小児期からの総合的な健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
199900305A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期からの総合的な健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
村田 光範(東京女子医科大学附属第二病院)
研究分担者(所属機関)
  • 福渡 靖(山野美容芸術短期大学)
  • 鏡森定信(富山医科薬科大学)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常的な身体活動の減少は現在の子どもの生活習慣にとって大きな問題である。そこで、幼児を中心に日常的な身体活動を質と量の面から評価する方法の確立を目的とした。幼児期の身体活動が減少する要因の検討を、保護者の身体活動、保育所や幼稚園での幼児の生活背景を検討することで明らかにすることを目的とした。食事と身体活動の関係、およびわが国幼児の生活習慣と比較する目的で中国北京市の幼児の生活習慣を検討した。幼児が自ら喜んで体を動かす「ごっこ遊び」の開発、普及を目的とした。
平成4年以来実施しているコーホート調査を基にして肥満、高血圧、高脂血症などの危険因子のトラッキング効果、肥満防止のための生活習慣要因と保健指導の方向を検討し、さらに同一対象を成人になるまで追跡するすることを目的としている。また、この間に発見された子どもの肥満、高血圧、高脂血症に対して適切に対応するためのガイドラインを残された研究期間内に作成することを目的にしている。
富山県下で平成元年生まれの95.1%に当たる9674人の追跡調査を初回は3歳児、2回目は小学校1年生、今年度は3回目として小学校4年生になった同一対象者の生活習慣調査を行ったが、この対象を少なくと生活習慣が自立する思春期まで追跡し、幼児期の生活習慣が思春期の心理行動特性に大きく関係していることを明らかにすることを目的にしている。
子どもの骨が健常に発育するための要因を検討し、併せて低体重出生児(未熟児)や神経性食欲不振症など正常な状態から偏位した子どもの骨発育をより健常な状態にするための方策を検討することを目的とした。
研究方法
村田光範主任研究者:アンケートによる生活状況調査、および対象児の日常生活を保護者や保育者が観察するなどの方法にに基づいた幼児の運動量の増減に関係する要因の検討、幼児の日常的な運動量の評価手段として歩数計の有用性と保護者や保育者の主観的評価(自分の子どもあるいは担当の子どもが日常的によく体を動かしている、動かしていない等)の妥当性を検討した。幼児の量的、質的な身体活動を客観的に評価するため小型コンピュータが組み込まれたアクティブトレーサーとライフコーダーの有用性を検討した。「ごっこ遊び-鬼ごっこ」を通じて身体の平衡調整機能と運動量との関係を検討した。幼稚園、保育所での生活と身体活動量、および食事と身体活動量の関係を検討した。また、中国北京市の幼児の生活習慣をわが国のそれと比較検討した。
福渡 靖分担研究者:平成4年に設定した全国9地区、総計約8,000名についてのコホート調査を引き続き行い、肥満、高血圧、高脂血症についてトラッキング現象を検討した。子どもの特定の生活習慣、たとえば早食い、運動嫌い、野菜の好き嫌いといったものと肥満の関連を検討した。小学校5年生の肥満児とその保護者を対象にした介入を試みた。
鏡森定信分担研究者:現在小学校4年生になっている富山県でのコホート調査(富山スタディ)対象者(平成元年生まれの小児9674名、全出生者10177名の95.1%)について3回目の生活習慣調査を行い、肥満化傾向と関係する生活習慣を検討した。富山スタディ対象者において重要な健康課題である思春期に入っての心理行動特性が幼児期の生活習慣といかに関係してくるかを検討するために文献的考察を行った。
清野佳紀分担研究者:子どもの骨が健常に発育するための要因を検討するために、小学校4年生児童とその母親の踵骨骨量の関係を超音波指標と骨代謝マーカーを指標にして検討した。運動指導介入と骨密度の変化を過去3年間(8歳から11歳までの小学生女子21名)にわたり検討した。新しい骨塩量評価法(末梢骨定量的CT-pQCT)による健常女子の基準値の設定を行った。未熟児の骨量評価を的確に行う方法をDXA法を用いて検討した。神経性食欲不振症の臨床経過と腰椎、および大腿骨骨頭の骨密度の変化について検討した。
結果と考察
