小児の事故とその防止に関する研究

文献情報

文献番号
199900312A
報告書区分
総括
研究課題名
小児の事故とその防止に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 衞藤隆(東京大学)
  • 浅井聡(日本大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子化対策に適合する母子保健対策のひとつとして、小児の事故防止に関する具体的方法を開発し広く啓発することで、子どもの安全に関する社会の認識を高め、先進諸国に比べて高率であるわが国の小児の不慮の事故による死亡率を低下させる。
研究方法
研究班は、主任研究者の田中、分担研究者の衛藤、浅井によって構成されている。田中班においては、昨年度の基礎的研究によって明らかになった小児事故の特性を踏まえて事故防止マニュアルを作成し、それを活用して健診時や保育園を起点とした事故防止対策を確立する。同時に、県レベルでの事故防止事業の検討を行う。また、わが国の小児事故の現状を把握し、事故防止の目標値設定の検討を行う。さらに、アメリカCDC内国立事故防止センターのシステムや研究方法について調査し、わが国における事故防止の中心的機構の設立についても検討する。国内ではインターネットを利用した小児の事故や応急手当の情報提供と事故例収集のホームページを開設する。同時に事故研究のデータベース化を行う。また、今後は対象を就学前の子どもから学童にも広げて検討する必要があるため、学校事故の発生状況を把握し、その特性から対応について検討する。さらに、県レベルでの事故防止の取り組みについても各県の協力を得て実施し、検討を行う。衞藤班においては、保健所における事故防止と啓発方法、チャイルドシート法制化前の使用実態や親の意識について、質問紙調査等を実施して検討する。浅井班においては、小型乾電池誤飲事故によって引き起こされる食道部位の病態生理や治療法について、動物実験によって検討する。
結果と考察
田中班では小児事故に関する総合的研究を行い、まず、最も新しい資料を用いて、わが国の小児の事故の現状について検討を行った。近年の0~14歳の小児事故による死亡状況を先進諸外国と比較すると、わが国は0~4歳の死亡率が依然として高く、その中でも溺死と墜落による死亡が高率であることが明らかになった。また、スウェーデンと比較すると殆どの項目において2~3倍以上の死亡率で、溺死は6倍であった。今後スウェーデン並みに死亡率が減少すれば、500名近い同年代の子どもが救命できると試算された。さらに、入院や外来受診を必要とする事故の発生率もこの20年間で大幅な改善が見られないことから、子どもの事故防止対策は緊急かつ重要な課題であり、そのための研究にも全力で取り組むべきであると結論された。また、健康日本21において具体的な目標値設定の必要性が述べられていることから、小児事故防止についても目標値設定の検討を行った。1~4歳の事故死亡率は、年次推移のトレンドからの推定では2005年に6.8、2010年に5.3となる。しかし、これでも北欧などのレベルには至らず、そのレベルまで下げるには国家的な取り組みが必要である。今年度は、過去のデータ、予算、改善の可能性の評価、地域差を考慮したうえで全国平均値や国際比較値を目標とすることなど、目標値設定の方法論が提案された。小児事故防止の具体的方法については、前年度実施した全国約15,000の事故例の詳細な分析から明らかになった発育段階による子どもの事故の特徴を基に、健診用、保育園用の事故防止プログラムを作成し、それらを用いて実施した。健診用プログラムは、各健診月齢・年齢別の安全チェックリストとそれに対応した啓発用のパンフレットより構成されている。また、母親・両親学級用安全チェックリストも作成した。保育園用プログラムでは、子どもの成長に合わせた8種類のパンフレットを作成し、子どもの月齢や年齢に合ったものを保護者に配布した。さらに、これらがどの程度役立ったか評価を行ったところ、9
0%以上の保護者が事故防止を意識するようになったとし、41.4%に行動の変容が見られ、24.1%が実際に事故を防ぐことができたと回答した。さらに、園全体をカバーする3~5歳用や幼稚園用プログラムや応急手当て法の要望が高かったことから現在それらを作成し、次年度には規模を拡大して実施する予定である。以上より、小児事故防止の方法論はほぼ確立できたと思われる。事故防止センター開設の検討に関しては、アメリカCDC内にある国立事故防止センター(NCIPC)のような機構を設立することも考慮する必要があると考え、NCIPCにおける事故防止対策や研究体制を調査したが、アメリカでの事故防止は国レベルで取り組まれ、しかも多くのボランティアによって広く支えられていることが判明した。国内では、インターネットを利用して事故情報の収集と啓発を行うためのホームページを開設した。今後は宣伝やリンクを増やして利用の活性化をはかることが課題である。これと同時に、不慮の事故に関する研究のデータベース化にも取り組んだ。将来的にはインターネット上で利用可能にする。学校事故の発生状況の把握と対応の検討では、小中高の各学校においては、それぞれ事故の発生状況に特徴があることが明らかになった。小学校では軽度の日常的事故が多く、中学校では大きな事故が発生しており、高校では事故発生数も重度の事故も少ない。各学校においてはこのような特徴を把握して対処することが必要であり、養護教諭の緊急時の対応能力も向上させる必要がある。県レベルでの事故防止事業については、石川県、和歌山県、鹿児島県などと協力して、地域の実情に即した小児事故防止事業が推進された。石川県では平成9年に開設した「子どもセーフティセンター」が好評で利用が多く、現在は子どもの事故予防通信を発行するなどの取り組みが行われている。和歌山県では、市町村と協力して、安全チェックリストによる健診時を利用した事故防止の保健指導を実施している。鹿児島県では事故例を募集して2000件以上を集め、事故事例集を県のホームページに掲載して、保護者や関係者への啓発を行っている。衛藤班においては、チャイルドシート使用の法制化を前にした現時点での使用実態や親の意識について調査を行い、今後もきめ細かい指導が必要であることを明らかにした。また、乳幼児の誤飲・誤食事故の第1原因であるタバコについて、子どもの周囲の喫煙環境の現状調査を行い、保健所での安全育児指導に反映させた。小児事故予防教室では、親の事故についての理解度を講義の前後で調査し、家庭ですぐ実行出来ることを周知することが効果的であるとの結論を得た。浅井班の小型乾電池誤飲事故による障害および合併症の治療に関する研究では、電池の起電力や停留時間による食道への影響のうち、とくに作用の強いことが前年度明らかになった陰極側のアルカリによる近隣組織への浸潤の度合いと合併症について検討した結果、医療関係者への注意点が明らかになり、啓発を行う段階に達した。また、合併症の進展が予測でき、治療法の検討が可能となった。
結論
わが国は0~4歳の不慮の事故による死亡率が依然として高く、今後、事故防止に関しては、具体的方策を立て目標値を設定するなどして全力で取り組む必要がある。当班では、健診時や保育園を情報発信源とする事故防止プログラムも完成されたことより、今後規模を拡大して実施していく。また、インターネットを利用してより効果的な事故情報の収集と啓発を行い、アメリカにおける事故防止の中心的役割を果たしているCDC内国立事故防止センターのような機構の設立も検討する。学校事故は校種ごとの特性を理解して対応する必要がある。さらに、県レベルでの事故防止事業は有効であり、今後も地域にあった事故防止対策を提供していく。チャイルドシートについては、今後きめ細かい指導や啓発を行う必要がある。起電力の高いボタン型乾電池誤飲事故では、陰極側が危険であり、医療関係者へ注意を呼びかけるべきことが明らかになった。
以上のように全体として大きな成果を得、最終年度ではさらなる発展が見込まれる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-