小児慢性特定疾患の効果的養育支援のあり方と治療の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199900311A
報告書区分
総括
研究課題名
小児慢性特定疾患の効果的養育支援のあり方と治療の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 齊(国立療養所三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 湯沢布矢子(宮城大学)
  • 古川正強(国立療養所香川小児病院)
  • 富沢修一(国立療養所新潟病院)
  • 竹内浩視(国立療養所天竜病院)
  • 友岡裕治(福岡県遠賀保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児慢性特定疾患の効果的養育支援をし、かつ治療を評価するため、我々は平成9年に実施した療育の実態に関する全国アンケートに基づき、以下の研究を実施することを目的とした。すなわち小児慢性疾患児に配布されている手帳の活用程度と評価並びに今後のあり方、長期医療が必要な患者の医療の実態を調査し問題点を明確にする、小児慢性特定疾患に対する効果的保健婦活動とその支援マニュアルの完成を目指す等である。
研究方法
主任研究者の他5名の分担研究者により担当した方法の詳細はそれぞれの分担研究報告にゆずるが6人の研究者で分担し、それぞれ研究協力者をもって課題に取り組んだ。データーの収集は主にアンケート方式によった。
結果と考察
友岡らは平成9年に作製した保健婦用小児慢性特定疾患療育指導マニュアルの使用状況について、平成11年度全国640保健所に対してアンケート方式で調査したところ442保健所(回収率69.1%)から回答があった。マニュアルが送付されていないことを知らない保健所が64保健所(16.4%)にのぼり、約3割の保健所がマニュアルを使用しておらず、ただ単にマニュアルを送付して終わりとする方式でよかったのか深く考えさせられた。本マニュアルに対してはおおむね好意的な意見が多く寄せられていた。しかし、訪問等にあたり中途半端な関わり方をすると患者家族から批判や不満が出やすいため、事例紹介、図表を増やして詳しく記述などの希望もあり、より充実させる必要性が示唆された。
古川らは小児喘息、心疾患、膠原病で16歳以上に達した児についてその問題点を検討した。小児喘息は、現在年令は17から31才(平均20.7才)の96名から回答がえられた。現在も主に小児科に通院(59%)中の患者を対象としたため、緩解率は23%と悪く今後も長期的な医療的管理が必要であることが示された。喘息発作は日常生活であらわれやすいことからも本人自身の自己管理が必要な疾患であり、職場へも90%が病名を告知されていた。小児心疾患は20名よりの回答のうち10名(50%)が母親、身体障害者手帳を受けているものが12名(60%)、現在の病状が入院時からはさほど改善されたとはいえないことからもむずかしい病状にあると思われる。膠原病は25名のうち15名(60%)が若年性関節リウマチであった。経過も長く、病気のことを理解している母親からの回答が14名(56%)と多かった。病状は心疾患に比較して普通生活ができるものが多かったが、在学中にこころの問題が生じたものは15名と半数以上を占めており、在学中は心身共に問題が生じていることが伺われる。
竹内らは糖尿病、内分泌疾患を持つ児について調査した。糖尿病は、IDDM 65名、NIDDM 7名で、若年青年期の約4割を小児科医が管理していた。自己血糖測定は、女性が比較的「熱心に」実施しているにも拘らず、HbA1cからみると男性のほうがgood control例が多い結果は、摂食障害の合併例(ほとんどが女性)が増加しつつあることからも興味深い。心因による不登校(傾向)をはじめ、「心理的な問題」により悩んだ経験のあるものはIDDMで約半数にのぼり「こころの専門職」の配置を充実させる必要性がある。内分泌疾患は、132名より回答のうち、成長ホルモン分泌不全性低身長症66名が最も多くその他多くの疾患が含まれていた。いずれの疾患も罹病期間が長期にわたり、最終身長の満足度が低い疾患も少なくなかった。発症率の低い内分泌疾患に対する学校や社会の認識は低く、学校生活においても無理解やいじめ、不登校(傾向)を経験した比率が高かった。
