小児難治性腎尿路疾患の病因・病態の解明、早期発見、管理・治療に関する研究

文献情報

文献番号
199900310A
報告書区分
総括
研究課題名
小児難治性腎尿路疾患の病因・病態の解明、早期発見、管理・治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 拓(国立小児病院)
研究分担者(所属機関)
  • 村上睦美(日本医大小児科)
  • 本田雅敬(都立清瀬小児病院小児科)
  • 吉川徳茂(神戸大学医学部保健学科)
  • 五十嵐隆(東大分院小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性腎尿路疾患患児の予後を改善し、患児の救命、社会復帰を図るためには腎臓疾患の最も重篤な予後である末期腎不全の予防、治療の研究が最も重要である。そのためにに我が国の小児腎不全の全国的データベースを構築し、その原因疾患、発症率、早期発見、治療の現状、末期腎不全治療の現状を把握し、適切な研究課題を明らかにする事を第一の目的とした。次いでこの疫学調査から明らかになった問題点について以下の研究目的を立てた。
1)腎不全患児の発生を阻止するため先天性腎尿路疾患の早期スクリーニング/早期治療法を確立すること。2)未だ治療法が確立されていない後天性糸球体腎疾患で最も頻度の高い IgA 腎症の前方視的多施設共同治療研究を進め、有効な治療法を解明し、腎不全への進行を阻止すること。3)小児の末期腎不全治療の両輪の一つである腹膜透析の問題点(合併症、発育障害)を検討し、解決策を探ること。4)病因の究明が遅れている糸球体腎炎、腎尿細管間質疾患の研究を進め、薬剤治療を含めた悪化阻止の方法を検討すること。
研究方法
日本小児腎臓病学会と協力し、小児末期腎不全患者の実態について調査を行い、腎不全の予防、治療における課題を明らかにした。先天性腎尿路疾患の早期診断のための超音波スクリーニングについての診断基準を作成し、生後1ヶ月児2,700名の prospective screening study を行い、同時にその費用便益を検討した。腎エコーマススクリーニングに関する啓蒙活動を行なった。小児IgA 腎症の多施設共同研究として、重症例に対するカクテル治療の長期効果及びス剤単独治療の効果を検討した。 小児腹膜透析患者の最も重要な合併症である(1)腹膜炎、(2)硬化性腹膜炎の病因、対策、(3)同時に硬化性腹膜炎の早期発見に必要な腹膜平衡試験の標準化を行なった。(4)成長障害の疫学について小児PD研究会のデータベースによる検討を行った。腎尿路疾患の5)腎尿路疾患についてDent病(特発性尿細管性蛋白尿症)、純型永続性近位尿細管性アシドーシス、腎性尿崩症、IgA腎症、ネフローゼ症候群の患者の原因遺伝子の解析あるいは増悪因子の解明を目的に分子生物学的解析を行った。
結果と考察
末期腎不全のデータベースの検討により小児期の原疾患は先天性腎尿路奇形、逆流腎症が42%、後天性腎疾患が33%であった。先天性疾患の頻度が高い理由は早期発見が難しく、早期治療による腎不全への進行阻止が困難なためであり、適切なスクリーニング法の確立が必要である。後天性腎疾患は近年の学校尿検診の普及により早期診断、早期管理が可能となったためと考えられるが、FSGS、IgA 腎症は小児期腎不全の原疾患としてなお高い頻度を占めており、その治療方法を確立することが急務と考えられる。末期腎不全の治療は成人と異なり小児では腹膜透析、移植が腎不全治療の両輪でありこれらの治療法の改善が患児のQOLの向上に不可欠と考えられる。
先天性腎尿路疾患の早期診断のための超音波スクリーニング診断基準について、中心部エコーの評価にSFUによる水腎症の5段階相対評価法を導入し、これを用いて1ヶ月児2,700名の prospective screening study を行なった結果、その有用性が確認された。本スクリーニングの費用便益は、スクリーニング、精検費用と末期腎不全治療軽減効果との比較では先天性腎尿路疾患、逆流性腎症患者の透析導入を6年間延期させ得ればcost-benefit ratio が1.0となる結果が得られた。今後、患児のQOLを含めた cost- effectiveness analysisでの評価を行いたい。上述のスクリーニング基準を含め先天性腎尿路疾患の超音波診断の現状成績をまとめた小冊子を日本小児腎臓病学会を経て小児腎臓病医に送付した。
