母子保健情報の登録・評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900314A
報告書区分
総括
研究課題名
母子保健情報の登録・評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 正義(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 柳澤正義(東京大学大学院医学系研究科)
  • 山縣然太朗(山梨医科大学)
  • 加藤忠明(日本こども家庭総合研究所)
  • 青木菊麿(女子栄養大学)
  • 中村敬(日本こども家庭総合研究所)
  • 田中敏章(国立小児病院小児医療研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各種母子保健情報が、国、地方自治体あるいは研究者によって有効に活用されるためには、適切な登録、管理、評価のシステムの構築が必要である。そのような観点から、以下の分担研究課題が設定された。1.各種母子保健・医療情報の集積・活用に関する研究(分担研究者 柳澤正義、山縣然太朗)本研究の全体像は1)既存情報の整理、2)既存情報の質的評価、3)既存情報の必要性の検討、4)既存情報の有効活用、高度利用に関する検討、5)情報の収集と活用のシステム構築、の5項目に集約される。2.小児慢性特定疾患の登録・管理・評価に関する研究(分担研究者 加藤忠明)。小慢疾患の治療・療育支援および研究を促進するために、疾患の登録・管理をコンピュータを用いて効率的に行い、国、地方自治体および研究者にその情報を適切に提供するシステムの構築について検討することを目的とする。3.マス・スクリーニングで発見された症例の追跡調査に関する研究(分担研究者 青木菊麿)新生児マス・スクリーニングで発見された症例の追跡調査は、スクリーニングを様々な立場から評価する上で極めて重要であり、小慢疾患の登録・集計とリンクさせることによって、より効果的な追跡調査のシステムの構築を検討する。4.「心身障害研究・子ども家庭総合研究報告書」のデータベース化に関する研究(分担研究者 中村 敬)。過去の厚生省心身障害研究および平成10年度以降の厚生科学研究子ども家庭総合研究の成果が永久保存され広く社会で活用されるように、報告書のデータベース化の技術的方法論の確立を目的とする。5.成長ホルモン治療の現状と評価に関する研究(分担研究者 田中敏章)。平成10年2月から小慢事業における成長ホルモン治療の適応基準が変更されたことから、実際に成長ホルモン治療がどのように変化したかを把握することは行政上の評価として必要であり、今後の公費負担基準の検討のための基礎的資料を得ることを目的とする。以上のうち、1.は平成11年度から開始され、2.~ 5.は平成10年度からの継続研究である。
研究方法
分担研究 1.本年度は既存の母子保健・医療情報の洗い出しと整理を行った。情報を、小児臨床、母性・周産、小児保健、学校保健、障害・福祉に5分類し、研究協力者が分担して情報を収集し、研究班で作成したデータベースフォーマットに入力した。分担研究2.平成10年度小慢事業に関して全国の都道府県・指定都市・中核市から厚生省にコンピュータソフトによって報告された医療意見書について、その内容を集計、解析した。この集計には、プライバシー保護のため、患者の氏名、生年月日、医療機関名、医療意見書記載年月日は自動的に削除されている。他の全国調査と比較しながら、解析結果の妥当性の検討、疫学的考察を行った。また、集計結果の不備や問題点を改善する方策を模索した。分担研究3.「小児慢性特定疾患の登録・管理・評価に関する研究」で得られた資料から新生児マス・スクリーニングで発見されうる6疾患についてのデータを解析した。分担研究4.すでに印刷された報告書が対象になる過去の心身障害研究報告書と、各研究者から報告書を電子データとして収集可能な平成10年度以降の子ども家庭総合研究の報告書の2分野に分けて検討した。分担研究5.小慢事業における成長ホルモン適応基準変更前後における成長ホルモン治療状況の変化を成長科学協会成長ホルモン治療専門委員会のデータを基に検討した。また基準の変更ついて主治医に対してアンケー
