川崎病の治療と長期管理に関する研究

文献情報

文献番号
199900308A
報告書区分
総括
研究課題名
川崎病の治療と長期管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 裕久(久留米大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 原田研介(日本大学)
  • 濱岡建城(京都府立医科大学)
  • 賀藤均(東京大学)
  • 津田悦子(国立循環器病センター)
  • 馬場 清(倉敷中央病院)
  • 上村 茂(和歌山県立医科大学)
  • 佐地 勉(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、川崎病による突然死や虚血性心疾患への進展をどのように予防するか、心血管後遺症をすでに持つ患児に対していかに有効な治療・管理をするかを目的としている。今年度は前年より引続き、以下に述べる4つの項目について継続的な検討を行なった。1) 川崎病心血管後遺症の長期予後の追跡調査、2) 川崎病急性期における医療、経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立、3) 川崎病血管炎は成人動脈硬化のリスクか、4) 川崎病による虚血性心疾患の予防と治療・管理基準の作成、である。
研究方法
川崎病心血管後遺症の長期予後の追跡調査としては、前年度に引続き各班員が追跡調査を行なっている川崎病罹患児の長期例につき、その予後、心血管障害のスペクトラム、頻度および発生時期、最も重篤な心血管後遺症である心筋梗塞や死亡例の実態について、川崎病の概念の確立する以前へもさかのぼり検討をおこなった。
川崎病急性期における医療、経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立としては、現在一般的に行なわれているガンマグロブリン療法を調査し、各治療群における発熱期間、心血管合併症の頻度などについて、検討した。同時に、ガンマグロブリン療法が不応だった症例に対する他の治療法の評価およびその成因について検討した。また川崎病急性期の種々の因子(細胞接着因子、血中一酸化窒素酸化物、血管リモデリング関連因子)と冠動脈病変の関連について多方面より検討がおこなわれた。
川崎病血管炎は成人動脈硬化のリスクか、という項目に関しては、血管内エコー法を用いた冠動脈内皮機能の検討や、剖検例による冠動脈病変の病理学的検討が行われた。最後に川崎病による虚血性心疾患の予防と治療・管理基準の作成としては、ガンマグロブリン不応例に対する治療法のガイドラインを作成することを主体に今後の検討を行っていくこととした。
結果と考察
今年度の研究のなかで、長期予後に関する研究として津田らは、川崎病発症10年後に冠動脈壁肥厚をきたしうる急性期の冠動脈径について検討をおこなった。この研究は加藤らによって報告されている川崎病遠隔期の血管内皮機能および血管内超音波法を用いた冠動脈病変の検討と同様の見地から、後方視的に検討した研究である。それによると川崎病発症から100日未満に冠動脈造影を施行し冠動脈瘤が確認された28例に対し、発症後10年以上(10.8~14.7年)経過して血管内超音波法をもちいて冠動脈壁の検討をおこない、最も肥厚の見られた断面においてintima-media thicknessを計測した。この計測値と急性期冠動脈径は明かな相関をしめし、冠動脈の危険域とされるintima-media thicknessが0.40mm以上とすると、急性期の冠動脈径が4.0mm以上で鋭敏度90%、特異度98%となった。このため急性期の冠動脈径が4.0mm以上の場合は、遠隔期にわたっても冠動脈病変に対する注意が必要であることを裏付ける所見となった。また賀藤らは川崎病がひとつの疾患概念として確立する以前の診療録を調査し、日本においていつごろから川崎病が発現していたのかについて検討した。それによると昭和19年から29年の11年間に東大小児科に入院した症例のうち、今日の川崎病診断基準に適合すると思われる症例が5症例確認された。このうち最も初期の症例は昭和25年であり、昭和19年から24年までには発見する事ができなかった。川崎病がいつからでてきたのかは今だ不明であるが、このことは川崎病の成因を推察する上で大変貴重な因子となると思われる。
