川崎病のサーベイランスとその治療法に関する研究

文献情報

文献番号
199900316A
報告書区分
総括
研究課題名
川崎病のサーベイランスとその治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
原田 研介(日本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生)
  • 柳川 洋(埼玉県立大学)
  • 加藤裕久(久留米大学医学部)
  • 古川 漸(山口大学医学部)
  • 薗部友良(日本赤十字社医療センター)
  • 直江史郎(東邦大学大橋病院、病院病理学)
  • 川崎富作(日本川崎病研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の川崎病の疫学像を明らかにする目的で、1970年以来合計15回の川崎病全国調査を実施してきた。この研究によって患者の発生状況を知り、効果的な治療法の研究を行うことは、医療費の削減へ繋がり、小児の健康維持、増進に寄与する事が期待される。今年度は、1997年1月~1998年12月の2年間の患者を対象に行われた第15回全国調査を集計し、本疾患の現在の疫学特性を明らかにしたほか、以下の研究を追加した。
急性期の検査所見を全国規模で調査し、急性期の心後遺症の発生との関係を検討した。
急性期の心障害の実態や時期との関係を明らかにする目的で、今回から全国調査において、心障害を発症1ヶ月以内の急性期とそれ以降の後遺症期とに分けて調査した。
第14回全国調査の成績をもとに、心後遺症に関する1年後の状況、1年後の予後に影響を及ぼす要因を明らかにする目的で調査を行い、1か月後、1年後の心後遺症の頻度、性・年齢分布、心後遺症に影響を及ぼす要因を明らかにした。
中国における川崎病の疫学像の一端を明らかにする目的で、江蘇省および陜西省における川崎病の疫学調査成績を行い、日本における疫学像と比較検討した。
全国調査に報告された患者の長期予後を明らかにする目的で、協力52施設の受診者の内、一定の要件を満たした患者全てを追跡し、生死の確認を行った。
川崎病急性期における好中球の動態と、冠状動脈炎の存在や病変の強弱との関係を病理学的に検討した。 
サイトカインの転写因子NF-κBの川崎病における動態を明らかにする。
川崎病血管炎の長期後遺症として動脈硬化への進展の可能性を検討する目的で、遠隔期冠状動脈病変の壁構造や内腔の性状の変化を検討した。
研究方法
2年間の調査期間に小児科を併設する100床以上の全病院、および小児科のみを標榜する100床未満の専門病院計2,663施設を受診した川崎病初診患者を対象にした。
第15回全国調査では報告される各患者について、入院時の末梢血白血球数と好中球数および百分率、ヘマトクリット(Ht)値を調査し、各検査結果の度数分布と冠動脈障害合併率(CAL)を比較した。
急性期の心障害に関して、1ヶ月以内の急性期と1ヶ月以降の後遺症期に分けて、それぞれについて心障害なし、巨大瘤,瘤,拡大,狭窄,心筋梗塞,弁膜病変につき該当する項目を求めた。また第14回全国調査の後遺症期における心障害の結果との比較、免疫グロブリン治療開始病日、使用総量と心障害の出現についても検討した。 
1年後の心後遺症の状況は、第14回全国調査で報告された全患者1,594人(全国報告患者数6,424人の24.8%)を対象として、各施設に1年後の受診状況、心エコー所見、冠動脈造影の実施の有無、初診時の血小板値と血清アルブミン値、ガンマグロブリン総投与量、開始病日、1か月後の心後遺症の有無などを調査し、1年後の情報と合わせて解析し、1か月後と1年後の比較を行った。
中国における川崎病の疫学像調査対象地区として経済発展地域(江蘇省)、内陸の発展途上地域(陜西省)の2か所を選定し、調査票の発送と回収を行ない、日本で実施している調査項目の一部を調査した。
予後に関する調査では、1982年7月~1994年末日に報告された患者について52の医療機関の協力により、1997年末日までの予後追跡を行った。
川崎病急性期に死亡した11剖検例の冠状動脈病変組織を用いた。通常の光顕的観察に加えて、好中球の指標として酵素組織学的検索を行った。また免疫組織学的染色を加え、症例ごとの陽性細胞の動態を観察した。
転写因子NF-κBの動態と免疫グロブリン療法の効果を調べるため、 10名を対象として、ウェスタンブロット法とフローサイトメトリー法を用い、CD3+T細胞とCD14+単球/マクロファージ細胞におけるNF-κB活性化を解析した。
遠隔期冠状動脈に対して、アセチルコリンやニトロールを冠動脈内に注入し、その前後の選択的冠状動脈造影による血管径の変化率で内皮機能を評価し、血管内超音波法により壁構造や内腔の性状の変化を検討した。
