諸外国における保育制度の現状及び課題に関する研究

文献情報

文献番号
199900317A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国における保育制度の現状及び課題に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
網野 武博(上智大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,675,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
就学前児童のケアのあり方は、子育て支援ニーズへの対応、保育所と幼稚園の関係、地方分権化等多くの重要課題を抱えており、サービス実施方法、形態、内容ともに大きく転換期を迎えている。我が国においては長い間、就学前児童のケアは家庭及び保育所と幼稚園の三者で分担されてきたが、保育システムの改革とともに「子ども」と「家庭」にとって、ふさわしい就学前児童のケアとはどのようなものであるのかを検討する時期にあるといえる。現在、我が国における就学前児童のケアについては、育児と仕事の両立支援策の中心的な対応として保育所を中心とした「保育サービス」の整備という視点からの取り組みが主流となっている。しかし、諸外国においては、保育(ケア)と教育(エデュケーション)の連携が政策の見直し事項として具体化している動きも見られている。
本研究では、0~5歳児(一部6歳児)を「就学前児童」として包括的に捉え、今後の少子社会における子育て・子育ち(健全育成)の社会的サポートのあり方を検討するため、就学前児童への社会的関わりが諸外国においてどのように実施されているのかを保育制度・幼児教育制度がどのように考えられているかという視点から捉え、我が国における今後の就学前児童ケアの方向性、そして保育制度・幼児教育制度の考え方について考察することを目的とする。
研究方法
今年度は昨年度に引き続き研究協力者ごとに対象国の分担に従い、各国の保育制度についての現状を概観し、文献及び資料を通して基本的項目(保育の場所、根拠法、配置基準、専門職等)について現状把握をおこなった。対象としたのは、アメリカ合衆国(以下、アメリカ)、カナダ、ドイツ連邦共和国(以下、ドイツ)、連合王国(以下、イギリス)、フランス共和国(以下、フランス)、スウェーデン王国(以下、スウェーデン)、ニュージーランドの7か国である。最新文献の収集をベースとしたが、いくつかの国については現地調査員による訪問調査または質問紙調査を用いた事例資料の収集を行い、その成果をまとめた。(別表参照)
結果と考察
アメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、フランス、スウェーデン、ニュージーランドの保育制度の結果一覧は表の通りである。
○いずれの国も保育政策の重要性は高く認識されている。家族政策的及び労働政策の視点も関わった総合的な社会サービスとして位置づけられている。
○就学前児童に対する関わりは、その国の歴史や伝統に強く根ざしたものであると共に、今日の政党の動静、政策展開等が関わっており、保育・幼児教育サービスの実施については、政策立案の視点から、その動向を捉える必要がある。
○全体として「就労支援の一環として子どもを持つ家庭のウェルビーイングを目指す」タイプ、「教育との連携による就前児童ケア」タイプ、「ミックスタイプ」の三つにまとめることができる。
○本研究の意義として、直近の情報を収集するという点が挙げられるが、スウェーデンの保育サービスが学校庁所管となり(1996)、それに伴う根拠法の整備が1998年に完了した。イギリスも労働党政権になったことに関連し、同様に雇用・教育省の管轄(1997)となった。これらの「福祉所管→教育所管」の動きはEU等欧州全体の方向性とも関連しており、これらの国の動向とともに、EU全体の動向にも注目する必要がある。
○保育サービスに対する量的整備の考え方は、女性の就労状況に大きく左右されており、女性就労率の高い国々においては、低年齢児の託児には保育的(保健的)な視点をより強く打ち出し、幼児の託児には教育的な視点を強く打ち出した保育を行っているという視点が共通しており、その名称や場所、利用方法等は多様である。
各国保育制度の特徴
アメリカ
就労支援としての保育
貧困対策としての保育
自由契約としての保育
州ごとの多様な保育制度
カナダ
低所得家庭への保育による支援
