周産期医療体制に関する研究

文献情報

文献番号
199900295A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期医療体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中村 肇(神戸大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 裕(東邦大学医学部)
  • 三科 潤(東京女子医大)
  • 大野 勉(埼玉県小児医療センター)
  • 山縣然太朗(山梨医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の周産期医療の諸指標は、世界でも最も優れた数値を示しているものが多いが、今後この水準を維持し向上させるためには多くの問題点も存在する。当研究班では、我が国の周産期医療体制の現状を調査すると共に、今後の整備について提言することを目的に研究を実施した。
研究方法
研究1.周産期・新生児医療施設の全国実態調査
日本小児科学会新生児委員会新生児医療調査小委員会(小委員長 石塚祐吾)が、1996年1月に実施したハイリスク新生児医療全国調査の対象施設である100床以上の病院で産科、小児科の両者を備えている施設、総合小児医療施設、及び周産期医療施設(日本産婦人科学会のアンケート対象施設)である1217施設のうち、23名の研究協力者による予備調査からハイリスク新生児を扱わないと判定された202施設を除く、1015施設に対して1998年(平成10年)10月20日にアンケート調査票を発送した。調査は主に各医療機関における1997年(平成9年)の産科及びハイリスク新生児の入院実績、医療設備、要員等の医療状況、地域の周産期医療体制について行った。その結果、1999年(平成11年)7月31日現在までに何らかの回答のあったのは612施設(回収率60.3%)であり、そのうち新生児未熟児病床を有すると回答した555施設(回収率54.7%)につき主なる解析を行った。
研究2.NICU長期入院患児の実態とその後方支援に関する全国調査
周産期医療の発達と関係者の努力により、多くのハイリスク新生児が救命され、良好な経過をたどっている。一方で、種々の事由により、長期入院を余儀なくされている患児もあり、新たな課題となっている。本調査は長期入院患児に対する医療支援、社会的育児支援の在り方を考える上で、その実態を全国レベルで把握をすることを目的とする。対象は、病的新生児病床(広義のNICUをさす。以下単にNICUと略す)を有する全国の医療機関に平成11年12月1日現在、入院している患児のうち、小児科または新生児科(小児病院、小児医療センターは小児内科または新生児科)が管理しているすべての患児とする。年齢は問わない。上記入院患児のうち、平成11年12月1日時点で連続60日以上の入院患児でNICU病床に入院している患児または過去にNICUを経験している患児については、「長期入院(60日以上)患児個別調査票」(調査票2)により、後方病床についての検討をした。
3)「後方病床に関するご意見」(調査票3)に各施設における後方病床の状況と意見をご記入。
研究3. 1990年度出生の超低出生体重児9歳時予後の全国調査
1990年出生超低出生体重児6歳時予後全国調査で検討対象となった548例を対象として、対象症例を持つ135施設に以下の調査を実施した。フォローアップ状況・就学状況・身体所見・運動発達・知能発達・微細運動行動発達・視力障害・聴力障害・てんかんなどの異常について調査した。また、各症例に対して・母親への児に関するアンケートおよび・SM社会生活能力検査票を配付し、回収した。各調査は倫理面、プライバシー保護に十分配慮して行った。
研究4.超低出生体重児の就学に関する調査研究
研究目的は、未熟児新生児医療の進歩と共に、超低出生体重児の生存率は改善し、また、長期生存例も増加した。これらの児が就学後に種々の問題を持つことも徐々に明らかにされてきた。そこで、その実態を調査し、超低出生体重児の就学後の困難を少なくするための方策を検討する。研究方法としては、1999年9月に、新生児医療連絡会に加盟している、全国の新生児科医299名に対し、郵送法にて、自院を退院した超低出生体重児の就学後の問題、就学猶予を行った例の経験、就学猶予を行おうとしたが許可されなかった例の経験、就学猶予を行った方がよいと考える場合等についてアンケ-ト調査を行った。
結果と考察
1. 周産期医療整備対策事業の推進に向けての主な問題点を挙げると、
