重度障害者リハビリテーションとノーマライゼーションに関する研究

文献情報

文献番号
199900282A
報告書区分
総括
研究課題名
重度障害者リハビリテーションとノーマライゼーションに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
木村 博光(国立伊東重度障害者センター)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 通(国立別府重度障害者センター)
  • 白澤政和(大阪市立大学・生活科学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害者対策に関する新長期計画として平成5年度にスタートした障害者プランの基本的な理念は障害者のライフステージのすべての段階において全人格的復権をめざすリハビリテーションの理念と、障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念からなっている。また、近年、リハビリテーションとノーマライゼーションの理念に基づいた地域福祉の実践的な手法としてケアマネジメントが注目されてきている。平成8年から始まった障害者ケアマネジメント試行事業により、平成10年には3障害それぞれのケアガイドラインが策定され、これに基づいて障害者ケアマネジメントのあり方の検討がなされようとしている。しかしながら、こうした理念を具体化するための、重度の障害者のリハビリテーションに関する研究は少ない。そこで、重度の障害者特に身体障害者更生援護施設に入所している脊髄損傷を中心とした障害者のリハビリテーションに関する研究を行う。まず、重度障害者のリハビリテーションプロトコールを作成するために、障害者の合併症の予防や健康管理の状況を研究し、効率的でかつ適正なリハビリテーションをめざす研究を行う。そして、3障害の特性を踏まえながら障害者ケアマネジメントに関する概念の整理、あり方の解明、複合的なニーズの多い障害児・知的障害者に対するアセスメントシートの開発、効果的なケアマネジメント研修方法の開発、の4つの課題を研究する。次に、頚髄損傷者を中心とする重度障害者のアセスメント方式を確立し、データベースを蓄積しながら、身体障害者更生援護施設等を退所し、地域で生活する障害者に関して、現在の生活状況や社会的自立の状況、健康状態、生活の質等の調査を行い、その結果をフィードバックして、重度障害者のリハビリテーションとノーマライゼーションのために寄与させることを目的とする。本年度はその前段階の研究を行う。
研究方法
1,重度障害者の合併症に関する研究
対象は外傷性頚髄損傷者47例(男性40例、女性7例)、平均年齢31.7歳(18歳―57歳)、受傷後平均2797日(568日-8898日)、損傷レベルC4からC8までの慢性期頚髄損傷者である。血液学的パラメーターとして、ヘモグロビン(Hb)、赤血球数(RBC)、ヘマトクリット(Ht)、白血球数(WBC)、血小板数(Plat)、血清鉄(Fe)、UIBC、フェリチン、EPO(Sandwich RIA法)、鉄飽和度指数(Fe/TIBC)等を測定する。 貧血を呈した症例に対してはその原因や臨床的特徴を検討し、さらに貧血を合併した症例と非合併例の間での比較をおこなう。平均値の差の検定はnon-paired Student's t-testによる。
2,重度障害者の日常生活活動及びその健康管理に関する研究
調査対象の脊髄損傷者は67人で、その中で、排便自立者は22人である。このうち、胸髄損傷者、頸髄損傷不全(歩行可)を除く頸髄損傷者(完全麻痺)18人に、失禁回数、失禁した時間帯、排便日と失禁日との関係、排便時間、失禁原因についての調査を行う。
さらに、排便動作自立のための排便自助具の使用状況に関するアンケート調査を行う。
3,重度障害者のケアマネジメントに関する研究
ケアマネジメントの概念整理に関する研究では、エンパワメントとケアマネジメント、コミュニティケアとケアマネジメント、アセスメントとケアマネジメントの3点につき内外の文献を中心に整理を行った。 身体障害ケアマネジメント研究では重度重複障害者(脳損傷者)に焦点を当てて、実態把握と保健・医療・福祉のニーズを明らかにするための調査を行う。調査対象者は全国の患者会所属の家族499名である。 知的障害ケアマネジメント研究ではアセスメント方法の開発に焦点を当てて、滋賀県における3保健福祉圏域のケアマネジメント事例の分析を行う。 精神障害ケアマネジメント研究では、効果的な援助要素を内外の文献に基づいての検討、都道府県における障害者ケアマネジャー指導者養成研修の評価研究、効果的な研修方法と教材の開発の3点を行う。
