幼児期における基本的情緒形成とその障害に関する研究

文献情報

文献番号
199900289A
報告書区分
総括
研究課題名
幼児期における基本的情緒形成とその障害に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
清水 凡生(呉大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大日向雅美(恵泉女学園大学人文学部)
  • 森下正康(和歌山大学教育学部)
  • 首藤俊元(埼玉大学教育学部)
  • 岡本祐子(広島大学教育学部)
  • 澤田敬(高知県立西南病院小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は乳児期から幼児期におよぶ発達を視野におき、心の健全育成に資する成果を得るための研究として企画したものである。そのために心の発達に関係する保護者、幼稚園・保育園の保育者などによってもたらされる諸要因の分析を年齢の経過にしたがって行い、それらの子どもへの影響を具体的に、縦断的に検討しながら育児、保育における心の健康作りのための施策を明らかにしようとするものである。
研究方法
健康な新生児とその母親を対象に看護者による新生児行動特徴評定、授乳場面における相互作用評定と、退院前の母親に対して、出産体験に伴う感想、現在の心身の状態、対児感情や認知、そして育児意識や姿勢についての質問紙調査を行った。
自己の感情を言葉で十分に伝達できない乳幼児に対しては、養育者がその表情から乳幼児の感情を的確に判断して対応する能力が求められる。この能力を赤ちゃんの種々の表情の写真を提示し、その感情を推定させることによって観察し、父親と母親について比較した。幼児の思いやりと正義感を自己制御された対人行動と見なし、それを保育者の観察を通して測定した。そして、親子の共感関係と親のしつけの態度は、幼児の対人行動とどのように関連するのかを分析した。
幼稚園における幼児の自己制御機能について、思いやりおよび攻撃性との関係、さらに親子関係が自己制御機能の発達にどのような影響を与えるかについて検討した。そのために幼稚園児の母親とクラスの担任教師に対して、子どもについて評定を求め分析した。
しつけの厳しさが場面の種類に関係なく個人差として認められるのか、それとも内容に応じて変化するものなのかを調査した。そして、幼児の集団生活場面での対人行動を直接観察し、家族共感およびしつけの態度との関連を検討した。
育児による親の発達を支える家族要因について、心理学的な視点から分析したものである。そのために、幼児をもつ母親の個としてのアイデンティティと母親アイデンティティそれぞれの達成・獲得度の比較を行い、その結果と文章完成法から判断された母親役割受容と育児への積極的関与や家族関係との関連性について検討した。
産婦人科病院、保育園、乳児園でチェックリストを使用し、母子関係に関するリスク事例をキャッチし、一次介入を乳幼児精神保健学の専門家の指導の下で現場の職員が行い、二次介入を現場で、現場の職員の協力の下で専門家が行った。
結果と考察
出産後赤ちゃんに対して愛着を深める動機は初めて抱っこした時であり、母親としての実感は授乳によって強くなることが明らかになった。新生児期に母親から『活発』な性格とされた乳児は、睡眠・覚醒リズムが安定しており、授乳場面での相互作用も良好であった。母親の赤ちゃんに対する愛着形成の上で、抱っこと授乳が極めて重要であることが改めて明確になった。また、活発に活動する赤ちゃんに対して母親の働きかけが活性化されることも明らかになった。今後新生児期に認められた気質的行動特性と保護者の育児姿勢、意識が一致するか不一致であるかが、赤ちゃんの情緒形成に対する影響について検討する。
育児に不安や苛立ちの強い場合、父母ともに、乳児の感情認知にやや意図的かつ否定的な要素が込められている傾向が認められた。母親、父親ともに育児不安があることが育児環境として負の影響を与えることが知られ、育児不安の解消が心の発達の基本にあることが示された。
母親の受容的態度は子どもの自己主張能力を高め、誘導的育児スタイルは自己制御能力を高める傾向がある。また、統制的態度や力中心の育児スタイルは子どもの自己抑制機能の発達を阻害する。母親の力中心の育児スタイルは自己主張だけが強く自己抑制能力の低い子どもを育てる。育児スタイルが子どもの自己制御能力の発達に大きな影響をもつ。
思いやりや正義感の発達は同性の親子の間での一体感の形成を促すが、異性間ではかえって抑制される。また、親の自己制御のしつけは同性の親子の間でなされた場合は、思いやりや正義感の発達を促すが、異性間ではかえって抑制される。親の子どもへの介入には性役割を考慮する必要がある。育児の上での性役割の重要性が示された。
幼児をもつ母親の母親役割受容には、家族とのかかわり方、特に夫との関係が重要な意味をもっていること、母親役割を受容し、積極的に育児に関与していくためには、夫が妻の育児に関心を示し、心理的にサポートしていくことが重要であることが示唆された。
産婦人科病院、保育所、乳児園でチェックリストを使用し、リスク事例をピックアップし、一次介入を乳幼児精神保健学の専門家の指導の下で現場の職員が行い、二次介入を現場で、現場の職員の協力の下で専門家が行った。その結果良好な親子関係が育成された。
結論
本研究は乳児期から幼児期におよぶ発達を視野におき、心の健全育成に資する成果を得るための研究として企画したものであるが、研究2年目の成果として新生児気質と母親の認識、育児不安と育児機能、自己抑制機能、思いやり、正義感などの育成と育児姿勢、母親の育児意欲と家族との関係、母子関係のハイリスク状態の早期発見などについて知見が得られた。

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