文献情報
文献番号
199900303A
報告書区分
総括
研究課題名
虐待の予防、早期発見および再発防止に向けた地域における連携体制の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
松井 一郎(横浜市港北保健所長)
研究分担者(所属機関)
- 小林美智子(大阪府立母子総合医療センター)
- 小池道夫(和歌山県立医科医科大学)
- 下泉秀夫(栃木県身体障害医療福祉センター)
- 小泉武宣(群馬県立小児医療センター)
- 清水将之(三重県立小児診療センターあすなろ学園)
- 田野稔郎(神奈川県立こども医療センター)
- 恒成茂行(熊本大学医学部法医学教室)
- 谷村雅子(国立小児病院小児医療研究センター)
- 二瓶健次(国立小児病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
児童虐待は予後が悪いため、予防対策が重要である。虐待発生防止のための地域システム構築のため、以下を目的課題とする。
1.予防のための虐待ハイリスク家庭の把握から、援助までのシステム構築と技法の確立。2.重症化と再発防止のための連携システムの構築と介入技法の確立。
3.被虐待児の治療方法の開発。
4.虐待防止活動に必要な法制や発生動向と評価のためのモニターシステムなど、基盤整備の検討。
1.予防のための虐待ハイリスク家庭の把握から、援助までのシステム構築と技法の確立。2.重症化と再発防止のための連携システムの構築と介入技法の確立。
3.被虐待児の治療方法の開発。
4.虐待防止活動に必要な法制や発生動向と評価のためのモニターシステムなど、基盤整備の検討。
研究方法
虐待防止活動を先進的に行っている4地区(大阪、和歌山、栃木、群馬)の活動と機関連携の実態調査、主要病院小児科、司法解剖例調査、親の精神衛生問題の調査から予防ならびに再発防止のための地域システムを検討した。養護施設調査から治療問題を検討した。個人情報保護などの倫理的問題を弁護士に相談しながら、研究を進めた。
結果と考察
Ⅰ.予防のための、虐待ハイリスク家庭の把握から援助までのシステム構築と技法の確立
1)病院-保健所連携:病院で把握される虐待ハイリスク(低出生体重児、病的新生児など)と保健所支援活動の連携を実態調査し、和歌山医大周産期部の対象児のうち6割のみに連絡がなされ、和歌山市保健所では受理された児の8割について病院へ回答があった。現行の追跡システムを改善すれば連携に有用で、幾つかの改善点を提言した[小池道夫]。全国200のNICUの過去5年間の退院児(18400名)の追跡調査で、虐待と確認されたのは49例(0.2%)で、約7割は保健所への連絡があった[小泉武宣]。
2)保育所の活動と他機関との連携:4府県の保育所・園調査では、虐待または虐待ハイリスク児は全園児の1.5%で、保育所は被虐待児のケアを配慮した保育は可能であるが、家庭への特別な対応は困難と回答した。福祉事務所や児童相談所との連携はとれているが、保健所・保健センターとの連携が少なかった[下泉秀夫]。
3)否定的養育意識群(虐待ハイリスク群)の変化と親子関係:幼稚園児の母親を対象として、育児不安・育児困難に関する後向きアンケート調査で、妊娠中または産後に気分体調に変化がみられたものはそれぞれ20%、40%と高率。妊娠時からの育児意識は、負担感をもつ率が出生直後6%から現在の1%に減少していた[田野稔郎]。4カ月から3歳までの縦断調査から、養育意識が否定的から肯定的に変化した群に比して、養育意識が継続して否定的な群には、児が発達や健康問題を有する率が高かった[谷村雅子]。
4)文献調査では被虐待児の病気は精神発達遅滞、情緒障害、多動が多かった[二瓶健次]