1)全国で総合周産期母子医療センターを指定したのは未だ9都府県に過ぎず、このうち都府県単独事業で複数の施設を指定したのは、4都県、9施設であった。
2)社会保険で認可された新生児集中治療病床を9床以上を有する施設は、全国に60施設あり、6~8床が認められている施設を合わせると113施設であった。NICUに関しては、今後これらの施設の要員や病床面積を充実させれば、センター施設になり得ると考えられた。新生児病床があっても社会保険認可をとれない施設では、医師、看護婦数の不足が最も大きな要因であることが明らかになった。
3)産科に関しては、9床以上の母体胎児集中治療室(MFICU)を有する施設は34施設、6~8床の施設は19施設であるのに対して、母体搬送を年間50件以上受け入れている施設が104施設あり、MFICUとしての整備の遅れが明らかとなった。
4)NICU、MFICUとも現在の基準は適切と考えられるが、総合周産期母子医療センタ-の指定を行っている地域が少ない原因としては、道府県が財政面から事業を開始していないことと、MFICUの施設整備が遅れていることの両方の要因が考えられた。
5)周産期医療を推進していく上で、総合周産期母子医療センタ-だけでなく地域周産期医療センターの整備が不可欠である。その必要とされる規模は地域により多様であり、総合周産期母子医療センタ-とは異なる経済的なバックアップを必要としてる。
6)周産期医療体制を整備するための対策を検討したが、医師の不足が深刻であり、医師の増員が可能になる医療費の改善が緊急な課題であることが結論された。
2. 小児医療機関における長期入院患児の動向の実態調査
長期入院患者に対する医療支援、社会的育児支援の在り方を考える上での基礎資料として全国の長期入院患者の実態を調査した。対象は492施設で、回収数372施設(回収率75.6%)であった。入院患児全体(9596名)で入院期間は1週間までが最も多く、2週間までで半数を超える。半年以上の入院が9%、1年以上が約5%であった。入院期間について、平均入院日数は必ずしも入院期間を代表しておらず、中央値や75や90百分位数を検討することが妥当である。これにより在胎週数別、出生体重別の標準入院期間を算定できる。また、患児の出生時体重以外の情報を加味することにより、より正確な算定が可能である。
長期入院患者の約50%で、小児科一般病棟、重心施設、Chronic NICUなどの後方病床への移床の必要性を認めているが、20%は空き待ちの状態で、30%は後方病床がない状況にあった。後方病床の必要数等については年次推移などの情報得ることにより算定可能である。
次年度は、NICUをもつ施設を中心に、長期入院患児の年次推移を調査し、全国的に後方病床の必要数、ならびに後方病床のあり方について検討を進めていきたい。
3. ハイリスク新生児のフォローアップ調査研究
1990年度出生の超低出生体重児について、3歳時、6歳時に引き続き、9歳時における発達を評価した。神経学的予後とともに、SM社会生活能力検査を施行した。1990年出生の超低出生体重児の縦断的予後調査として9歳時予後全国調査を行った。ほとんどが自施設にてフォローアップされていた。障害発生率は6歳時と大差はなかった。母親へのアンケート調査で運動面での不器用さ、学習面での問題点が指摘されたが、社会適応は良好であった。97%の児が楽しく学校に通っていた。今後これらの点を考慮した支援が必要であろう。
長期生存例が増加するにつれ、これらの児の就学後の問題が生じてきた。そこで、超低出生体重児の就学に関する問題の現状を把握するために、新生児医療担当者および就学後の超低出生体重児を持つ両親に対し、郵送アンケ-トにより、就学に関する問題の現状を調査した。この結果、学習障害、いじめ、不登校などが就学後の問題として挙げられた。
結論
各地の周産期医療整備状況を調査し、要員と施設整備を行えばセンタ-として機能出来る施設があることが明らかになった。今後のシステム化のためには要員の確保が必要であり、このためには早急な医療費の改善が必要であることも明らかになった。
NICUベッドを占拠している長期入院患者の約50%で、小児科一般病棟、重心施設、Chronic NICUなどの後方病床への移床の必要性を認めているが、20%は空き待ちの状態で、30%は後方病床がない状況にあった。次年度には、NICUを中心に調査し、年次推移などの情報得ることにより、後方病床の必要数、あり方等について算定可能であることが明らかとなった。

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