重介護を要する知的障害者の援助のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900278A
報告書区分
総括
研究課題名
重介護を要する知的障害者の援助のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
三村 誠(社会福祉法人 こどもの国協会)
研究分担者(所属機関)
  • 浦田 邦彦(心身障害者福祉協会)
  • 今村 利一(社会福祉法人 みずき会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
知的障害者更生施設に入所している重介護を必要とする知的障害者等の援助については、知的障害者更生施設の今後の課題として緊急に対策を講じる必要性が高い。そのため本研究においては、重介護を要する知的障害者について福祉・医療両面からそのあり方につき提言する。
重介護を要する知的障害者の援助のあり方に関する研究では、運動機能障害を合併する知的障害者や高齢知的障害者の特性を考慮した日常的援助の考え方を明確にするとともに有効な方法、技術を実践に基づきそのあり方を提示する。このことは、これら知的障害者のQOLの向上に資するとともに知的障害者更生施設の今後の方向性や社会的機能を考える上で有用性が高い。
知的障害のある高齢者の支援・介護のあり方に関する研究では、高齢者(特に後期高齢者)の急増は、知的障害のある人達においても同様であり、それら知能・適応行動に障害のある高齢者に対する支援・介護のあり方ならびにアセスメント・ケアプログラム等については未だ研究が不十分であるとともに介護保険制度、社会福祉基礎構造改革等との整合性についての検討も急務となっている。よって、高齢知的障害者に対する支援・介護のあり方ならびにアセスメント・ケアプログラム等の具体的内容(試案)を示すことにより、今後の高齢知的障害者福祉に資する。
研究方法
重介護を要する知的障害者の援助のあり方に関する研究では、処遇実態調査と職員調査を全国の知的障害者更生施設の中から242施設を無作為に抽出し、平成11年12月に郵送法で実施した。併せて、国立コロニー特別介護棟などに入所している重介護を要する者を中心として23事例につきケーススタディを行い、重介護が必要となった契機、介護内容及び介護時間などの視点で分析を行った。
処遇実態調査では、施設の概要、重介護を要する知的障害者の有無と人数を調査し、入所している重介護を要する知的障害者のうち5人までについては、一人ひとりの身体能力と知的レベルを調査した。また、重介護を要する知的障害者の介護を主に担当する職員を対象として職員調査を実施した。処遇実態調査と職員調査を組み合わせることによって、どのような施設において、どのような知的障害者が、どのような職員によって介護されているかが把握できるよう調査の設計を行った。
知的障害のある高齢者の支援・介護のあり方に関する研究では、全国の知的障害者更生施設(入所)、特別養護老人ホームに入所する高齢知的障害者の処遇の現状について悉皆調査を実施した。
結果と考察
重介護を要する知的障害者の援助のあり方に関する研究
本研究は、重介護を要する知的障害者の処遇実態を明らかにするとともに、重介護を要する知的障害者に対する援助のあり方を検討することを目的としている。
調査に当たっては、重介護を「ADLについては全面介助、もしくはほぼ全面介助の状態であって、加齢及び何らかの原因によって心身に機能の低下をきたし、日常生活を営むのに支障を生じた状態」と定義して実施した。
上記の目的を達成するため、処遇実態調査と職員調査を全国の知的障害者更生施設の中から242施設を無作為に抽出し、平成11年12月に郵送法で実施した。なお、処遇実態調査の有効回収票数は184票で、回収率は76.0%であり、職員調査の有効回収票は、466票であった。
処遇実態調査では、施設を単位として重介護を要する知的障害者の処遇実態を調査した。職員調査は、実際に重介護を要する入所者の援助に携わっている職員に記入を依頼した。
処遇実態調査及び職員調査結果の概要は以下のとおりである。
①調査対象とした242施設のうち重介護を要する知的障害者が入所していると回答した施設は、142施設で77.2%であった。
大規模施設ほど重介護を要する入所者が多く入所している傾向が認められる。