結果と考察
1,重度障害者の合併症に関する研究
慢性期頚髄損傷者のヘモグロビンレベルは健常者に比して低値であり、23.4%が軽度の貧血を呈した。赤血球形態分類上81.8%は正球性で、18.2%が小球性、大球性貧血はなかった。EPO産生低下が原因となった症例はなく、27.3%にACD、9.1%に鉄欠乏性貧血が想定された。鉄代謝異常も炎症所見もなく、希釈性貧血等を考慮すべき症例があり、また血清総蛋白、アルブミンの低下傾向に加えて、低体重や低コレステロール血症の頻度の高さから、内分泌代謝さらに栄養学的な影響も考えられた。脊髄損傷者における貧血の成立には多くの因子が錯綜して関与しており、現在にいたるまで充分に明かになってはいない。貧血は知覚麻痺者にとって有用な臨床上のパラメーターであるとともに、脊髄損傷の病態生理解明の重要な糸口であり、今後の研究の進展が待たれる。
2,重度障害者の日常生活活動及びその健康管理に関する研究
頚髄損傷者(排便自立者)18人の失禁について調査した。6ケ月間の調査で、5回以上失禁した人は8人だった。失禁した時間帯では深夜の時間帯は日中に比べると比較的少なかった。排便前日及び当日(排便前)に失禁が多かった。排便時間は胸髄損傷より頸髄損傷の方が長かった。
失禁原因は個々に違う原因があり、それぞれの問題点を見つけて、改善していく必要がある。
こうした調査により、失禁の原因が的確につかめ、今後こうした障害者に失禁の回数をできるだけ減少させ、社会参加の機会を増やすことの一助になればと考える。また、排便動作自立のための排便自助具の使用状況に関するアンケート調査に関しては、現在結果を回収している段階である。
3,重度障害者のケアマネジメントに関する研究
ケアマネジメントの概念整理に関する研究では、エンパワメントとケアマネジメント、コミュニティケアとケアマネジメント、アセスメントとケアマネジメントの3点につき内外の文献を中心に整理を行った。その結果、エンパワメントではケアマネジメントの目的としての概念と手段としての概念の2種類あること、ケアマネジメントはコミュニティケア推進の手段として位置づけられてきたこと(特に英国において)、アセスメントでは精神障害分野が一番進んで多様な方法が開発されていること、の3点が明らかにされた。
身体障害ケアマネジメント研究では重度重複障害者(脳損傷者)に焦点を当てて、実態把握と保健・医療・福祉のニーズを明らかにするための調査を行った。調査対象者は全国の患者会所属の家族499名であり、有効回答は306票(61.3%)であった。調査の結果、家族のニーズは大きく医療制度に関する問題と在宅介護を支える制度の問題の2種類に大別することができた。
知的障害ケアマネジメント研究ではアセスメント方法の開発に焦点を当てて、滋賀県における3保健福祉圏域のケアマネジメント事例の分析を行った。その結果、Lipskyのニーズ分類に代わる新しいニーズ項目と構造化モデルを作成した。
精神障害ケアマネジメント研究では、効果的な援助要素を内外の文献に基づいての検討、都道府県における障害者ケアマネジャー指導者養成研修の評価研究、効果的な研修方法と教材の開発の3点を行った。都道府県研修評価研究では49都道府県・政令市(回収率83.1%)から回答を得た。全体の約40%が研修に対して低い評価をしており、研修内容の工夫が必要であることが明らかにされた。
結論
今年度は、障害者の合併症として、頚髄損傷者の貧血に関する研究や、健康管理に関して排便状況や失禁に関する研究を行った。そして、3障害の特性を踏まえながら障害者ケアマネジメントに関する概念の整理、あり方の解明、複合的なニーズの多い障害児・知的障害者に対するアセスメントシートの開発、効果的なケアマネジメント研修方法の開発等の研究を行った。今後は頚髄損傷者を中心とする重度障害者のアセスメント方式を確立し、データベースを蓄積しながら、重度障害者のリハビリテーションとノーマライゼーションの研究を継続させたい。

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