乳幼児死亡率改善のための研究

文献情報

文献番号
199900313A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児死亡率改善のための研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
澤口 彰子(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 仁志田博司(東京女子医科大学)
  • 高嶋幸男(国立精神神経センター)
  • 澤口聡子(東京女子医科大学)
  • 戸苅創(名古屋市立大学)
  • 中川聡(国立小児病院)
  • 藤田利治(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳幼児の死亡原因に大きな割合を占める乳幼児突然死症候群(SIDS)の研究を通じ、本邦の乳幼児死亡率を改善する。
研究方法
乳幼児死亡率の改善に、主要疾患SIDSの病因解明、予防、社会的対応(啓蒙)、行政的対応の4つの側面から取り組む。同時に、SIDSを含む乳幼児死亡率の疫学的動向を把握。病因解明について、これまで疫学的生理学的病理学的に個別に研究されてきたが、本研究班ではこれらの各分野の統合を図り更に分子生物学的な側面からアプローチ。
1)病理学的研究と生理学的研究の統合:ベルギーブリュッセル自由大学において生理学的にプロスペクテイブに解析されたSIDS事例及びコントロール事例について、レトロスペクテイブに病理組織ブロックを収集した。事例毎に睡眠時無呼吸の長さと頻度に関する生理学的データと、低酸素の指標であるGFAP陽性アストロサイトを覚醒経路において定量化した病理学的データとを結びあわせ、相関分析及び分散共分散分析を施行。
2)疫学的研究と病理学的研究の統合:SIDSのリスク因子とされるうつぶせ寝とSIDS児脳幹のグリオーシス・カテコラミン作動性神経の低下との関係を解析。
3)疫学的研究と生理学的研究の統合:SIDSの病因仮説として覚醒反応不全説が有力視されるが,SIDSのリスク因子とされるうつぶせ寝と覚醒反応の関係について把握する為,Suckometerの機能を備えたおしゃぶりにより心拍変動をスペクトル解析し、体位による自律神経賦活化の状態を解析。
4)疫学的研究・生理学的研究・病理学的研究の統合:前述のベルギーブリュッセル大学におけるSIDS事例及び対照事例について、うつぶせ寝かどうかに関する情報を収集。事例毎に睡眠時無呼吸の長さと頻度に関する生理学的データと、低酸素の指標であるGFAP陽性アストロサイトを覚醒経路において定量化した病理学的データとを結びあわせ、うつぶせ寝かどうかという点を考慮して、分散共分散分析を施行。
5)分子生物学的アプローチ:SIDS児と年齢一致コントロール児の大脳皮質について、DNAの二次元電気泳動法であるRestriction Landmark Genomic Scanning (RLGS)法を行い、SIDS児に共通するspotからspot cloning法を行うことで、SIDS責任遺伝子検索を検討。予防について、アメリカにおける大規模モニタリング研究の日本における評価、新しいモニタリング法として非侵襲的なもの及びおしゃぶりによるものを開発。
社会的対応(啓蒙)について、日本のSIDS防止キャンペーンの効果を諸外国と比較。
行政的対応について、SIDSの訴訟動向の日米比較、行政解剖制度の全国展開の基礎データとして監察医務制度の医療経済評価の日米比較を施行。
結果と考察
1)病因解明
1-1、病理学的研究と生理学的研究の統合:睡眠児無呼吸のデータと低酸素を示唆する病理学的データについて延髄呼吸関連部位あるいは覚醒経路に有意な相関を見い出したが、SIDSであることによっての二重相関は認められなかった。SIDSの無呼吸仮説、覚醒不全説を積極的に指示する結果は得られなかった。
1-2、疫学的研究と病理学的研究の統合:体位により低酸素性グリオーシス、カテコラミン作動性神経の低下に有意差はなかった。病理学的にうつぶせ寝をリスクとして裏付けられなかった。
1-3、疫学的研究と生理学的研究の統合:方法論を確立。
1-4、疫学的研究・生理学的研究・病理学的研究の統合:うつぶせ寝は閉塞性無呼吸の長さと中枢性無呼吸の頻度に有意に影響すること、うつぶせ寝と中脳背側縫線核のGFAP陽性reactive astrocyte数は閉塞性無呼吸の長さに有意に影響すること(p<0.01)が示された。この結果は、覚醒経路の低酸素負荷に対するfragilityを間接的に反映する。
1-5、分子生物学的アプローチ:SIDS児non-SIDS児間のスポット一致率は98.12%であり、ヒトの平均スポット一致率が99.07%であることと比較すると、SIDS児non-SIDS児間のスポット一致率は低率であることが確認された。SIDS児のみにみられるスポット出現率は1.19%、non-SIDS児のみにみられるスポット出現率は0.6%であった。以上よりRLGS法により複数のSIDS児に共通して出現し、nonSIDS児には出現しないSIDS特異スポットを探索できる可能性を確認。これらのSIDS特異スポットを打抜き、スポットクローニング法に持ち込むことによりSIDSに特異的な責任遺伝子のクローニング可能。
2)予防:
2-1、アメリカにおけるcollaborative home infant monitoring evaluation (CHIME)は呼吸心拍の解析方法として優れ、SIDSのハイリスク群において無呼吸を捉えることが可能。
2-2、非侵襲性モニタリング法としてベッドの上に寝かせるだけで呼吸信号を捕える可能性を確認。Suckometerの機能を備えたおしゃぶりによって自律神経系機能を把握できる可能性を確認。
3)社会的対応(啓蒙):日本のSIDSキャンペーン後、SIDS発症率は下がり、神奈川県においてはうつぶせ寝の割合が減っている。
4)行政的対応:日米のSIDS訴訟の傾向には差違があり、日本では保育所や病院においてSIDSか窒息かを争点とする事例が殆どであるのに対し、アメリカでは家庭において虐待かSIDSかを争点とする事例が大半。日本の監察医制度下における解剖に関するコストはアメリカアルカンザスによるそれよりもはるかに低額。
5)疫学(乳幼児死亡率の経時的推移):乳児死亡率は経時的に一様に改善したのではなく、様々な要因が貢献した結果である。
結論
SIDSの過去の病因仮説に関する病理学的生理学的疫学的検証結果は部分的に肯定的であったにすぎない。SIDSの予防面に関して方法論を確立検討中。日本のSIDSキャンペーンはある程度有効であったが、SIDS訴訟その他解剖に関する行政的対応については日本と欧米とは大きく相違している。日本においては,法曹・検察・警察関係者に対するSIDSの啓蒙教育が重要である。

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