ト調査を行った。
結果と考察
分担研究1.現在までに、政府各省庁・都道府県の基本統計、政府各省庁・都道府県・研究所などの調査研究報告書、厚生省の母子保健事業、研究班・学会・科学研究費などの研究報告書、審議会・プロジェクト等の報告書、民間研究所などの調査研究報告書、個人の調査研究、自治体の母子保健事業など、約2,000の情報・データを集約・記録した。次年度以降、集約した情報について、調査主体に必要データを照会し、データベースを完成させ、さらにこれらの情報について質的評価を行う。分担研究2.平成10年度の医療意見書について、全国80か所の都道府県・指定都市・中核市のうち、厚生省に平成11年12月末までにコンピュータソフトによる報告のあった56自治体からの医療意見書69,588名分の内容を集計・解析した。平成10年度登録者数は平成9年度に比べ多くの都道府県等で減少の傾向がみられたが、極端に減少した地域に関してはコンピュータ入出力上に問題があったと推測された。今後コンピュータソフトを改良し、問題の発生を防止する必要がある。10疾患群それぞれについて、疾患の頻度、主な疾患の地域別頻度、男女別頻度、診断時年齢、発病年齢、主な症候・検査結果、合併症の有無、経過などを解析した。次年度は平成10年度の集計を完成させたうえで、平成11年度のデータを集計・解析する。これまでの結果に基づいて、医療意見書の一部修正、コンピュータソフトの改良、患児(保護者)から得る同意書のあり方、情報公開のあり方を検討する。分担研究3.先天性代謝異常について、小慢で登録された症例数はこれまで厚生省や母子愛育会が報告してきた症例数よりも少ないが、これは現時点で全自治体からの報告が網羅されていないためと思われる。空欄のままで集計されている調査項目があり、特にマス・スクリーニングで発見されたか否かについて未記入例が多く、意見書のフォーマットの改良が必要と思われた。知能障害を伴う例、合併症を伴う例、死亡例の把握のため個別の追跡調査が必要と考えられた。甲状腺機能低下症について関連した病名コードの整理が必要である。小慢の登録・集計からはある程度の数値の把握は可能であるが、個別の追跡調査に必要なデータを得ることは困難で、これまで心身障害研究に使用してきた追跡調査用紙を添付してもらうことにより追跡が実質的に可能になると考えられる。追跡調査に必要な情報の収集にはプライバシー保護と相反する問題が存在する。分担研究4.本年度は、昭和50年度から平成9年度までの22年分の心身障害研究報告書を解体し、ページごとにイメージスキャナで画像として取り込む方法で電子化を行い、年度ごとにCDに収録した。タイトル、著者、見出し語、要約をテキスト文字にして切り出し、検索の対象とした。なお、昭和49年以前の報告書は状態が悪く、対象から除外せざるを得なかった。平成10年度の子ども家庭総合研究報告書は電子データで収集し、PDFファイルに変換してデータベース化を試みたが、各報告書は様々なソフトで作成されており、かなりの部分のテキスト化が不能で、イメージファイルとして取り込み電子化を行った。来年度の課題は毎年提出される報告書が継続的に電子化されるための事業化の方向を探ること、報告書電子データを広くインターネットを通じて提供する方法の確立、マッキントッシュ版の発行の検討である。分担研究5.成長科学協会に登録された新規の成長ホルモン分泌不全性低身長症の患者数は、以前に比べ半数以下に減少した。継続患者も平成11年は平成9年より約6,000名減少しており、適応基準変更の影響が明らかであった。終了基準の身長を超えた症例のうち約20%は自己負担による治療を継続しているが、約80%は治療を中止または終了しており、そのうち約40%が経済的理由を挙げていた。主治医に対するアンケートでは、治療終了基準の見直しを求める声が約7割の主治医から出された。
結論
5つの分担研究それぞれについて、最終年度である次年度の研究につなげることのできる 所期の成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-