脳性麻痺など脳性運動障害児・者に対する治療およびリハビリテーションの治療的効果とその評価に関する総合的研究――障害児・者等の機能改善へ向けて臨床医療的な視点から――

文献情報

文献番号
199900269A
報告書区分
総括
研究課題名
脳性麻痺など脳性運動障害児・者に対する治療およびリハビリテーションの治療的効果とその評価に関する総合的研究――障害児・者等の機能改善へ向けて臨床医療的な視点から――
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
坂口 亮
研究分担者(所属機関)
  • 朝貝芳美(信濃医療福祉センター)
  • 北原 佶(北九州市立総合療育センター)
  • 吉橋裕治(愛知県立心身障害児療育センター 第2青い鳥学園)
  • 諸根 彬(宮城県拓桃医療療育センター)
  • 松尾 隆(福岡県立粕屋新光園)
  • 岩崎光茂(青森県立はまなす学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分担テーマ及び分担研究者
1)脳性運動障害児への早期療育による治療効果――朝貝芳美(信濃医療福祉センター)
2)脳性麻痺の医療的リハにおける治療効果――――北原 佶(北九州市立総合療育センター)
3)各種筋緊張抑制法の有効性に関する研究――――吉橋裕治(愛知県立心身障害児療育センター 第2青い鳥学園)
4)年長脳性麻痺者の二次障害の実体とその防止――諸根 彬(宮城県拓桃医療療育センター)
5)脳性麻痺の整形外科的手術法の確立――――――松尾 隆(福岡県立粕屋新光園)
6)脳性麻痺に関する多施設間に共通の評価法の検討―岩崎光茂(青森県立はまなす学園)
脳性麻痺の治療・訓練は1960年代から主に肢体不自由児施設を中心に取り組まれ、1970年代にはボバス法、ボイタ法などの訓練手技を導入して脳性麻痺の早期療育を展開し短期的には有効との成果が出された。一方、整形外科的手術は脳性麻痺に対しても有効な治療法として肢体不自由施設を中心に広く行われている。しかしこれまで、脳性麻痺の病像の複雑性から施設間に共通の評価や標準化された病像の記述は確立されたとは言い難く標準的な長期治療成績は十分に検討されず二次障害の実体やその防止策も確定されないで経過している。この度、以上の問題意識のもとに、長年、臨床的に脳性麻痺の療育にかかわっている肢体不自由児施設長を主たる分担研究者とし、全国に広がるネットワークの中で研究プロジェクトを組み研究を行うことを目指した。本研究は脳性麻痺に関して今後追求すべき必要性の高いテーマを取り上げ、肢体不自由児施設の複数施設間で総合的に研究を行うこととし、さらに各テーマに共通する課題として多施設間に共通の評価法の検討を進め、より客観性の高い病態像の記述と効果等の判定が可能になることをも目的とした。取り上げたテーマに関連して各分担研究者が研究協力者を出来るだけ肢体不自由児施設関係者から求めて研究グループを結成し研究を進めた。
研究方法
朝貝グループでは母子入所(早期療育の)における訓練(方法、適応、頻度)と現在使用中の評価および結果についての実態調査を目的とした。
北原グループでは歩行に関する訓練と予後の実態を調査することを目標に研究を進めた。
吉橋グループでは痙縮に基づく筋緊張の臨床的評価法の確立を検討した。
諸根グループでは調査表作成(アンケート用、直接検診用)と調査対象の選定を行い
アンケート調査の一部実施を行った。
松尾グループでは研究協力者での標準化した評価方法の確立を目指し従来の評価法を検討した。
岩崎グループでは肢体不自由児施設および重症心身障害児施設、障害児通園施設でどのような 評価が使われているか調査すると同時に 評価法の試作版を作る事を目指した。朝貝グループでは母子入所(早期療育の)における訓練(方法、適応、頻度)と現在使用中の評価および結果についての実態調査を目的とした。
各テーマに関して調査や評価を行う場合にはその対象児者に十分にその意義を説明し理解してもらった上で協力をお願いしプライヴァシーの保護と人権擁護には十分に配慮した。
結果と考察