5)今までの機関連携の調査結果に基づいて、児童虐待予防のための地域システムを検討した。地域の社会資源で虐待リスクの把握可能な機関と支援可能な機関をリストし、これらの連携・調整にあたる地域中核機関として保健所が適切と考えた。虐待の一次予防(ハイリスク家庭の把握と援助、健全育成の確認など)、二次予防(早期発見と早期対応)、三次予防(再発防止)の三段階の予防戦略を組み、機関間連携の問題点を明らかにした。保健所は主として一次予防を中心に支援活動を行い、常に健全育成の確認を行って、虐待に進行した場合には虐待対応の地域中核機関である児童相談所に通告し、協力して早期対応(二次予防)を行う。各機関の専門性の有効活用による協力体制が整備されつつあったが、プライバシー保護による情報交換の制約が、異なる機関の連携推進を妨げていること、また、行政機関の連携のみでは、行政対象とならない家庭の把握、介入が困難であることに留意すべきである [松井一郎]。
Ⅱ.重症化と再発防止のための連携システムの構築と介入技法の確立
1)虐待死亡例の検討:早期診断法確立のため、全国の法医学教室における司法解剖例を調べ、明らかな虐待は325例、虐待が疑われる事例139例、合計464例であった。データベースを作成し、早期診断に有用な情報を整理中[恒成茂行]。
2)再発防止のための保健機関と他機関との連携:4府県の保健所と保健センターにおける他機関との連携実態を調査、母子保健活動で虐待家庭を発見し、児童相談所へぎ、施設保護や在宅乳幼児への治療的援助を系統的に行っていた。母子保健活動の中で虐待対応が可能なことを示している。保健所と保健センターとの連携は3県で連携があったが、1県では連携が少なく、他機関との連携における役割も異なっていた。[小林美智子]。
3)宗教的理由が関係する虐待:全国主要病院の小児科を対象とする被虐待児調査報告例(1986-1998年)中、宗教的理由で医療や養育が不適切な例が、小児科を受診した虐待例の1%存在した。医療的放置5例、身体的虐待5例のいずれも死亡または施設措置となった重症例であったが、親は行為を非とは認めていなかった。対応経験を蓄積して専門的援助方法を検討することが重要である[谷村雅子]。
Ⅲ.被虐待児の治療:三重県下の児童養護施設の悉皆調査で、被虐待児は12%であった。被虐待児は情緒・行動特徴は境界型人格障害の特徴を連想させるものがあり、対人関係の指導における困難さなど、特別の治療的ケアを要する例が多い。従って、通常の児童を収容してきた従来の児童養護施設のままでは対応できず、他の施設収容児にも影響を及ぼす恐れがある。専門職の配置が必要である[清水将之]。
上記のように、現行の母子保健サービスを基盤として、保健婦の家庭訪問と保育園での児のケアなど、既に虐待ハイリスクの育児支援や地域を基礎とした種々の取り組みが進められていた。従って、これらの地域サービスを基盤として、健全育成のためにハイリスク家庭の把握と支援を系統化すれば虐待の防止に効果的と考えられる。
1)病院-保健所連携:病院で把握される虐待ハイリスク(低出生体重児、病的新生児など)と保健所支援活動の連携を実態調査し、和歌山医大周産期部の対象児のうち6割のみに連絡がなされ、和歌山市保健所では受理された児の8割について病院へ回答があった。現行の追跡システムを改善すれば連携に有用で、幾つかの改善点を提言した[小池道夫]。全国200のNICUの過去5年間の退院児(18400名)の追跡調査で、虐待と確認されたのは49例(0.2%)で、約7割は保健所への連絡があった[小泉武宣]。
2)保育所の活動と他機関との連携:4府県の保育所・園調査では、虐待または虐待ハイリスク児は全園児の1.5%で、保育所は被虐待児のケアを配慮した保育は可能であるが、家庭への特別な対応は困難と回答した。福祉事務所や児童相談所との連携はとれているが、保健所・保健センターとの連携が少なかった[下泉秀夫]。
3)否定的養育意識群(虐待ハイリスク群)の変化と親子関係:幼稚園児の母親を対象として、育児不安・育児困難に関する後向きアンケート調査で、妊娠中または産後に気分体調に変化がみられたものはそれぞれ20%、40%と高率。妊娠時からの育児意識は、負担感をもつ率が出生直後6%から現在の1%に減少していた[田野稔郎]。4カ月から3歳までの縦断調査から、養育意識が否定的から肯定的に変化した群に比して、養育意識が継続して否定的な群には、児が発達や健康問題を有する率が高かった[谷村雅子]。