歩数計は子どもの身体活動を量的に評価するための安価で、簡便なよい機器であるといえる。子どもの身体活動の質的評価は困難であるが、小型コンピュータが組み込まれているライフコーダーや3次元の方向で運動加速度を評価できる小型電子機器(アクティブトレーサー)は年長幼児を対象に運動強度が評価できた。幼児の日常的な身体活動量は、保育所や幼稚園での「お昼寝」の時間が長いなどのカリキュラム、保護者の運動習慣に大きく影響されていた。また、保護者や保育者がいつも活発に体を動かしていると評価された子どもは、酸素摂取量や運動時の心拍数の測定などから運動能力も優れていることが分かった。
「鬼ごっこ系の遊び」で鬼背中につけたテープを取るようにすると幼児の動きが一層活発になった。このごっこ遊びの中で運動量が多いものと開眼片足立ち(平衡能)の間には高い相関があったが、連続片足跳び(筋持久力)との間には関係がなかった。最近の保育者は幼児を集団で遊ばせた経験が少ないので、保育者が「ごっこ遊び」を通じて集団遊びのこつを学ぶ実践活動を展開する予定である。蛋白摂取量の高い子どもが身体活動量も多かった。中国北京市における子どもの生活習慣の変化はわが国のそれを後追いしていることが分かった。運動量の多い幼児では、蛋白摂取比率が高い傾向があった。中国北京市にける小児肥満増加はわが国同様、西欧型都市型文化生活が原因であった。
肥満、高血圧、高脂血症のトラッキングについては、肥満がもっともはっきりしていて、ついで高脂血症(特に血中総コレステロール値)であり、血圧についてはトラッキングが低い結果であった。昨年同様、早食い、運動ぎらい、運動をあまりしない、野菜摂取量が少ない、テレビの視聴時間が長いといった生活習慣が肥満と関係していた。トラッキングを評価する指標としてトラッキングインデックスが好ましいことが分かった。肥満と高脂血症を伴う小5の児童に介入した結果、現在の介入方法では親子が受け身になっているので、親子が積極的に対応することができるように養護教諭の役割を強化するなど介入方法を再検討することが必要であった。
平成元年度生まれの富山県在住の児童を対象とした富山スタディの第3回悉皆調査(対象児童は富山県全域の小学4年生10,437人)データ(平成11年11月末までの入力分、8,310名)を3歳時のデータとリンクして検討した結果、小学4年時の肥満化と関連する3歳時の生活習慣は、3歳時の両親の肥満、洋食の摂取頻度が高くて和食の摂取が少ない、朝食の欠食、不規則な間食、就寝時刻が遅い、睡眠時間が短いであった。また、就寝時間、運動習慣、インスタント麺類の摂取頻度は、3歳から小学4年生にかけてトラッキング現象を認めた。したがって、肥満化と関連する生活習慣が持続することが、その後の肥満を引き起こす理由となっていることが示唆された。このことから肥満の予防には3歳時からの生活習慣対策が重要であるといえる。
母子(小4)の超音波法による骨量は有意な相関を認め、これはカルシウム摂取量に関係していることは分かった。従来から行っている思春期前期の女子に対する運動支援介入において骨密度と運動量に有意な相関があり、この時期の女子について運動習慣の重要性が示された。pQCT(peripheral quantitative CT)を用いて橈骨の骨密度測定を行い、日本人女児の正常値を設定した。この結果思春期前に一時的に骨密度の低下する時期が認められ、骨折頻度の増加との関連が考えられた。疾患と骨発育では、①未熟児の骨量評価には全身測定よりも腰椎骨密度測定がよりよい指標であること、②低出生体重児の腰椎骨密度は思春期にキャッチアップすること、③神経性食思不振症では入院時正常範囲であった大腿骨頸部骨密度がかなり遅れて低下してくるので注意が必要であることなどが分かった。
小児期の肥満、高血圧、高脂血症についてわが国の実情に即したガイドラインの概要を示した。
結論
昨年同様、現在の子どもたちは食事、運動、休養といった生活習慣に各種の問題を抱えていることが分かった。特に幼児期の健康を維持増進させるために質量ともに適切な身体活動を定めることはなかなか困難である。しかし、保護者や保育者がいつも活発に体を動かしていると評価している子どもは、酸素摂取量や運動時の心拍数の測定などから運動能力も優れていることが分かったので、この子どもたちの日常的な身体活動が1つの指標になりうると考えられる。
富山スタディにおいても3歳時点での睡眠、運動、食習慣の基本は小学校4年生の時点でも継続されているとしているし、加えて肥満、高脂血症などに幼児期から中学生期にかけて強いトラッキングが見られることから、それに骨塩量についてみても母子相関が高く、カルシウム摂取量と運動量が強い骨密度決定因子あること、子どもの運動量は親の運動量と関係していることなどから、幼児期の生活習慣をより健康的なものにするためには、保護者を主体にした対応が重要である。さらに、これらのことを明確にするために長期にわたるコホート調査が必要である。

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