心身症、神経症等の実態把握及び対策に関する研究

文献情報

文献番号
199900302A
報告書区分
総括
研究課題名
心身症、神経症等の実態把握及び対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
奥野 晃正(旭川医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 三池輝久(熊本大学医学部)
  • 渡辺久子(慶應義塾大学医学部)
  • 星加明徳(東京医科大学)
  • 衞藤 隆(東京大学大学院教育学研究科)
  • 小枝達也(鳥取大学地域教育科学部)
  • 金生由紀子(東京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
33,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、小児科領域で全身倦怠感、頭痛、腹痛等の不定愁訴、神経性食欲不振症、睡眠障害等を主訴として受診する小児の増加が著しいといわれているが、これまで全国的な実態調査はなされていなかった。医療機関で心身症・神経症等の診断で治療を受けている患者は、学校で問題行動や心の健康問題を示す児童生徒の一部に過ぎず、学校においても医療機関を受診している患者のすべてを把握しているわけではないと考えられている。心身症・神経症等の全体像を把握して適切に対処するには、医療機関と学校が協力して全国的な調査をすると同時に詳細な病態解析に基づく治療体制の確立がのぞまれる。今年度は3年計画の2年目にあたり、重点目標は全国の病院および学校を対象とする実態調査とした。すなわち、医療機関における調査では、日本小児科学会認定医制度研修施設の小児科外来を受診した患者全てを対象とし、受診理由・最近訴えている症状などの質問事項をまとめた。また、学校を対象とした調査では、保健室を利用した全ての児童生徒を対象として、保健室を訪れた理由、最近感じている症状・状態像について前方視的に調査することにした。
研究方法
a)医療機関対象の調査:日本小児科学会認定医制度研修施設となっている全国の565病院すべてに調査用紙を送り、調査当日に小児科を受診した患者全員を対象に調査するように依頼した。その内容は次の通りである。調査期間は、平成11年10月18日(都合が悪ければ10月25日)の1日間とする。保護者あるいは患者が生年月日、性別、通園・通学状況、受診理由、最近訴えている症状、睡眠状況、対人関係の問題の有無について記載し、次いで診察した医師が判定を記入する。b)学校対象の調査:全国の小・中学校および高等学校から無作為に5%を抽出した小学校1,208校、中学校545校、高等学校255校の計2,008校にアンケート用紙を送付した。調査期間は、平成11年10月18日から22日(都合が悪ければ10月25日から29日)までの5日間とし、調査期間内に保健室を利用した児童生徒の来室理由、睡眠障害の有無等を調査した。c)分担研究者の各個研究:上記の全国調査の予備段階として各分担研究者の拠点において調査の妥当性を検討した(沖、奥野、星加、渡辺)。また、心身症等の対応マニュアルの試作および心身医学の卒後教育問題(星加)、不登校と睡眠障害に関するアンケート調査(三池)、摂食障害の予防と早期発見を目的に不健康やせの発生頻度(渡辺)、学習障害の病態解明(小枝)、チック・トゥレット症候群の実態(金生)について検討した。
結果と考察
病院対象の調査:協力を得た病院は454施設(80.3%)で、回収できた調査用紙は36,378枚、有効回答の患者数は25,991人であった。このうち保育園児および幼稚園児は7,825人、小学校、中学校および高等学校の児童生徒はそれぞれ5,591人、1,780人および623人であった。3歳以上の小児14,796人を分析の対象とした。いわゆる不定愁訴に関連する自覚症状は、身体がだるい16.4%、頭痛10.7%、腹痛10.4%であった。以上の諸症状について、診察した医師が明らかな身体疾患ではなく、心身症など心の問題によると判断した例は5.9%を占めていた睡眠について何らかの問題を抱えているものが約30%あった。登校・登園状況では月の半分以上休む者が2.7%あった。対人関係については10.6%が家族、友人あるいは教師との関係に問題を抱えていた。また、心身症関連疾患として、4.1%が起立性調節障害、過敏性腸症候群、摂食障害、チック、注意欠陥多動障害あるいは学習
障害と診断された。
学校対象の調査:協力を得た学校1,264校(62.9%)のうち、学校種別・児童生徒数の記載があったのは1,157校で、その児童生徒数は450,288人、保健室を利用した児童生徒の実人数は37,598人、延べ人数は61,497人であった。保健室利用率は小・中・高等学校のいずれにおいても学年とともに増加し、とくに中学3年生の利用率が高く1日あたり延べ利用率は5.2%を示した。来室理由としては、身体がだるい(18.5%)、頭痛(21.4%)、腹痛(14.4%)、その他心理的理由と考えられるもの(16.6%)が上位をしめた。睡眠障害の項では、朝起きられないが14%を示した。これらの訴えのうち心の健康問題によると考えられるものは6,100人(9.9%)であり、小学校低学年で6.0%、小学校高学年で10.3%と徐々に増加し、中学生になると12.6%を占めていた。特に、中学3年生では、延べ利用人数10,632人中1,476人(13.9%)で心の問題による状態と判断された。
分担研究者の各個研究:全国調査に先だって行った予備調査によって効果的な調査票を作成することが出来た。小児心身症の対応マニュアルは保護者用と医師用の2種を作成し有効性を検討中である。小児心身医学の卒後教育に関しては鑑別診断のために脳腫瘍、てんかん、高機能自閉症とアスペルガー障害の知識が必要と考えられた。中学生の不登校と睡眠障害に関しては対人関係に問題を感じているものが多いことが指摘された。女子中学生の不健康やせの発生頻度は7.9~25.0%に認められ、予想以上に高値であった。学習障害の病態について特異的読字障害の診断法、言語障害の指導対象児の6.8%が学習障害児である、また低出生体重児と学習障害の関連性が指摘された。チック・トゥレット症候群の実態調査で、患者の家族の多くが育て方の不適切のためと思い悩むものが多く、説明指導に際し注意を要することが指摘された。
結論
心身症等の心の健康問題による不定愁訴を訴える子どもの数は、通常の医療機関を受診する小児の5.9%であり、保健室を利用した児童生徒のうち9.9%を占めていることが判明した。訴える症状は、「だるい」「頭痛」が多く、医療機関の調査では、それぞれ16.4%、10.7%であり、学校の調査でも15.4%、17.2%だった。心の健康問題、心身症と判断された患児、児童生徒でどの症状が多いかを、今後さらに検討を重ねていく予定である。今回の調査では、いわゆる不定愁訴としてまとめられる軽微な症状の頻度が高いことが確認された。これからの小児科医は、このような症状を有する患者にも充分対応できるようなトレーニングが求められる。また、通常の小児科を受診した子どもでも、月の半分以上登校・当園できない者が2.7%、睡眠障害が約30%いたことは、潜在的な心の健康問題で悩んでいる子どもが膨大な数であることを示唆している。
学校における5日間の調査からも、保健室に通っている児童生徒の割合は、小学校では約7%、中学生では約10%、高等学校では約8.5%と多く、相談のみで保健室を利用する児童生徒も小学校高学年から増加し、高等学校では保健室利用者の5%を占めていた。この数は、少人数の養護教諭だけで対応できる数ではなく、現在ようやく導入されたスクールカウンセラー等のスタッフのみならず、身体疾患と心の健康問題との両者を熟知しているスタッフの増員が必要となろう。

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