障害児(者)地域療育等支援事業の推進方法に関する研究

文献情報

文献番号
199900283A
報告書区分
総括
研究課題名
障害児(者)地域療育等支援事業の推進方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 広善(姫路市総合福祉通園センター)
研究分担者(所属機関)
  • 嘉ノ海令子(姫路市総合福祉通園センター)
  • 渡辺幹夫(横浜市中部地域療育センター)
  • 松本知子(あさけ学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成10年度研究によって「障害児(者)地域療育等支援事業(以下、「支援事業」と略す)」のもつ要綱上の不明確性、都道府県等実施主体の委託上の問題や障害保健福祉圏域設定の問題、実施エリアとなる市町村の非協力、受託施設の機能の不均衡や取り組み姿勢の差などの問題が明らかになった。「支援事業」は、二十一世紀の障害福祉に向けた、新しい理念と新しい方法論をもつ事業である。措置制度に裏打ちされた施設中心の福祉から地域生活支援を目標とする利用・契約の福祉への転換期にあって、国・地方行政・施設がこれからの障害福祉制度の重要なモデルとして利用しかつ育てていくべき事業である。しかし、その理念は理解されず、実施方法も受託施設、実施主体それぞれに異なり、円滑に実施されているとは言い難い状況がある。本研究では、「支援事業」の分かりにくさの原因を明らかにした上で、構成する各事業の目的と具体的な運営方法を提示することによってこの事業を円滑にかつ正確に地域展開していく解説書の作成を目的とした。
研究方法
結果と考察
1.「支援事業」の制度的不明確性について考察した。現在、各都道府県・政令指定都市・中核市(以下、都道府県等と略す)や療育等支援施設事業受託施設(以下、支援施設と略す)が、統一した実施方法で事業を展開しているとは言い難く、加えて「出来高払い」の事業補助の計上もまちまちになっている。この原因は以下の3点にあると考えられる。
1)「支援事業」は新しい理念と手法をもつ事業であるにもかかわらず、「在宅重度知的障害者訪問診査事業」「心身障害児(者)巡回療育相談等事業」「心身障害児(者)施設地域療育事業」「心身障害児(者)施設地域療育拠点施設事業」など従前からあった事業を組み込む形で事業構成されてしまった。このため、委託する側、委託される側双方に従前の施設オープン化事業がもってきた「施設に付加された事業」としてのイメージや個々の事業がもつ問題が払拭されずに組み込まれ、「支援事業」の目的や内容が分かりづらくなった。
2)復数の市町村単位での施策展開を目的として障害保健福祉圏域が設定されたにもかかわらず、実施主体が市町村との協議を抜きに「支援事業」を直接施設に委託するという従来の形態をとった。そのため、障害児(者)の地域生活支援に重要な役割を担うべき市町村の位置付けが不明確になり、事業実施への協力が得られない状況が起こった。
3)「支援施設は在宅支援訪問療育等指導事業、在宅支援外来療育等指導事業、地域生活支援事業、施設支援一般指導事業の4事業をすべて実施する」とされたため、4事業が並列的に解釈されてきた。そのため、「支援事業」の基盤となる地域生活支援事業の位置付けが曖昧になり、この事業で配置されているコーディネーターの立場や活動も不明確となってしまった。
以上のような制度理解の混乱は、「支援事業」が障害児(者)の支援のために不可欠な「地域の事業」としての展開を阻害していた。
2.次に、「支援事業」の制度としての解釈を試みた。
1)「支援事業」は、圏域内における障害をもつ人達とその家族のあらゆるニーズに対応していく事業である。そのため、療育等支援施設事業を圏域で実施するにあたって、支援施設は最小限、「相談機能」「障害の状態等把握するための心理学的・社会学的な診断、検査、判定機能」「個別及び集団での訓練・指導機能」「情報提供及びサービス調整機能」「サービス利用援助機能」「社会資源のコーディネート機能」「社会資源などへの支援機能」「地域に不足している社会資源の開発機能」などの機能を確保する必要がある。