IgA 腎症の多施設共同治験として重症IgA 腎症に対するカクテル治療の長期効果を検討し、その有効性を確認した。副作用を軽減する目的で2年間のプレドニン単独投与を行なった結果、対象群のカクテル治療に比較し、尿所見改善率は同様であったが、治療終了後の腎組織所見では対象群に比して硬化性病変の進行を阻止できなかった。現在、よりマイルドな免疫抑制剤の使用、ス剤の減量投与について検討中である。
小児PD研究会のデータベースから最も重要な合併症である腹膜炎の要因を検討し、年令、腹膜カテーテルの種類が影響することを明らかにした。また、透析効率の評価に必要な腹膜平衡試験(PET)は小児では年令/発育により体の大きさが異なるため共通の試験方法、基準値が定められていなかった。今回の共同研究により注液量を1100ml/m2とすることによりD/D0-グルコース-比、D/P-クレアチニン比の平均値をそれぞれ、0.41±0.10,0.65±0.13と身長、体重、年齢と関係なく小児の基準値として用い得ることを明らかにした。成長期にある小児の腎不全に於いては成長障害が極めて重要な合併症であり、腹膜透析治療時においても十分な改善は得られないことが分かっており、近年その治療にrHGHが用いられてきている。しかし、その効果、特に長期効果についてはなお不明な点が多く、その解明のためには非治療児の発育状態/発育障害を正確に把握する必要がある。今回の調査によりPD患児においても身長発育は期間に直線的に悪化することと、生別、年令によって発育障害の程度が異なることが明らかにされた。今後はrHGH治療時にこの成績を用いることにより、治療効果のより正確な評価が可能になる。
Dent病についての検索から6家系に全て異なったCLC-5遺伝子(CLCN5)の異常を認め、本症の病因のheterogeneityを明らかにしたことにより、今後、病状のheterogeneityの解明、予後の予測が可能になると期待される。 眼球異常を伴う純型永続性近位尿細管性アシドーシスの病因遺伝子の解明を行ない、患者に認められたNa+/HCO3- cotransporter (NBC)遺伝子の異常をツメガエル卵細胞に発現させ、変異NBC蛋白の機能異常を証明した。新しい腎性尿崩症の原因としてヘンレの上行脚のクロライドチャンネルClC-K1のノックアウトマウスを作り、機能検討を行った結果濃縮力障害を明らかにし得た。この知見により病因不明のヒト腎性尿崩症の解明が期待される。小児期IgA腎症、ステロイド依存性ネフローゼ症候群のの病状に遺伝子多型や変異が関与する事を明らかにし得たため、これらの病態に対する拮抗薬剤の開発、臨床応用が可能になると期待される。その他に行なった低形成・異形成腎の発症機序の研究、Drash症候群の腎障害機転の研究などは個々の報告を参照頂きたい。
結論
小児腎不全に関する全国的データベースが開設され、情報の解析が可能となったことから小児腎不全の治療、管理の現状が明らかになり、今後の重点的研究課題を絞る事が可能となった。課題として先天性腎尿路疾患のエコースクリーニングの研究、 後天性腎疾患治療の重要課題である IgA 腎症の治療研究、小児腎不全の代表的治療法である腹膜透析治療の研究に於て成果を得ることが出来た。
もう一つの研究課題である腎尿路疾患の病態解明は、上述の研究課題のように研究結果が直ちに治療に結びつくものでは無いが、結果として病因の解明が症状の解明、予後解明をもたらすこと、病因因子の解明が治療薬剤の開発に結びつくことが期待できる。また、このような研究は基礎研究者よりも実際に患者に触れている臨床医がより適切な発想を以て行う事が出来ることを強調しておきたい。

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