新生児期の有効な聴覚スクリ-ニングと療育体制に関する研究

文献情報

文献番号
199900290A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児期の有効な聴覚スクリ-ニングと療育体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
三科 潤(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 多田 裕(東邦大学医学部)
  • 田中美郷(帝京大学)
  • 加我君孝(東京大学)
  • 久繁哲徳(徳島大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
聴覚障害児の発症は1000出生に1~2人とされ、聴覚障害児に対する療育を早期に開始すれば、言語能力や知能発達に効果があることが示されている。しかし、その約半数はロ-リスク児であり、乳幼児期には他覚的徴候に乏しいため、現在では2歳以降と年齢が進んでから発見されることが多く、診断および療育は更に遅くなる。近年、自動聴性脳幹反応(AABR)や耳音響反射(OAE)などスクリ-ニングに有効な方法が開発され、現在欧米でも全新生児を対象とした聴覚スクリ-ニングが広まっている。そこで本研究では、わが国ではこれまで殆ど実施されていなかった全新生児に対する聴覚スクリ-ニングを実施し、聴覚障害児の早期発見を有効に行える方法、スクリ-ニングを実施しうる体制などを検討し、わが国に於ける新生児期の聴覚障害のスクリ-ニング方法の確立をはかる。さらに、確定診断の方法や、聴覚障害児の早期療育方法、スクリ-ニングから確定診断、早期療育が遅滞なく進められるシステムについても検討し、また、スクリ-ニングによる社会的経済的な効率についても検討する。初年度に引き続き、以下のように研究を分担して行った。1. 新生児期の聴覚スクリ-ニング実施および追跡調査による効果的なスクリ-ニング方法の検討(三科 潤、多田 裕)2. 新生児期の聴覚障害診断法に関する検討 - 特に、ABRとDPOAEの比較検討(加我君孝)3. わが国における聴覚障害児の早期診断および療育体制の現状に関する研究(三科 潤、久繁哲徳)4. 聴覚障害の診断および聴覚障害児の早期療育方法に関する検討および早期療育マニュアル作成(田中美郷)5. 米国に於ける新生児期聴覚スクリ-ニング実施体制および早期療育体制に関する視察調査(三科 潤、多田 裕、田中美郷)6. わが国における新生児期聴覚スクリ-ニング実施体制および早期療育体制に関する検討(三科 潤、多田 裕)
研究方法
1. 新生児期の聴覚スクリ-ニング実施および追跡調査による効果的なスクリ-ニング方法の検討:初年度の研究設計にもとずいた全新生児聴覚スクリ-ニングを継続して実施した。関東、中京、阪神地区の19医療機関(東京女子医科大学、東邦大学、東京大学、帝京大学、昭和大学、日赤医療センタ-、愛育病院、埼玉県立小児病院、山口病院、山王クリニック、永井クリニック、名古屋市立大学、名古屋第二赤十字病院、城北病院、大阪府立母子保健総合医療センタ-、神戸大学、パルモア病院、姫路赤十字病院、倉敷成人病センタ-)において、院内出生児およびNICUに収容された児のうち同意が得られたものを対象として実施した。新生児期の聴覚スクリ-ニング法としては現在特異度が最も高い、自動聴性脳幹反応(Natus社製アルゴ2)を用いた。音圧35dbHL(ささやき声程度の音圧)のクリック音を聞かせ、掃引回数最大15000回で、反応あり(pass)、反応無し(refer)を判定する。検査は自然睡眠下で行った。検査実施時期は、正期産児は原則として生後1週以内、早産児は原則として修正36~44週頃とした。聴覚スクリ-ニングの結果による児の取り扱いは以下のようにした。AABR再検査でも両側"refer"が出た場合は、スクリ-ニング「陽性」とし、ABRを実施する。ABRの判定は、40dbHLにおいて分離不良を異常とした。ABR異常例には更に精密聴覚検査を実施して聴覚障害の診断を行い、障害例に対しては、早期療育を行う。また、調査票により、保護者の同意を得て、対象者全例を登録する。アルゴ2の感度は機械的には99.96%と言われているが、さらに1歳6か月および3歳に於いて、追跡調査をおこなってスクリ-ニング法の感度、特異度、的中率を求め、検査の有効性を判定
