後障害防止に向けた新生児医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900294A
報告書区分
総括
研究課題名
後障害防止に向けた新生児医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小川 雄之亮(埼玉医科大学総合医療センタ-小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 小川雄之亮(埼玉医科大学総合医療センタ-小児科)
  • 仁志田博司(東京女子医科大学母子総合医療センタ-)
  • 藤村正哲(大阪府立母子保健総合医療センタ-)
  • 戸苅創(名古屋市立大学医学部小児科)
  • 上谷良行(神戸大学医学部小児科)
  • 白木和夫(鳥取大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少産少死のわが国にあっては、救命されたハイリスク児の質が問題であり、次代を担う新生児の救命の質的向上こそ現在最も求められている命題である。従来から後障害なき救命に向かっての諸種の努力がなされてきたが、多くは経験主義に基づくものであった。現在求められているのは経験ではなく、科学に裏打ちされたものであり、新生児のケアにもevidence based medicineが導入されれば、科学的に裏打ちされた対策の確立が期待される。新生児期に障害を防止することによって、本人のquality of lifeが保証されることは勿論、障害児医療福祉事業に要する費用の大幅な低減が可能となり、医療経済的にも大きな成果が得られるものと期待される。本研究においては、新生児死亡率世界一の低率を達成したわが国において、単に救命するのみではなく、後障害なき救命(intact survival)を達成するために、新生児期のケアが如何にあるべきかを、まず現状の分析を行い、さらにevidence based medicineの立場でその対策を確立することを目的とする。
研究方法
上記目的を達成するために未解決の6課題を選び、主任研究者を含む6名の分担研究者が6課題について調査研究を行った。小川雄之亮は「ハイリスク児の養育環境に関する研究」を担当し、規模の異なるNICUにおける騒音を調査し比較検討した。仁志田博司は「ハイリスク新生児の感染症防止対策に関する研究」を担当し、現在わが国で流行の兆しを見せている、TSST-1産生MRSAによる血小板減少を伴う新生児TSS様発疹症について研究した。藤村正哲は「超低出生体重児の後障害なき救命対策に関する研究」を担当し、超低出生体重児のケアへのevidence based medicine導入のため、研究ネットワークを構築し、インドメタシンによる超低出生体重児の頭蓋内出血予防効果について多施設共同無作為比較対照試験の予備試験を開始した。戸苅創は「新生児の虚血性脳障害予防に関する研究」を担当し、PVLの予防対策として、Infant flow NDPAPを用いての多施設共同無作為比較対照試験を開始した。上谷良行は「後障害防止の観点からみた新生児栄養管理に関する研究」を担当し、NICU退院後の極低出生体重児用の栄養について検討し、いわゆるfollow on milkの組成を検討して試作した。また、微量元素欠乏についての調査を行った。白木和夫は「ウイルス母子感染防止に関する調査研究」を担当し、B、C型肝炎母子感染について定点調査を中心に検討を行った。
結果と考察
「ハイリスク新生児の養育医療環境に関する研究」では、規模の異なる4NICUにおいて保育器内外の騒音について調査し、騒音の程度はNICUの規模ではなく、とくにモニタ-の心拍同期音の音量によることが明らかになった。また、保育器内の騒音は手入れの差によることが明らかにされた。一方、保育器の窓の開閉時に保育器内の騒音が最も大となることが前年度の研究で明らかにされたところから、保育器の窓の改良に取り組み、改良型では騒音を大きく減少させることが可能となった。来年度は騒音の児への影響を明らかにするため、環境の騒音測定とともに、児の生体情報の変化についてモニタ-する予定である。「ハイリスク新生児の感染防止対策に関する研究」においては、新生児TSS様発疹性疾患はTSST-1産生MRSAによる感染症であることが確認された。本症が通常軽症に終わるのは主に毒素特異的免疫寛容とdeletionが誘導されることによることも
明らかにされた。また、母体からの移行抗毒素抗体保有のない約40%の正期産児、または早産児に本症の発症の可能性があることが示され、今後の予防対策の確立が重要である。次年度以降では有効なスキンケアの方法の確立が望まれる。「超低出生体重児の後障害なき救命に関する研究」では、科学性・倫理性・統計学・現場コンプラアンスなどについて基礎的検討医をを行い、解決方法を策定した上で新生児集中治療の専門医療機関群による臨床研究ネットワ-ク組織が確立され、インドメタシンの超低出生体重児における頭蓋内出血予防効果について、多施設共同無作為比較対照試験の予備試験が開始された。インタ-ネットを通して対象の登録を24時間受けつける方式は新しい試みで、その成果が期待される。「新生児の虚血性脳障害予防に関する研究」では、脳室周囲白質軟化症(PVL)の発症頻度が増加傾向にあるところから、有効な治療法がない今日、理論的に可能性のある予防法の一つとしてNDPAPによる予防効果を検討する多施設比較対照試験が開始された。現在のところ112例がエントリ-されているが、更なる症例の集積が期待される。「後障害防止の観点からみた新生児栄養管理に関する研究」においては、NICU退院後の栄養管理で、低出生体重児の退院後に専用のフォロ-オンミルクの開発がのぞまれているところから、フォロ-オンミルクの開発を行い、5例について予備哺乳試験を行って良好な成績を得た。また、微量元素欠乏についての全国調査を行い、全国で44例の亜鉛欠乏が把握された。母乳添加剤に微量元素を食品の形で添加することがかなり困難であり、今後の検討が待たれるところである。「ウイルス母子感染防止に関する調査研究」では、経年的調査によりB型肝炎母子感染防止事業が開始された1986年以降に出生した児ではHBs抗原陽性率がそれ以前に出生した例の1/10に低下していることが明らかとなった。また、健康保険に組み込まれて以降は鳥取県でのモニタリングで、母親がHBeAB陽性キャリアで児の感染防止が不十分であることが示された。また、生後5日からのHBワクチン接種開始試行でおおむね良好な抗体獲得が得られ、ワクチン早期接種の可能性が高まった。C型肝炎の母子感染については、前方視的調査でおおむね10%の児に感染が認められたが、一部の例では2歳頃までにウイルス消失をみた。
結論
本年度の研究において以下の結論を得た。1)NICUでの保育環境に関して、騒音の程度は施設の規模によるのではなく、モニタ-の心拍同期音の音量と保育器の手入れに大きく依存している。また、保育器の窓の留め金の改良で開閉時の騒音は大きく減少した。2)血小板減少を伴う新生児TSS様発疹症はTSST-1産生MRSAによるものであることが確認された。発症は母親の抗毒素抗体保有率に関連する。予防には臍部を中心とした効率のよいスキンケアの確立が望まれる。3)超低出生体重児のケアへのevidence based medicine導入のため、新生児医療専門施設研究ネットワ-クを構築し、インドメタシンの超低出生体重児の頭蓋内出血予防効果について、多施設共同無作為比較対照試験の予備試験を開始した。4)PVLの予防法確立の一つの試みとして、NCDAPの予防効果について、多施設共同無作為比較対照試験を開始した。5)NICU退院後の栄養管理のためフォロ-オンミルクの開発を行った。また、微量元素欠乏に関する全国調査で、亜鉛欠乏がクロ-ズズアップされた。6)B型肝炎母子感染対策は極めて順調であり、母子感染率は従来の1/10になった。一方、C型肝炎の母子感染率は約10%であった。感染ハイリスク因子の更なる検討が望まれる。以上の研究成果をもとに、次年度は更なる研究が続けられ、所期の目的が達成されるものと期待される。 

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