マススクリーニングの見逃し等を予防するシステムの確立に関する研究

文献情報

文献番号
199900292A
報告書区分
総括
研究課題名
マススクリーニングの見逃し等を予防するシステムの確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
黒田 泰弘(徳島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田泰弘(徳島大学)
  • 青木継稔(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新生児マススクリ-ニングシステムの精度を維持・管理して見逃し等を予防するためには採血から治療までの個々のプロセスにおけるきめ細かな方針を決めなければならない。マススクリ-ニングの全検査プロセスにおいて可能なかぎりコンピュ-タ処理を行うことは有用であり,このための全国統一ソフトの制作が望まれる。また,効果的なマススクリ-ニングを実施するためには,現行マススクリ-ニング法の技術的改良と新しいマススクリ-ニング法の導入,個人のプライバシ-等倫理面へ配慮したフォロ-アップシステムの構築・運用,より効果的な新しい対象疾患のマススクリ-ニング事業への導入が絶えず検討されなければならない。本研究班は,これらの諸課題について検討し,その結果が行政施策に反映されることを目的とする。
研究方法
研究方法と結果=(1)新生児マススクリ-ニングで発見されなかった症例の全国調査:新生児マススクリ-ニングの開始後,現在までにマススクリ-ニングで発見されなかった先天代謝異常症はメ-プルシロップ尿症5例とホモシスチン尿症2例,フェニルケトン尿症1例であった。メ-プルシロップ尿症4例は間歇型であり,1例は検体不備によるものであった。他は原因不明であった。マススクリ-ニングで発見されなかった先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)では23例であった。20例は「TSH遅発上昇型」のクレチン症で,2例は産科での検体取り違えによるもので,1例は再採血時の静脈採血で発見された。先天性副腎過形成症(副腎過形成)では8例が発見されなかった。2例はマススクリ-ニング検査は受けていたが検査が実施されていなかった。1例は同時に採血した血清の17OHP値は高値であった。残りの5例は原因不明であるが濾紙血と血清とでの17OHPのギャップ,遅発上昇等が考えられる。(2)スクリ-ニング検査前精度管理:採血日齡,未熟児採血ガイドラインの徹底,実際の採血,検体管理,ヨ-ド系消毒剤使用等について産科医に提供するための「新生児スクリ-ニングにおける検査前の精度管理(案)」をまとめた。(3)スクリ-ニング検査の精度管理:マススクリ-ニング検査のデ-タ解析及び内部精度管理処理プログラムの全国レベルでの統一化を図るためにプログラムの作成とスクリ-ニングへの導入・運用試験を実施し,全国レベルで使用しうることを確認した。さらにコンピュ-タ通信を応用したスクリ-ニング専用ネットワ-クを構築し,測定デ-タを統一デ-タ処理ソフトで解析し,結果を規定形式で送信するというより理想的なシステムに発展させた。(4)スクリ-ニング検査後の精度管理:軽症クレチン症の診断・治療についてアンケ-ト調査を行った。小児内分泌専門医の中でも統一した考え方がなかった。今後,各治療管理施設での共同研究が進められるべきである。テトラヒドロビオプテリン(BH4)欠乏症をPKUと区別するためにBH4負荷試験を行うが,フェニルアラニン水酸化酵素欠損症の中にもBH4に反応する病型の存在が明らかになったので注意を要す。(5)マススクリ-ニングの新しい対象疾患:1)ウイルソン病;血中あるいは尿中セルロプラスミン測定によりスクリ-ニングされる。スクリ-ニング適期は3~7歳であろう。この時期は採血が困難であるため,尿を用いるのがよい。尿中セルロプラスミン測定を指標とする場合,再検率が問題であり,セルロプラスミンの劣化の問題もあり新鮮尿を必要とする(ヒビテンを加えることにより安定する)。再検率を0.3%以下にするにはカット・オフ値を低下させる必要があるが,感度・特異度も低下する危険があり,見逃し例も3~5%以上になる。したがって,尿中銅/クレアチニン測定を加えると見逃し例が著しく低下する。ただし,本症乳児例では,尿中銅排泄
の上昇が確実となるのが5歳以後であるため,スクリ-ニングは5~7歳が適期となる。2)ムコ多糖症;パイロット・スタディの当初の目標である10万検体をスクリ-ニングしたが,患者は発見されていない。今後,現行パイロット・スタディの評価を行いつつ,新たなスクリ-ニングシステムの開発を検討する。3)胆道閉鎖症;茨城県で15,665検体(回収率30%)をカ-ドを用いてスクリ-ニングして2名の患者が発見された。4)有機酸代謝異常症;GC/MSにより9,463新生児尿検体をスクリ-ンニングしてメチルマロン酸血症2例を含む8例を発見した。ESI-MS/MSにより44,653新生児血液濾紙検体をスクリ-ニングしてプロピオン酸血症1例を発見した。
結果と考察
考察=新生児マススクリ-ニング検査における発見漏れの原因として軽症例である場合とスクリ-ニング検査システムの過程に何らかの問題がある場合とが考えられる。発見漏れ防止のために,前者の場合にはカットオフ値の低下とそれに伴う再検率の上昇とのバランスについて検討しなければならない。後者の場合にはスクリ-ニング検査システムの各過程の精度管理を強化しなければならない。また,新しいマススクリ-ニングあるいは新しいマススクリ-ニング検査法を導入するに当たっては有効性,費用/効果分析など事前の十分な検討が不可欠である。
結論
新生児マススクリ-ニングシステムの精度を維持・管理して見逃しを予防するために採血から治療までの各プロセスについて問題点を分析して予防方策を立てた。とくに内部及び外部精度管理のコンピュ-タ化を試みた。また,ウイルソン病等のマススクリ-ニングの導入について検討した。

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