学病院では「分娩翌日」が多い。新生児の補充栄養の「母乳のみ」は助産院が多い。「人工乳」の補充は一般病院と医院で顕著に多くみられた。子育て時に希望するサービスでは「夜間診療小児科リストの提供」「24時間電話相談」「育児相談ができる乳児健診」のニーズが高かった。施設の医療サービスに対する満足度は、入院中の褥婦、1ヶ月健診の褥婦ともに全体の約8割以上が「満足」したと回答した。しかし助産院では「満足」が95.7%と非常に多かったのに比しここでも、医院88%、一般病院80.9%、大学病院70.5%と高度な医療機関ほど「満足」の回答が減少した。
これらの結果から、施設別のサービスの実施状況と満足度について考察すると、助産所では9割以上とほとんどが「満足」であったが、高度な医療機関ほど「不満」の割合が高い。一方、WHOの出産ケアガイドによると、慣例的に実施されることが不適切とされている「浣腸」「剃毛」「会陰切開」「点滴」は助産院ではほとんど行われていないが、その他の施設では40-70%実施され、大学病院、一般病院、医院の順に実施率が高かった。浣腸は「つらい」「思い出したくない」、剃毛は「二度としたくない」「誤って切られとても痛かった」と多くの産婦が不快な処置であると感じている(「いいお産の日実行委員会」の1997年調査結果)。会陰切開は痛みが切開時だけでなく産後にも続き、点滴は体の自由が制限される。これらの不愉快な処置が実施されない助産院では、満足する産婦が多かった。しかしこうした処置がルチーンに実施されている可能性のある大学病院等の施設では、満足する人が少ない傾向にあった。この点については真にその処置が必要であったと考えられる人に行われたのか、そうでない対象に不適切に実施されたかどうか等、さらなる分析が必要である。
結論
以上の結果から妊娠・分娩・産褥・育児に関する医療サービスとケアの利用者側からの評価を行い、次の結論を得た。
1.妊娠・分娩に伴う処置、検査等に関するインフォームド・コンセントが概して不十分である。
2.正常妊産婦に対して不必要な慣例化した処置が実施されている。
3.妊産褥婦や新生児のリスクの程度に相応しない対応が行われている。
4.母子の希望する支援環境と退院後のフォローアップ・システムが不十分である。
5.母子に関連する情報の提供が不足している。

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