中流階層家庭への教育支援的保育
家庭的保育を中心としたサービス
州ごとの多様な保育制度
ドイツ
学童期までの総合的保育
3歳以上の就園権
州ごとの多様な保育制度
保育者の多様な資格
イギリス
就学前児童ケアの教育所管への一元化
福祉的対応としての保育
民間主体の保育
多様な保育サービスの形態
フランス
特有スタイルの幼保一元化と保健重視
2歳児からの就園
家庭的保育者の個人事業化
乳幼児手当による保育サービスの利用
スウェーデン
就学前児童ケアの教育所管への一元化
家庭育児との連動
家庭的な園舎建築と保育スタイル
保育所単位の運営責任方式の導入による効率化の促進
ニュージーランド
就学前児童ケアの教育所管への一元化
疑似バウチャー 制度
親教育・家庭支援の改革
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(出典)平成10年度厚生科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告書5/6、P425を加筆修正
結論
今回の諸外国の調査を通じてとくに確かめられたことは、子育て支援としての保育の重要性である。我が国における保育所改革は著しい動きを見せている。エンゼルプランの策定以降、特別保育事業を中心として、地域の社会資源として拡がりを見せている。保育所は長い間、働く母親を持つ子どもの福祉を保障することを目的に整備されてきたが、これは働く親への支援と子どもの育ちと双方の生活に大きく貢献してきた。しかし、昨今の保育制度改革での動向を見ると、主に就労している家庭の子ども(いわゆる「保育に欠ける」子ども)を対象としてきた保育所のサービスを見直す背景には、すべての子どもに保育サービスが必要であるとの認識があると言える。また、保育所による集団保育サービスだけでなく、家庭的保育サービスの重要性が子どもの発達・成長の視点からもその重要性が指摘されるなど、形態や方法も様々になってきており、多様な保育サービスの萌芽がみられる。これを牽引しているものの一つには、働く親への支援という視点からのサービス提供があり、労働省の育児休業制度やファミリーサポートセンター事業といった公的政策もそれと関連している。この二つの方向からの子育て支援が、我が国の子育て家庭のニーズに合致する方向へと充実していくためには、国として、社会としての一つの可能な限りの合意を伴うトータルな理念型を有することが求められている。つまり、共通理念のもとに、それを達成・実現していくために多方面からのアプローチが効果を発揮するということの重要性が、諸外国の文献調査から読みとれる。今、児童福祉から子ども家庭福祉という政策的な転換の過渡期にあると言われるが、それを実質的なものとして充実していくためにも、保育サービスを含む就学前児童へのケアのあり方の理念や方針を総合的に確立していくことが重要である。
子育て支援が、国として、社会としての一つの可能な限りの合意を伴うトータルな理念型を持つということは、女性の就労支援だけに止まらず、よりよい家庭生活の充実がすべての国民の基盤として確保されるためにすべての国民に必要なサービスとして位置づけられたという合意を形成することが必要であるということでもある。また、サービスの直接的な受け手である子どもたち自身の育ちをできるだけ良好な環境として整備することの必要性についても合意形成することが求められる。
それらの合意がある程度達成されることにより、就学前児童に対する社会的支援サービスの再構築・再編成を行い、保育所と幼稚園の経営・運営的視点からだけではない「幼保問題」の見直しを行うことが可能となるだろう。たとえばサービスを「子どもの年齢」という視点で統合することもその一つである。その場合、各ステージ(子どもの成長・発達状況、障害の状況等)において、必要とされるサービスに求められる質的条件を整備するという試みが必要とされる。
具体的なサービス形態については、今後も検討が必要であるが、諸外国の例を参考としてみると、たとえばフランスのように年齢による一元型サービスを志向していくことも、有力な可能性として示唆できる。
いずれにしても、諸外国の動きを参考にすると、現在の我が国における就学前ケアの体系は見直しが求められており、それが国民生活の実態、利用者のニーズ、これからの子どもの養育環境すべてにとって必要なことではないかと考えられる。

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