少子化についての専門的研究

文献情報

文献番号
199900319A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化についての専門的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
高野 陽(日本子ども家庭総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 浅子和美(一橋大学経済研究所)
  • 高野 陽(日本子ども家庭総合研究所)
  • 伊部英男(国際長寿センタ-)
  • 山中正和(連合総合生活開発研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の少子対策については、その緊急性とともに多角的な対策の確立が期待されている。特に、充実した子育て支援対策の確立の必要性が求められている。本研究班では、学際的な研究を目的として社会学、経済学、保健学、教育学的視点はいうまでもなく、国際比較や企業や勤労の立場での対応を追究する。
研究方法
各分担研究班の研究目的に対応して、それぞれに、アンケ-トまたは聴き取り調査、外国の研究者との共同研究等の研究方法を採用した。
結果と考察
研究と考察=各分担研究班の平成11年度の研究成果の概略を報告する。1.晩婚化・未婚化の要因をめぐる実証的研究(分担研究者:阿藤 誠)では若者の地域移動の観点から、「最も大切な友人」ができた時期が結婚年齢によって違いがあり、結婚年齢と友人関係の確立とが密接な関係が強いことを認め、現代の若年者は、自己の行動決定に対する意思は強く、周囲の圧力の軽減とその自由さが長期的視野に立った婚姻等の人生設計の確立には困難さをもたらしているとも考えられる。2.子育て支援策の効果に関する研究(分担研究者:浅子和美)では、就学前の子どもをもつ保護者を対象としたアンケ-ト調査「女性の就労と子育てに関する調査」を実施し、父親の育児参加については、少子時代の育児にとって非常に大きな意義があり、特に、母親の心身両面と育児機能面からも大きな支えとなっている。父親がよく育児参加をする場合、その妻(母親)の育児不安の解消に有意に貢献しており、父親の育児参加は、末子年齢が低いほど、フルタイム勤務の母親の場合に、母親の収入が家庭の収入に占める割合が大きいほど多いことを認めている。また、保育定員は保育利用と就労の向上にプラス面に作用しており、さらに、自治体の保育サ-ビスの供給能力は母親の就労意思の決定に影響を与えており、保育サ-ビスの問題解決は育児と就労の両面の問題解決に寄与するものといえる。子どもの年齢が小さいほど保育所利用の頻度が小さく、これは保育定員が少ないことや保育料が高いことも誘因であろうと考察している。3.社会環境が結婚・出産・育児に与える影響に関する研究(分担研究者:高野 陽)においては、直接育児負担解消の機能としての保育サ-ビスの量的及び質的向上と病児の保育の施設の設置の必要性、育児以外の生活全般の利便性を向上させる機能をもつサ-ビス、育児力向上ためには子どもの発育発達や健康に関する知識・情報提供サ-ビスの充実を求めており、地域ぐるみで支援する社会の構築の必要性、親個人に対する精神的サポ-ト、夫婦や家族関係・人生設計の問題解決等の多領域の専門的サポ-トなど多角的な支援方策の確立が期待されていることを認めた。4.少子化対策に関する国際比較研究(分担研究者:伊部英男)では、今年度はフランスに焦点をあて、同国の専門研究者と共同研究を行った。日本における今日の深刻な少子化問題を解決するための日本社会のあり方に関する理念を家族政策・税制・社会保障・雇用の各制度に具体化する新しいアプロ-チが必要であり、かつ実現可能な斬新的なポリシ-ミックス構想を確立することが有効である。例えば、保険料や扶養手当の負担や給付を個人単位での選択制にすること、と育児休業期間中の所得保障の引き上げ、家族基金の設立等をはじめとして、女性の結婚や出産育児の障害を抜本的に是正できるようにする体制の確立が必要であると結論付けた。5.少子社会に対する企業及び労働組合の意識と対応に関する調査研究(分担研究者:山中和正)で、子育て支援には経済的支援を最も
多くのものが希望し、さらに保育環境の整備も強く要望されている。また、職場に対しては退社時刻の定刻化を求めており、子育て中の父母への上司や同僚の配慮を望んでいることを示した。
結論
現代は、生まれた地域で一生を送ることや同じ地域で長く住み着くことに周囲からも圧料が翔られない状況にあり、情報化の進展により、かってのような地縁に基盤をおく地域社会の再構築は必ずしも必要ではなかろう。若年者が各自の意識のもとに生活設計の確立には産業と生活基盤の確保と社会保障のなどの複雑な施策の統合された体制が必要となり、ある程度の自由が許容される地域つくりが基本的に必要なろう。現代の独身者のなかで、結婚に積極的な意識をもつものでは、配偶者や親を大切にし、親の生き方や価値観を肯定的に受け止める傾向も認められることから、そのような意識が家庭や地域で育成される状態の確立が必要であるのではなかろうか。今日は、男女共同参加のもとに、雇用関係や家族内での差別感がなく、男女が気持ちよく共生できる価値規範に支えられた社会の確立が望まれる。家族支援は、直接的家庭支援も必要ではあるが、それぞれの親に対する個別的な支援も不可欠な条件となろう。保育サ-ビスで子育て支援対策の確立を図ることの重要性はいうまでもなく、子どもが健康で安全な生活の保障のもとに、保育や個人の生活支援などの基本的サ-ビスの確立などの公的・私的サ-ビスの充実をはじめとして、家族関係の問題解決等のきめ細かな個人的サ-ビスの確立が期待される。行政施策の方策としては、男女共同参画社会の形成を基盤とし、総合的・有機的な政策群(ポリシ-・ミックス)を構築することによって初めて継続的な有効な効果が期待できる。

公開日・更新日

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