富沢らは小児慢性腎疾患につき16歳以上の症例に対して、学校生活、現在の悩み、状況などについてアンケート調査を行った。回答は287名(16から43才、平均22.7才)で疾患内容はネフローゼ188例(65.5%)と最も多く、続いてIgA腎症、紫斑病性腎炎等であった。学校生活において約6割が運動、食事制限をうけており、ほぼ同数がその制限をつらく感じていた。また、ステロイド剤による美容上の悩みも36.3%にみられ、病気をもっていることとの関連で仕事や進学について少し不安から大いに悩んでいるケースはあわせて45%にのぼった。慢性腎不全例は12例(4.2%)であり、その多くはアルポート症候群や低形成腎などの先天的要因によるものであり、ネフローゼ症候群やIgA腎症などが慢性腎不全になる割合は少ない。「腎臓病は治らない病気である」「腎臓病があれば、いずれ透析に入る」といった誤った世間の誤った常識を払拭することが必要と思われる。
神谷らは三つのテーマを共同研究者と共に検討した。一つは、悪性新生物の治療終了後の晩期障害および生活の質(QOL)を向上させるためのアンケート調査をおこない92例(16から30才、平均19.6才)から回答を得た。 最終学歴は、中卒、高卒・中退が約40%にみられ、退院後の原籍校への適応の難しさを反映していると思われた。小児がんの病名告知は、まだまだ消極的な考え方が多いが、積極的におこなっているところでは闘病意欲や治療に対する理解さらにはその後の心の問題にプラスに傾いていることがいわれている。こころの問題を解決する助けとして心理専門職やケースワーカーなどの需要が高いと思われた。
二つは、平成8年より使用されている小児慢性特定疾患手帳について、その利用頻度と問題点を、全国85の県、中核市に対しアンケート調査をおこない56(65.9%)より回答を得た。交付率は10から20%であり、医療現場において手帳は記入しづらい、プライバシーが守れないなどの問題点、さらに、患者も受診時に持参する例はほとんどなかった。今後、小児慢性特定疾患手帳を使用していく利点はなく、廃止することも考慮すべきと考える。
最後のテーマとして、保健所における保健婦の小児保健医療、特に小慢患児への療育支援の実態とその問題点を把握するため全国640の保健所の所長と小慢療育支援事業の担当者に対してアンケート調査をおこない439(回収率68.6%)より回答をえた。小慢療育支援事業の取り組みが不充分からやや不十分をあわせると80%にのぼり、その理由として少ない予算(48%)、人的資源(27%)をあげている。この厳しい財政事情の中でいかに工夫して事業を推進して行くかが今後の課題である。とくに、医療機関と連携がとれていないこと(約1/3にみられた)、研修の充実(研修が不充分とまったくないが約2/3にみられる)が大切と思われた。さらに、患者・家族のニーズが充分に把握されておらず具体的に事業展開をおこないにくいこともあると思われる。
湯沢らは、小児保健医療における保健婦活動に関して研究した。平成11年は、保健所保健婦と市町村保健婦の活動について調査し、その実態を比較した。全国640保健所および3112市町村のなかから1000市町村を無作為抽出しアンケート調査し、保健所360(回収率56.3%)、市町村612(回収率61.2%)の回答を得た。調査内容は、小児保健医療に関する研修受講経験、研修内容、形態、研修のニーズなどである。小児慢性特定疾患研修への参加は、保健所保健婦が市町村保健婦に比較して有意に多くの保健婦が受講していた。研修でとりあげてほしい疾患としては、両群とも精神・発達に関するもので次に身体に関するものであったが、小児慢性特定疾患に関する研修の希望は、保健所保健婦が市町村保健婦に比較して有意に多くみられた。今後希望する研修内容としては両群とも、疾病・障害に関する知識(約21%)、治療・リハビリに関する知識(約17%)、家族への対応(カウンセリング技術)(約14%)が上位にあがっていた。保健婦がチーム医療の要として、地域の情報システムを確立し、さらにケアシステム確立し、スーパーバイザー的役割を果たせるようにより充実した保健婦研修プログラムの作成が必要である。
結論
成人に持ち越す小児慢性特定疾患における治療と心理的・社会的問題点を検討したところ、各疾患ごとに特有の解決しなけらばならない問題点がみられ、個別対策が必要と考えられた。これら小児慢性特定疾患の療育支援を効果的に医療、保健婦、行政がおこなうには、患者の抱える問題点、ニーズの把握し、保健婦研修を充実させるとともに、関係医療機関との連携が必要であることがわかった。

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