結果と考察
第15回川崎病全国調査で回答のあった1,825施設中、1,071施設から1997年は6,373人、1998年は6,593人、計12,966人の患者の報告があった。2年間平均の罹患率は、0-4歳人口10万対年間109.8(男123.8、女95.1)であった。患者数の性比は1.37、罹患率の性比は1.30で男が多かった。過去14回の報告とあわせると1998年12月末までの患者数は、合計153,803人(男89,272人,女64,531人)になった。
ここ数年患者数は6,000人を越え、ゆるやかに増加傾向を示している。罹患率の年次推移は増加傾向が持続し、1998年には111.7となった。1986年の3回目の大流行以後は、5歳未満の小児の減少にも関わらず、患者数は増加傾向を示している。
1979年、1982年、1986年の3回にわたる流行以来、現在までに全国レベルの明らかな異常増加または流行の兆候は見られないが、1997年から98年にかけては関東、近畿、四国地方の広い地域に明らかな患者発生の増加がみられた。全国的な流行はみられないものの局地的な流行があると推測される。
ガンマグロブリン療法を受けた者は84.0%(男84.6%、女83.2%)を占めていた。ガンマグロブリンの1日あたりの投与量は、301-400mg/kgの者が最も多く、投与期間は5日の者が最も多かったが、前回に比べて1日大量投与が増加した。
死亡例は2年間に11人(男10人、女1人)報告され0.08%を占めていた。性別にみると、男が圧倒的に多く、年齢別にみると、0-11か月が0.16%で最も高かった。
患者の初診日は第4病日が最も多く、2歳未満の児が早く受診する傾向を示した。
急性期の検査所見に関する検討では、白血球数と好中球数増加、Ht低値は心障害の危険因子であると考えられた。
急性期の心障害に関する検討は、発病後1か月以内に出現した急性期の心障害と1か月以降も残存する後遺症にわけて調査を実施した。心障害例(急性期)は、20.1%(男22.0%、女17.6%)、心障害例(後遺症)は7.0%(男8.2%、女5.5%)に発生し、後遺症期の心障害発生頻度は急性期の約35%に減少していた。第14回調査成績に比して後遺症期心障害発生頻度が約60%に減少していた。
1年後の心後遺症の状況については、 第14回全国調査で報告された1,594人中1,337人(83.9%)について回答が得られ、1か月後、1年後の心後遺症ありの頻度はそれぞれ、10.2%、4.2%であった。ともに男が女に比べて多く、年齢別では、1歳未満と5歳以上が1~4歳に比べて高い傾向を示した。1か月後、1年後ともに急性期の血清アルブミン値、血小板値が低い群で頻度の高い傾向が観察された。
中国における川崎病の疫学研究では、江蘇省197病院、陜西省150病院を対象に調査を行い、年間の川崎病入院患者数はそれぞれ509人および347人、罹患率は江蘇省1.85、陜西省2.16(5歳未満の人口10万対年間)で、日本と同様に罹患率の増加傾向が観察された。心後遺症の発生率は、13.6%(江蘇省)および19%(陜西省)であった。致命率は江蘇省0.4%、陜西省は1%であった。初診病日は4~7 日が多かった。江蘇、陜西両省の川崎病罹患率は日本の約50分の1であるが、主要な後天性心疾患として、徐々に認識されてきている。日本の疫学像と比べて共通点が多くみられた。
川崎病罹患者の予後追跡では、川崎病急性期の死亡率は人口動態統計から求めた一般人の死亡率よりも高く、急性期以降の死亡率は、心後遺症がない群では上昇していなかったが、心後遺症群では、特に男で死亡率の上昇が認められた。
川崎病血管炎の形態学的研究では、冠状動脈に強い好中球浸潤を認め、血管病変局所に出現する好中球は10病日を最多としていたことから、早期の動脈障害への好中球の関与が考えられた。
CD3+T細胞とCD14+単球/マクロファージ細胞とも急性期は回復期に比してサイトカインの転写因子NF-κBの活性化が認められた。免疫グロブリン療法(1g/kg×2日間)により、CD14+細胞のNF-κB活性化率は有意に低下し、同法が有効である一つの機序としてNF-κB活性化抑制作用が示唆された。
遠隔期の冠状動脈病変は、消退した例においても血管内皮機能の低下がみられ、血管内超音波により描出された壁構造は、内膜の肥厚を認めた。これらの所見は成人の動脈硬化の初期像に類似している。
結論
第14回および第15回全国調査の結果をもとに、川崎病の疫学と治療に関する多くの研究が行われた。小児の減少にも関わらず、患者数は増加傾向を示しており、罹患率は増加し続けている。本症のサーベイランスは貴重なものであり、今後さらに続くことが期待される。

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