川崎病急性期における医療、経済効果のあるガンマグロブリン療法の確立として、佐治らは現在国内で主として用いられているガンマグロブリン200~400mg/kg/日の5日間投与と欧米で承認されているガンマグロブリン2g/kg/日単回投与との比較を行ない、2g/kg/日単回投与のほうが200~400mg/kg/日の5日間投与よりも各種検査所見における改善度が高く、冠動脈障害の発生頻度も低いことを報告した。このガンマグロブリン2g/kg/日単回投与は現在のところ国内での保険適応はとれていないため、今後使用法の追加変更が強く望まれる。また加藤らはガンマグロブリン療法不応例に対する治療法について検討を行った。ガンマグロブリン療法不応例をガンマグロブリン再投与群とステロイド投与群に無作為に分類し、発熱期間や冠動脈病変発生頻度を比較した。これによると発熱期間はステロイド投与群が明らかに短いが、ステロイド投与群には冠動脈の一過性拡張が高頻度に見られ、冠動脈瘤発生の危険因子になることが示唆された。今後より多数例での検討が必要になるであろう。一方馬場らはガンマグロブリンの追加投与が必要であった症例を後方視的に検討し、その特徴と冠動脈病変の短期的予後の検討を行った。それによると追加投与の必要になった症例はガンマグロブリン投与例の25%で、追加投与例中40%の高率に何らかの冠動脈病変が合併していた。しかしながらこれら冠動脈病変が1カ月以上残存したのは15%で巨大冠動脈瘤の合併も認めなかった事を明らかにした。追加投与の必要な症例は確かに重症例と考えることができるが、ガンマグロブリンの追加投与でその発生と残存を最小限にできている可能性もある。
これらガンマグロブリン不応例の病因の検討として、加藤らは川崎病急性期における可溶性細胞接着分子(セレクチンファミリー)を測定し、eセレクチンはガンマグロブリン不応例で明らかに高値となり、ガンマグロブリン療法不応例の予測因子となりうる可能性を示唆した。また濱岡らは川崎病における血管リモデリングに、細胞外基質の分解に重要な働きをする酵素群のひとつであるMMP--9とMMP阻害因子であるTIMP-1が重要な因子となっていることを指摘した。さらに血管新生や組織障害の修復機転で重要な調節因子と考えられているhHGFの動態とhHGFのMMP-9産生への影響を検討した。その結果IL-6などのサイトカインは直接的に血管内皮細胞のMMP-9産生を促進するのみならず血管内皮細胞のhHGF産生を調節することで自己分泌的hHGFによるMMP-9産生促進にも関与している可能性が確認された。
川崎病血管炎は成人動脈硬化のリスクになるかという問題に関して、加藤らは川崎病遠隔期の冠動脈病変における血管内皮機能および血管壁構造の評価を行なった。それによると冠動脈退縮群においても初期の冠動脈瘤径が4.0mm以上の場合は血管内皮機能の異常が存在することが指摘された。また血管内超音波法によると血管造影上退縮している部位にも種々の程度の血管壁構造の以上が認められ、成人の動脈硬化像所見と極めて類似していた。このため川崎病遠隔期においては冠動脈瘤消退例においても長期にわたる観察が必要であることが示唆された。川崎病による虚血性心疾患の予防と治療・管理基準の作成に関する研究として、津田らは川崎病冠動脈狭窄病変に対するバイパス術を施行した症例の吻合部狭窄のカテーテル治療について検討した。3症例に対し術後2年以内にバルーン拡大術を施行し吻合部狭窄の改善を得た。川崎病冠動脈病変に対するバイパス術は成人の成績に比べ短期、および長期成績いずれも充分ではなく、今後カテーテル治療を併用しながらの医療戦略の決定は重要になってくると思われる。新しいカテーテル治療として最近経験が増えているRotablator治療の効果が報告されているが原田らは、この治療効果の判定に心筋SPECTを用いて定量的評価を施行した。それによるとRotablator治療後に全例で安静時順行性冠血流の増加が得られたが、運動時に親近感瘤の低下する例があり、順行性血流が充分に増加しなかった例で運動時の側副血行の減少が疑われた。遠隔期川崎病のカテーテル治療には長期予後を含め今後も検討を要する項目が数多く残されている。冠動脈病変の新しい評価法として上村らは3次元磁気共鳴冠動脈血管造影法を用いた新しい冠動脈病変評価法を報告した。個の方法は横隔膜の呼吸運動をモニターするnavigator echoを用いた方法で、乳幼児をはじめとする対象例において息とめをせずに明瞭な冠動脈像の3次元構築を可能とした。冠動脈瘤内の血流情報も得ることができるため、今後巨大冠動脈瘤の非観血的経過観察に有用になると思われる。
結論
本年度に得られた上記結果は、川崎病心血管後遺症の長期的予後の解明と川崎病による虚血性心疾患の予防と治療・管理基準の作成に有力な基礎データとなり、来年度以降の共同研究へ受け継がれる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-