しかし、すべての支援施設がこのような広範囲の専門機能を備えることは困難である。その点を考慮すれば、地域の資源を有効に活用しながら、上記の機能を地域全体で補完する方策を考える必要がある。
2)「支援事業」を円滑に実施するためには、実施主体の指導責任の明確化と市町村と支援施設が協働して行う広域事業であるという確認が不可欠である。そのためには、事業委託までの流れと「支援事業」を実施していくための地域支援システムの整備などを盛り込んだガイドラインを示す必要がある。事業委託に際しては、「都道府県等実施主体と圏域の市町村の協議によって委託施設を選定する」「圏域内の対象者の把握と同時に療育や地域生活支援を提供できる社会資源の把握を行う」「委託施設にない機能の補完方法について事前に協議する」「圏域内の対象者だけでなく関係機関などにも事業について周知する」などの準備作業が前もって行われることが重要である。
3.「支援事業」の実施にあたって必要な基本姿勢を考察した。
1)療育等支援施設事業は、4つの事業で構成されているがこれらの事業は並列的な関係ではない。在宅支援訪問療育等指導事業、在宅支援外来療育等指導事業、施設支援一般指導事業の3事業は、原則的には支援施設の施設機能を最大限に活用しながら、不足する機能については地域にある資源を利用しつつさまざまな療育関係機関と協力して対応するものである。一方、地域生活支援事業は、コーディネーターが中心となり、圏域内の社会資源を活用・調整しながら、障害児(者)とその家族の相談に応じて具体的援助を提供していくものである。地域の資源の中から療育機能を確保していく作業もこの事業に含まれる。
2)次に、療育拠点施設事業について考察した。「支援事業」は、圏域を対象とする療育等支援施設事業と都道府県等を対象とする療育拠点施設事業が有機的に連携し合う支援体制の広域的重層化を企図している。そのため、「支援事業」の目的に沿った展開のためにはこの事業の充実が必要不可欠である。しかし、新しい理念と方法論のために療育拠点施設事業の理解は難しく、かつ事業を担える総合的機能をもった施設の設置も少ないことから、この事業の実施は全国的に低調である。解決のためには、「支援事業」の要綱の見直しを含めた抜本的な改革が必要である。
4.最後に、都道府県等実施主体の役割と事業委託に関するガイドラインを提示した。
1)実施主体の役割について、「事業実施に関する市町村との協議と情報提供」「障害保健福祉圏域と事業の対象地域の整備」「支援施設が整備できない地域への対応」を提起した。
2)障害保健福祉圏域を構成する市町村は、実施主体との「支援事業」実施検討の時期から協議を行い、「支援事業」の委託先施設の検討をするべきである。委託先施設が決定した後も、市町村は障害児(者)に対する支援を全面的に支援施設に委ねるのではなく、実施主体(場合により管轄の都道府県福祉事務所など)が招集する各種の会議に参加することによって、障害児(者)への具体的な支援策を主体的に検討し、障害保健福祉圏域としての支援体制整備を図っていくことが求められる。今回の研究では、最低限必要な会議として、都道府県福祉事務所、市町村課長レベルなどで構成される「(仮称)障害児(者)地域療育等支援事業協議会」、地域の実務担当者や当事者(または家族)、コーディネーターなどで構成される「(仮称)サービス調整会議」を提案した。
3)不足している資源や専門機能の確保、他の生活支援事業や社会資源との連携についても具体的に提案した。最後に、今後の社会福祉事業全般の課題となる個人情報の保護と苦情解決の仕組みについて、「支援事業」の実施・展開の過程においても要綱などで明示する必要があると提案した。
結論
本研究では、「支援事業」の円滑な推進に向けて、その理念的基盤から解釈を加えた上で、「支援事業」を構成する各事業の意味とスタッフの確保や計上方法も含めた実施方法、都道府県等の責任と事業実施に向けたガイドライン、市町村の役割などについて整理した。加えて、実施状況が低調な療育拠点施設事業については、要綱の改定も含めて提言した。

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