142施設のうち1名から5名までの重介護者が入所する施設は103施設72.5%を占めた。
②重介護者のための特別なプログラムは57%の施設が有している。
③援助上の問題点(複数回答)としては、設備の不備71.8%、職員数不足66.8%、医療的対応の不備52.8%、援助技術上の問題50.0%等があった。
④142施設のうち128施設90.1%では過去10年間に重介護者が入所しており、そのうち107施設83.6%で過去10年間に重介護者の退所があった。
⑤退所する理由(複数回答)としては、医療の必要性75.7%、施設設備の問題47.7%、職員体制の問題23.4%等があげられた。
⑥退所先をみると、死亡退所46名、病院42名、特別養護老人ホーム33名、重症心身障害児施設24名、身体障害者施設22名、家庭19名等であった。
⑦重介護者の処遇の場は、重度棟81施設57.0%、一般棟63施設44.4%等であった。
⑧心身機能低下の理由(複数回答)は、加齢78.2%、疾病による長期臥床46.5%等であった。
⑨重介護者の移動能力をみると、歩行可能な入所者を一人以上あげた施設86.6%、起立不能者を一人以上あげた施設40.8%、起立可能者を一人以上あげた施設35.9%であった。
⑩歩行能力と知的レベルを組み合わせでみると、歩行可能で測定不能者67.6%、歩行可能で測定可能19.0%、歩行不能で測定可能4.9%、歩行不能で測定不能8.5%であった。
⑪介護という仕事に対する職員の意識は、やりがいのある仕事、専門的な仕事、創意工夫の生かせる仕事等肯定的に捉える者が50%をこえていた。
⑫36項目(移動、食事、排泄、移乗、アメニティなどの領域)の援助プログラムに対する自己評価をみると、入所者に満足してもらっていると思っている職員の割合は50%をこえた。
⑬職員の健康度の自己評価をみると、まあ健康である40.6%、普通33.3%、非常に健康19.7%であった。
ケーススタディでは、国立コロニー特別介護棟に入所している重介護を要する者(上記定義参照)を中心として23事例を分析した。
取り上げた事例は、心身機能低下型と疾病・事故型に大きく分けられ、重介護が必要となった契機、介護内容及び介護時間などの視点で分析を行った。
結果の概要は以下のおとりである。
①心身機能低下型は9名(男性3名、女性6名)であり、重介護となった平均年齢をみると43.8歳で、30歳代3名、40歳代3名、50歳代3名であった。
②疾病・事故型は14名(男性9名、女性5名)であり重介護状態となった平均年齢は47.1歳であり、20歳代1名、30歳代2名、40歳代6名、50歳代1名、60歳代4名であった。
③疾病・事故型の原因をみると、精神遅滞の原因の原疾患が進行した者3名、頸椎管狭窄症2名、脳梗塞2名、頸椎ヘルニア・頸椎損傷・アテトーゼの増悪・パーキンソン症・頸椎脱臼・左骨頭壊死・骨折が各1名であった。これらのうち、精神遅滞の原疾患の進行、アテトーゼの増悪、頸椎脱臼が精神遅滞の原因との関係が高い。脳梗塞・精神遅滞原疾患の進行・パーキンソン症は神経内科的疾患であり、それ以外は全て整形外科的疾患であった。
④心身機能低下型は、経年的に機能低下し、それに比例して介護度が増大しているが、事故・疾病型は直線的に重介護状態となっている。
平成12年度においては、平成11年度の研究結果を踏まえ、今後増加を予想される重介護を要する知的障害者に対する施設における援助のあり方について検討を行うとともに、重介護を要する知的障害者の日常処遇場面での実際的な援助や方法についてマニュアルを作成し、全国の知的障害者更生施設へ提供することを予定している。
知的障害のある高齢者の支援・介護のあり方に関する研究
本研究は平成11年度調査において、①知的障害者更生施設(入所)1,251カ所から1,055カ所(回収率84%)の回答を得た。②特別養護老人ホーム4,017カ所から2,318カ所(回収率58%)の回答を得た。
上記①、②それぞれからは、施設入所者群の年齢階層と性別、程度別等の数と分布を得た。また、介護度については、平成10年東京都の指標を知的障害者入所施設職員等に理解しやすいよう若干の改訂を行い、調査し、それらの人達の介護度の概要を捉えた。同時に、全調査対象施設から「今後の受け入れ、対応」についての意見を集約することができた。これらの資料と昭和63年今村、長谷川が行った2調査との比較も行った。