する。
2. 新生児期の聴覚障害診断法に関する検討 - 特に、ABRとDPOAEとの比較検討:難聴疑いで紹介された30例を対象にABRとDPOAEの比較を行った。2,3,4KHzのDPグラムを描き、反応の有無を調べる、DPOAスクリーナ(米国GSI社)を使用した。
3. わが国における聴覚障害児の早期診断および療育体制の現状に関する研究:大学病院およびその付属病院、日本耳鼻科学会乳幼児医療委員会調査医療機関、ことばの相談・検査・治療機関を対象として、乳児の聴覚障害診断の現状を郵送法にて調査した。また、難聴幼児通園施設、療育を実施している医療機関、聾学校幼稚部などを対象として乳児の聴覚障害療育の現状を郵送法にて調査した。
結果と考察
1. 新生児期の聴覚スクリ-ニング実施および追跡調査による効果的なスクリ-ニング方法の検討:研究開始時より2,000年2月までに、上記研究参加施設においてハイリスク児433例、ロ-リスク児9,157例、合計9,590例に対しアルゴ2による聴覚スクリ-ニングを実施した。ハイリスク児に於いては、両側referは22例(5.1%)であり、19例(4.4%)はABRに於いても異常所見が認められ、このうち7例(1.62%)が両側聴覚障害と診断された。また、ロ-リスク児9,157例に於いては、両側referは18例(0.2%)であったが、このうち10例のABRに異常を認めた。そのうち5例に両側聴覚障害を認め、1例に片側聴覚障害を認めた。全体では、スクリ-ニング陽性は40例、0.42%で、両側聴覚障害は12例0.13%であった。検査の特異度は99.7%であった。両側聴覚障害例は補聴器装着を含む早期療育を実施している。他に片側refer例から7例の片側聴覚障害が診断された。
2. 新生児期の聴覚障害診断法に関する検討 - 特に、自動聴性脳幹反応と耳音響反射法の比較検討:両耳ともスクリーナによるDPOAEがパスでABRが正常であったものが20例、DPOAEが無反応でABRが正常が2例、DPOAEが無反応でABRも域値上昇あるいは無反応は8例であった。DPOAEが正常でABR無反応例はなかった。すなわち、ABR域値上昇あるいは無反応に対し、DPOAEの感度は100%で、特異度は91%であった。
3. わが国における聴覚障害児の早期診断および療育体制の現状に関する研究:生後6か月以内の乳児の聴覚障害の診断が可能であると回答したのは170機関あったが、乳児聴覚障害診断に必要な検査法が充分に実施できるのはその約半数であった。1998年に、生後6か月未満に診断を受けた児は189例、生後6か月から1歳未満に診断を受けた児は182例で、371例が上記診断機関において、1歳までに中等度以上の聴覚障害と診断されていた。1歳未満の難聴児の療育を行うと回答した施設は、通園施設および病院が104施設、聾学校幼稚部が75校あった。しかし、難聴幼児通園施設以外の通園施設の多くは、他の障害児との合同療育・保育が主であり、聴覚障害児に対しての補聴器装用や聴能訓練等を実施しているところは少なかった。1歳未満の難聴児の療育可能と回答した104施設の中で、常勤の言語聴覚士がいる施設は59%のみである。聾学校幼稚部で1歳未満の難聴児の療育を行っているところは75校あり、1998年の難聴乳児療育数を見ると、1歳以下の乳児の3分の2が聾学校幼稚部で療育されている。
結論
新生児期の効果的な聴覚スクリ-ニング方法を検討するために、19施設においてAABR(アルゴ2)を用いて、全新生児に対する聴覚スクリ-ニングを実施した。
研究開始時より2,000年2月までに、9,590例に対し実施し、スクリ-ニング陽性は40例、0.42%で、両側聴覚障害は12例0.13%であった。検査の特異度は99.7%と非常に高く、アルゴ2によるスクリ-ニングは有効である。また、スクリ-ニング方法の検討において、特異度はやや低いがDPOAEスクリーナも使用可能と考えられた。施設の規模および対象児のリスクにより、AABRとOAEスクリーナを使い分けることにより、全新生児対象のスクリ-ニング実施が可能であると考える。また、全国で新生児聴覚スクリ-ニングが実施された場合には、確定診断実施機関、早期療育機関の整備が必要である。

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