4)文献調査では被虐待児の病気は精神発達遅滞、情緒障害、多動が多かった[二瓶健次]
5)今までの機関連携の調査結果に基づいて、児童虐待予防のための地域システムを検討した。地域の社会資源で虐待リスクの把握可能な機関と支援可能な機関をリストし、これらの連携・調整にあたる地域中核機関として保健所が適切と考えた。虐待の一次予防(ハイリスク家庭の把握と援助、健全育成の確認など)、二次予防(早期発見と早期対応)、三次予防(再発防止)の三段階の予防戦略を組み、機関間連携の問題点を明らかにした。保健所は主として一次予防を中心に支援活動を行い、常に健全育成の確認を行って、虐待に進行した場合には虐待対応の地域中核機関である児童相談所に通告し、協力して早期対応(二次予防)を行う。各機関の専門性の有効活用による協力体制が整備されつつあったが、プライバシー保護による情報交換の制約が、異なる機関の連携推進を妨げていること、また、行政機関の連携のみでは、行政対象とならない家庭の把握、介入が困難であることに留意すべきである [松井一郎]。
Ⅱ.重症化と再発防止のための連携システムの構築と介入技法の確立
1)虐待死亡例の検討:早期診断法確立のため、全国の法医学教室における司法解剖例を調べ、明らかな虐待は325例、虐待が疑われる事例139例、合計464例であった。データベースを作成し、早期診断に有用な情報を整理中[恒成茂行]。
2)再発防止のための保健機関と他機関との連携:4府県の保健所と保健センターにおける他機関との連携実態を調査、母子保健活動で虐待家庭を発見し、児童相談所へぎ、施設保護や在宅乳幼児への治療的援助を系統的に行っていた。母子保健活動の中で虐待対応が可能なことを示している。保健所と保健センターとの連携は3県で連携があったが、1県では連携が少なく、他機関との連携における役割も異なっていた。[小林美智子]。
3)宗教的理由が関係する虐待:全国主要病院の小児科を対象とする被虐待児調査報告例(1986-1998年)中、宗教的理由で医療や養育が不適切な例が、小児科を受診した虐待例の1%存在した。医療的放置5例、身体的虐待5例のいずれも死亡または施設措置となった重症例であったが、親は行為を非とは認めていなかった。対応経験を蓄積して専門的援助方法を検討することが重要である[谷村雅子]。
Ⅲ.被虐待児の治療:三重県下の児童養護施設の悉皆調査で、被虐待児は12%であった。被虐待児は情緒・行動特徴は境界型人格障害の特徴を連想させるものがあり、対人関係の指導における困難さなど、特別の治療的ケアを要する例が多い。従って、通常の児童を収容してきた従来の児童養護施設のままでは対応できず、他の施設収容児にも影響を及ぼす恐れがある。専門職の配置が必要である[清水将之]。
上記のように、現行の母子保健サービスを基盤として、保健婦の家庭訪問と保育園での児のケアなど、既に虐待ハイリスクの育児支援や地域を基礎とした種々の取り組みが進められていた。従って、これらの地域サービスを基盤として、健全育成のためにハイリスク家庭の把握と支援を系統化すれば虐待の防止に効果的と考えられる。
結論
虐待は予後が悪いので一次予防を中心とした地域の連携体制が必須で、保健所・保健センターを中核機関として下記の予防システムを早急に組むことが重要である。保健所・保健センターではハイリスク家庭の連絡を受け、保健婦訪問で確認、支援計画を組む。支援活動は保健所の多くの機能の活用と同時に地域内の保育所、福祉行政、その他と連携する。保健婦は健診や訪問を通して対象児の健全育成と養育環境の改善を評価し、対策を検討する。虐待に進行した場合には虐待対応の地域中核機関である児童相談所に通告し、協力して早期対応を行う。これらの予防活動の母子保健事業での方向づけと法整備が必要である。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-