特別養護老人ホームに入所する知的障害者の割合については,本研究で実施した調査結果と昭和63年に実施された先行の2調査の結果とも差が無く、内容では、後期高齢者が先行調査では9名であったが、本研究の調査結果では70名であり、後期高齢者層の増加傾向を把えた。このことから知的障害者の寿命延長の方向は、一般高齢者と同様のラインにあることが理解できた。高齢知的障害者の処遇においても、「痴呆」や「寝たきり」を視野に入れた援助の必要性が指摘できる。また、高齢知的障害者が地域社会でのディサービスを利用し、地域社会での生活を進めるとの回答もあった。
平成12年には、高齢知的障害者が入所する全国の更生施設等に対し、ランダムに入所者約4,000名(主対象60歳以上2,000名、比較対象群40から59歳1,000名及び精神遅滞を伴わない高齢者1,000名程度)を対象とした調査を実施し、高齢知的障害者の加齢のプロフィール(状態像を把握する)を作成する予定である。
結論
重介護を要する知的障害者の援助のあり方に関する研究 
本研究は、重介護を要する知的障害者に対する援助のあり方を検討するための基礎資料の提示を試みた。
調査結果をまとめると以下のとおりである。
①重介護を要する入所者の日常的援助の問題点として指摘された事項は、施設内での医療的対応ができない、施設設備の不備、職員数の不足、処遇技術上の問題等があり、これらの援助上の問題が知的障害者更生施設等からの退所に結びついているとも考えられる。
②今回の調査結果のみでは判断できないが、知的障害者更生施設から退所した重介護を要する入所者は、本研究で想定した対象者が多数占めているのではないかと推測される。理由として、退所先の施設等が病院、特別養護老人ホーム、重症心身障害児施設等で比率が高く、このことは医療的な問題と移動能力上の問題があったのではないかと推測できる。更にこの面での分析研究の必要性がある。
③日常的場面において、重介護を要する入所者への対応が職員の介護技術上の問題で限界性が生じたため退所に結びついているとも考えられる側面があり、この面での分析研究の必要性がある。
ケーススタディでは国立コロニーのぞみの園に入所する重介護者23事例を紹介した。これらの事例の日常的援助方針や配慮事項をみると、自発性の誘発、残存機能の活用、日常生活の安楽性、可能性の追求等があげられている。これらの方針や配慮事項は、入所者の意思のくみ取り及び意思に基づく介護、障害の受容を促す等が前提となっている。
重介護者の日常的援助場面では介護される側が受け身となりがちであるが、介護する側が「誰のための介護なのか」「何のための介護なのか」と言うことを念頭に置きながら日常的援助を実施していることが読みとれる。
なお、援助経過をみると職員がその入所者に対する介護で、「何をどこまで行うのか」について、つまり介護方法及び内容や介護の意味等に関しモニタリングを行い、職員間の意思統一や介護の質的な向上を目指すための会議の重要性が指摘できる。  また、重介護者等の日常的援助では、入所者本位の援助及び高いQOC(quality of care) が重介護者等のQOLを高めている、ということがいえる。
知的障害のある高齢者の支援・介護のあり方に関する研究
高齢知的障害者の今後の生活の場に関する調査結果の分析をみると、以下のようである。
①老人施設への知的障害者の入所状況は、これまでの調査結果及び推計値からみても入所者数は特に変化ない。
②前回調査と今回の調査対象の年齢分布を比較すると、後期高齢者が急増している。
この点については、平成12年度に詳細に調査を行う。
③アンケートの自由記述の集約では、地域での生活、ディサービスの利用、グループホームなどを利用等の記載が多く、高齢化=サクセスフルライフへの方向を示唆している。
④平成12年度には、調査対象群(主対象60歳以上、比較対象40から59歳及び知的障害を伴わない高齢者)を全国から無作為に抽出し、個人別調査を実施し、高齢知的障害者の加齢プロフィール(状態像の把握)を作成する。さらには、調査結果の分析と実地調査の補完により、介護・援助のあり方を示す。

公開日・更新日

公開日
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