先天性無痛無汗症の生活援助に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900273A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性無痛無汗症の生活援助に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
二瓶 健次(国立小児病院)
研究分担者(所属機関)
  • 粟屋豊(聖母病院)
  • 君塚葵(心身障害児総合医療療育センター)
  • 池田正一(神奈川県立こども医療センター)
  • 白川公子(国立小児病院)
  • 三宅捷太(横浜市保土ヶ谷保健所)
  • 田中千鶴子(昭和大学医療短期大学)
  • 吉見契子(北里大学医療衛生部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性無痛無汗症は先天的に痛覚、発汗が障害されているために、口腔内外傷、皮膚外傷、骨折、骨髄炎、火傷、などを繰り返し、時には重篤な合併症を引き起こすことがある、また関節障害を合併することが多く、殆どの例で車椅子生活が余儀なくされる。知能障害、多動を合併しているので、危険を教えることも困難で火傷や外傷、骨折の予防が極めて困難である。また、発汗障害のために、外気温度に影響を受け、気温の上昇に対して熱中症、急性脳症などの致命的な合併症も起こりやすい。
これらの合併症を予防するためにも綜合的な生活の援助が必要である。しかし、まれな疾患のために、それぞれの医師が本症を経験することが少ないために、どのような合併症があり、どのように対処すればよいかなど、適切な生活アドバイスをすることが難しい。
先天性無痛無汗症の診療に携わる各領域の医師やパラメディカルの人々がどのように生活指導するかを身をもって体験するために、定期的に患者、親が1箇所に集まってもらい、直接診察し、親からもその生活状態を聴取するシステムを作成した。
対象:先天性無痛無汗症の親の会のメンバーを対象とした。現在50家族が登録されていおり、全国に散在している。
研究方法
全国の先天性無痛無汗症の親の会の総会(年1回)の際に患者と家族に広い診察スペースに集まってもらう。小児神経科、整形外科、歯科、皮膚科の専門医、補装具専門家、看護婦、学校関係者、臨床心理士などが患者を綜合的に診察、問診、検査、相談を行う。その結果は診療データとして蓄積しておく。
結果と考察
研究(1)直接診察、面接システムの作成:本症のように数の少ない疾患に対して、われわれは直接診察をし、患者や家族とも面接を行い、その問題点を明らかにするために患者と親ならびにそれぞれの分野の専門家が一堂に集まるシステムを開発した。これにより今まで知られていなかった問題点が明らかにされた。(2)整形外科的検討:実際の症例についてのシャルコー関節になどに対する補装具の適応と問題点を明らかにした。痛覚がないために補装具が合わなくても訴えがないために傷を作りやすいので詳細な検討が必要である。また、本症の30%に股関節脱臼があり装具や手術に対して抵抗性を示し難治性であった。(3)歯科的問題点について:生後6ヶ月頃から乳歯の萌芽にあわせて、口腔内外傷が見られ、これに対しは保護プレートを装着させることが有用である。9例の本症の歯列模型を作成し検討した。歯冠形態異常が1例に見られた。歯列不正、不正交合が見られた。(4)日常生活に影響のあるさまざまな合併症を有する本症において適切な生活指導のガイドラインを求める声が養育に携わる親から、専門家や親の会「トウモロウ」によせられている。訪問による面接を10例に対し行い、生活の諸側面(体温調節、口腔・食事、排泄、骨・関節、皮膚・外傷、遊び、家族生活、その他)における問題と対処方法を調査した。その結果、児の幼児期、学童期の多動で知的障害群、骨・関節障害の多発群などの共通傾向を検討し、児の成長に伴う将来を見越したガイドラインの必要を裏付ける示唆を得た。(5)先天性無痛無汗症(本症)では、夜尿・昼間遺尿や頻尿が高率にみられ、これらは患者の社会的自立に悪影響をもたらすとともに、家族の負担を大きくさせていること、さらに夜尿・遺尿の頻度が本症に合併する知的障害の程度と相関している。その原因の解明と対策作りのために、飲水行動、排尿行動の実態調査を行った。その結果春から秋の気温上昇期の体温調節のための生得的な多飲が、重要な因子と考えられた。日常の生活指導が重要である。(6)無痛無汗症児の知能について診察とアンケートを用いて検討した。知能発達は(IQ23から100)個人差があるが、遅滞が見られ、かつ発達の伸び悩みが見られた。進行性の遅滞か否かは今後さらに縦断的な検討をすることでより明らかになると思われる。知能発達は繰り返す外傷とも関連しており、骨折や火傷、舌噛み、指噛みなどの危険をどのように教えていくかが大きな問題となる。そのためにも児の知能程度あるいは行動特徴などを把握しておく必要がある。また今回感覚についてのアンケートを行ったが、こうした結果は児の生活指導に役立っていくものと考えられる。(7)無痛無汗症患児・者への生活支援に工夫している点・困難な点・成功した点についての療育・教育関係者へのアンケート調査を行った。親の了解を得て施設に親より依頼して施設から直接回答を頂く複雑な調査方式であったにもかかわらず、50.7%の高率な回答率であった。施設側の本疾患の療育への強い関心があったと思われた。回答は教師を中心に指導員・保育士・保健婦・療法士と多職種にわたり、多くの専門家が対応していた。(8) 無痛について・無汗についてさらに精神的安定に向けて施設職員から、実践に基づく工夫とのみでなく失敗談を含め、多くの示唆に富む意見を頂戴した。また、施設職員が家族との連携をまず第一と考えて種々の連絡・話し合いをし、病気のことと危険性について研修していることが理解された。今後は家族向けのみでなく、施設の職員にとって役立つ手引書を作成する必要を痛感した。
先天性無痛無汗症は、痛覚、熱感覚の消失、発汗障害という人間の基本的な防御機構の障害による疾患であるが、これまでその症例が報告されることが少なく、その実態は殆ど知られていなかった。親の会が設立されて以来、従来考えられていた以上に多くの例が知られるようになり、われわれが行っている直接総合診察システムによって、これまであまり知られていなかった様々な合併症、問題点も明らかになった。とくに重篤な口腔内外傷、繰り返す骨折、骨髄炎、重症火傷、関節障害、歩行障害、痙攣、知能障害、多動、異常体温上昇、熱中症、自律神経症状など極めて多彩である。この中には生命的な危険を伴うものも多い。
しかし、これらの合併症も日常生活での適切な援助によって予防可能であるものが多く、今後様々な分野からのデータを蓄積して、患者のニーズに合った生活支援のためのガイドラインを作成していく。
結論
結果=まれな疾患である先天性無痛無汗症の実態と患者の真のニーズを知り、生活援助のための指針を作成するために直接総合診察システムを確立して、班員の小児神経、整形外科、歯科、発達心理、補装具、介護、看護、保健などの専門家がこれに当たった。従来考えられた以上に重篤な合併症、生活上の問題点が明らかとなった。口腔内外傷は重篤で、早期の保護プレートが必要であり、顎の発達の、整形外科的には間接、骨の保護のための装具の必要性とその入念なチェックが必要であること。知的障害、多動を示す例が多く、外傷、火傷の予防の教育が難しいこと。合併症の予防のための生活の援助についても面接や訪問により明らかしにした。また、親だけでなく、園や学校、施設でもこのような疾患のガイドラインができることが要望されていた。

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