被虐待児童の処遇及び対応に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199900315A
報告書区分
総括
研究課題名
被虐待児童の処遇及び対応に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
庄司 順一(日本子ども家庭総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 庄司順一(日本子ども家庭総合研究所)
  • 奥山眞紀子(埼玉県立小児医療センター)
  • 柏女霊峰(淑徳大学)
  • 高橋重宏(日本社会事業大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子ども虐待(児童虐待)の相談件数はなお増加しつつあり、しかも、その処遇は大変困難で、児童相談所等においても苦慮することが多い。本研究事業においては、昨年度に引き続き、以下の研究課題等に対して分担研究班を組織し、被虐待児の処遇および対応のあり方について、総合的な検討を行った。
研究方法
福祉心理学、小児精神医学、子ども家庭福祉等の領域の専門家からなる4つの分担研究班を組織し、文献研究、質問紙調査、事例の分析等の調査研究を行った。
結果と考察
分担研究1:被虐待児への総合的支援計画に関する研究(Ⅱ)
1)乳児院における被虐待児の実態と対応に関する研究
乳児院における被虐待児の心身の状態、対応の実態と課題を詳細に検討するために、全国の乳児院114施設を平成10年度に退所した子どもを対象に調査を行った。各乳児院に調査票を郵送で配布、回収した。80施設(有効回答施設は70.2%)から380票の有効回答を得た。当該年度に当該施設を退所した子どもは1,979名であり、380名は19.2%にあたる。これらの被虐待児について、虐待のタイプなどを分析するとともに、虐待の背景要因(子ども側の要因と家庭の状況)、乳児院入所後にみられた心身の問題、養育にあたっての留意点、退所時にみられた子どもの身体的、心理行動的問題、父母とのかかわり、支援の状況、関係機関との連携などについて検討を行った。
2)資料:カリフォルニア州子ども虐待・ネグレクト通告法の紹介
通告制度のあり方に関して、アメリカ・カリフォルニア州の「子ども虐待・ネグレクト通告法」に関する冊子の一部を翻訳、紹介し、資料として付した。
分担研究2:被虐待児の精神的問題に関する研究
1)被虐待児のトラウマ反応と解離症状に関する研究
被虐待児の精神的問題の中核にあると考えられるトラウマ反応と解離症状を明らかにするために、6カ所の児童養護施設に入所している児童179名を対象に、TSCC(トラウマ症状チェックリスト)とCDC(子どもの解離症状に関するチェックリスト)、虐待体験の有無に関する調査票の3種類の質問紙を実施し、統計学的に検討を行った。179名のうち、何らかの虐待を受けていたものが79.3%いた。CDCの得点は虐待群で有意に高かった。これらのことから、解離性障害に至っている子どもも少なくないこと、被虐待児の症状とその治療を考えるときには解離症状は重要なポイントとなることが示唆された。
2)性的虐待・性被害への対応プロセスに関する基礎的研究
昨年度実施した性的虐待に関する調査で検討された39例について、今年度はより詳しい事例検討を行い、対応プロセス上の問題点を検討した。その結果、現時点では、早期発見につながる子どものサインを明らかにし、アセスメントの方法を確立することがもっとも重要であると考えられた。
3)被性的虐待児への面接方法に関する研究(北米での例を中心に)
性的虐待の対応に関する先進国といえる北米での面接法について文献的に検討を行った。その結果、子どもへの面接が大切であり、その技法の習得が重要なポイントになることが明らかとなった。
分担研究3:児童相談所における被虐待児童処遇のあり方に関する研究(Ⅱ)
1)児童相談所における児童虐待への取り組みの実態
全国174の児童相談所を対象に、厚生省と共同で平成10年度に実施した「児童虐待に対する児童相談所の取り組みの実態」に関する調査(所票調査、概要は厚生省から報告済み)についてさらに詳細な分析を行った。
2)児童相談所における被虐待児童処遇のあり方について-事例調査を通じて-
平成10年度に報告した「児童相談所における被虐待児童に対する処遇実態調査(事例調査)」のクロス分析及び検定等を行い、ケース処遇を困難にする要因や困難度、専門職員の関わり、関係機関・施設との連携、児童相談所内のチームワーク形成の特徴について検討を行った。
3)児童相談所における被虐待児童処遇のあり方について-処遇困難事例に関する質問紙及びヒアリング調査を通じて-
対応に苦慮した虐待事例について事例研究を行い、児童相談所内の体制、関係機関とのネットワーク、担当者の職務状況、とくに時間的・心理的負担についてヒアリングを実施し、虐待事例におけるより詳細な連携状況や処遇上職員が感じている点について分析を深め、現状と今後の課題を考察することを目的に調査を行った。全国の児童相談所のうち、20カ所を選定し、平成10年度に受理した児童虐待事例のうち、当該年度中に一時保護したものから、あらかじめ設定した条件を満たす事例を各所1事例選定してもらった。調査の結果、担当者は、いずれの事例でも、時間的・心理的負担を感じており、人員の絶対数の不足からくる担当ケースの多さに加え、関係機関との連絡調整に多くの時間を費やしていること、保護者の同意取り付けや引き取り要求への対応の過程でストレスを受けていることなどが明らかとなった。
分担研究4:子ども虐待・ネグレクトリスクマネージメントモデルの作成に関する研究
これまでの研究成果をふまえ、今年度は、「日本版子ども虐待・ネグレクト・リスク・アセスメント・モデル」の作成と、最近改訂された「オンタリオ州における子ども保護のためのリスク・アセスメント・モデル:1999年改訂版」等の翻訳を行った。「日本版子ども虐待・ネグレクト・リスク・アセスメント・モデル」に関しては、子どもの一時保護の要否判定を行う際に役立つリスク・アセスメント・モデルの策定に焦点をあてた。このようなリスク・アセスメントを行うことにより、情報収集を綿密に行うことと、速やかに判断することとのバランスについても、的確な判断が可能になると考えられた。
結論
本年度、本研究班で実施した研究は、虐待のタイプでみれば、虐待全般とともに、性的虐待・性被害を取り上げ、機関でみれば、児童相談所、児童養護施設、乳児院を取り上げ、また研究方法でみれば、文献研究(とくに北米の諸資料の検討)、質問紙調査、ヒアリング調査、事例研究を取り上げ、研究の方向性からみれば、臨床研究とともに制度研究を含む、総合的な研究であった。しかし、残された課題も少なくない。次年度は最終年度であるので、研究を継続発展させるとともに、これまでの知見を集約して被虐待児童の処遇および対応について提言したい。

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