1)脳性運動障害児への早期療育による治療効果――朝貝芳美グループ:早期療育の実態調査では各施設で実施状況にばらつきがあり、治療、訓練の在り方も標準化が必要であると考えられた。治療・訓練の粗大運動発達への効果も一定の変化は確認できたが評価そのものの信頼性や再現性の検討も不充分であった。本研究班の他の分担研究、特に評価に関する研究グループの研究成果と合わせて研究を進めることが必要であると考えられた。
2)脳性麻痺の医療的リハにおける治療効果――北原 佶グループ:歩行機能に対する治療、訓練の効果については今年度の研究でおよそ8歳の歩行確得の限界とその予測の可能性が確認された。今後さらに各施設間で運動機能の到達度の比較検討を進めることで各施設における治療、訓練法の効果の比較検討を行い、訓練頻度などの標準化、適正化さらには治療、訓練法のクリテイカルパスの作成に寄与できる可能性が示唆された。
3)各種筋緊張抑制法の有効性に関する研究――吉橋裕治グループ:各種筋緊張抑制法の有効性については筋緊張の客観的評価についての有効な方法は少ない中で、まず評価法の確立とその検定へ向けて努力をした。各種筋緊張抑制法の有効性の検討にまでは至らなかったが、標準化された客観的評価の確立とともに各種筋緊張抑制法の短期、長期における有効性を明らかにしてゆく方針である。
4)年長脳性麻痺者の二次障害の実体とその防止――諸根 彬グループ:年長脳性麻痺者の二次障害の実体を把握のため、15歳以上の脳性麻痺児、者145名について調査を行った。83%が何らかの訴えをしており、歩行能力の低下を訴える者もいた。今回の調査結果をもとに調査表を再検討し吟味したうえで年長脳性麻痺者の二次障害の実体の全体像を把握するための本格的な直接検診を開始し治療状況調査をすすめることになる。
5)脳性麻痺の整形外科的手術法の確立――松尾 隆グループ:本研究の目的は多施設での過去の手術症例をまとめる一方、標準化した評価方法を確立し、その新しい評価法に基づき、治療法の問題点を分析し、新しい運動障害の治療法を確立することである。今年度は標準化した評価方法およびマニュアルの作成をした。次年度からこの評価方法の試用とその有効性検討を進めることになる。また、予備的な検討で今後の手術的治療の効果判定について幾つかの方向性が見えている。
1)脳性麻痺に関する多施設間に共通の評価法の検討―岩崎光茂グループ:多施設間に共通の評価法の検討については、現在用いている評価法についのアンケート調査によって各施設の評価の実態と問題点がが明らかになり、共通の評価法の開発が必要であることが更めて認識された。5分野についての評価法の試案作成が終わりその試用と有効性、信頼性、妥当性の検討に入る。
以上、今年度の研究は3年計画の第1年目としてアンケートによる実体の把握と予備的な研究、および調査表、評価表などの試案作成が主な研究活動となった。本研究班はこれまで長年にわたって脳性麻痺の治療、訓練にかかわってきた全国の肢体不自由児施設群が横のつながりを基に多施設間に共通の評価法を確立し脳性麻痺治療の標準化を目指すもので、その第一段階の成果を上げたと考える。本研究の今後の進展によって標準化された病像の記述のもとに治療・訓練の成果を多施設間で比較検討することが可能になる。この事で、脳性麻痺に対してより有効な治療・訓練法を明らかにし、技術の標準化や向上、さらにはより効果的な治療・訓練法の開発、社会参加活動に必要な援助のあり方を探る資料を得ることが可能になると考えられる。また、二次障害が予防され、他方で治療・訓練の適応や実施の限界が明らかになれば脳性麻痺児者の生活は、いたずらに治療・訓練に明け暮れるのではなくのQOL向上に努力を向けることになり、医療依存の生活が自立した生活へと変化することになるであろう。このように脳性麻痺児から成人脳性麻痺者のライフサイクルを通しての医療的・福祉的対応もより客観化、標準化されると期待できる。また、それらの成果は単に脳性麻痺のみに限定されず、その他の発達障害児の医療的・福祉的対応にも適応されると考える。
結論
医療と福祉の両分野に関係し、脳性麻痺の治療センター的役割を果たしている肢体不自由施設群が協力して研究を行うことで研究成果はすぐに実用的に活用でき、さらにそのことを通して肢体不自由施設の地域における機能や役割、その望ましい形態など今後の肢体不自由施設の在り方の検討にも役立つ。今年度、その方向への第1歩を踏み出した。

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