成年後見制度における精神障害者のための後見人の人材と活動のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900266A
報告書区分
総括
研究課題名
成年後見制度における精神障害者のための後見人の人材と活動のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
池原 毅和(財団法人全国精神障害者家族会連合会)
研究分担者(所属機関)
  • 白石弘巳(東京都立精神医学研究所)
  • 佐藤三四郎(埼玉県立精神保健福祉センター)
  • 飯村史恵(東京都権利擁護センターステップ)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①精神障害者の後見ニーズを明らかにし、成年後見制度及び自治体の財産保全サービス、地域福祉権利擁護事業等がそのニーズにどのようにこたえうるか、それぞれの対応関係と望ましい後見人資源の開発条件を明らかにする。②判断能力の低下している精神障害者の身上監護面、とりわけ治療同意のありかたに成年後見人等がどのような対応をとるべきかを明らかにする。③後見人の活動指針となる行動準則と後見人人材適正を明らかにする。
研究方法
①成年後見制度の利用者側となる家族・本人の後見活動に対するニーズの実態を調査し、精神障害者の後見ニーズに対して成年後見制度が満たしうるニーズと他の制度の補充が必要なニーズを明らかにする。②自治体等の財産保全サービスの実状を調査し、成年後見制度では満たし得ないニーズをこれらの制度が満たしてゆく方向を解明する。③身体合併症を有する精神障害者の治療同意の実状を調査し、成年後見制度でも解決できない身上監護面の問題と成年後見人が直面する可能性のある治療同意の問題を解明する。④海外の文献及び現地調査により、後見制度先進国の後見人活動の準則及び後見人人材適正を明らかにする。
結果と考察
(1)後見人等の活動(援助)ニーズについて a.財産管理面 「成年後見制度におけるニーズ調査(本人・家族対象)」から、後見人等に活動に対するニーズとしては、①高額な買い物に関すること、②重要な財産の契約行為を伴うこと、③日常生活における対人関係、④仕事や社会生活上の契約や交渉などがあることが明らかになった。このうち、①と②は成年後見制度によって賄うことができるが、③、④を支える制度として、成年後見制度のほかに地域福祉権利擁護事業あるいは自治体等の財産保全管理サービスの活動が重要であることが明らかになった。「既存の財産保全サービスの聞き取り調査」では、成年後見人の活動だけでは賄いきれない上記③および④に関して、自治体の財産保全サービス、地域福祉権利擁護事業がどのように機能しうるか、実態を調べた。持続的代理権方式などを取り入れた品川区社会福祉協議会のさわやかサービスと後発の横浜市社会福祉協議会横浜あんしんセンターを調査した。いずれも利用者は人口の0.002%にすぎず、利用可能性のある障害者人口から見てきわめて不十分であった。いずれも数名の相談員によって対応されており、この業務では、利用者と月に数回の面接等の業務も行なうことにしていること、利用者との信頼関係を築きながら、自己決定を支援して行く手法が必要であることからすると、人員体制としての限界があることが問題の焦点となることが窺われた。いずれの財産保全サービスでも、小分けにした生活費の手渡しや重要な財産の保管などを基本にしながらも、面接時に上記③、④などの定型化しにくい援助をできる限り支援していたが、これらを財産管理に派生するものとしてではなく、むしろ財産管理がこれら身上監護的性格を持つ側面に伴うものとして支援システムを再検討する必要性がある。
b.身上監護面 身上監護面のニーズとして、特に治療同意のあり方について、精神科領域の問題は、保佐人、後見人が保護者とリンクすることになり、事理弁識能力が著しく損なわれている状態(保佐)と自主的な治療が行われ得ない状態(保護者の要活動期)が近似的に相関するので、医療保護入院、移送などについては、判断能力が損なわれた状態下の者の治療同意の補充手段が制度上は備えられたことになり、残された問題は、その同意の依拠すべき基準と同意者(保護者)たる保佐人、後見人の人材適正になる。しかし、判断能力が損なわれた状態下の者の一般医療における治療同意については、成年後見人の権限とされていないにもかかわらず、実際上、成年後見人等の関係者に治療同意の補充を求められることがあるのではないかと思われる。「精神障害者の身体合併症治療における同意に関する問題事例に関するアンケート調査」は、その現状を調査したものである。同意の補充手段の調整がとれず手遅れになった事例もあり、問題の深刻さを感じさせたが、多くは家族があればその同意により、家族がない場合は精神病院の院長あるいはPSWなどの同意が求められている実状が窺われた。しかし、いずれも本人の同意を法的に補充する意味を持つものではなく、また、その同意の取り方もきわめて形式的におこなわれていることも垣間見られた。今後の法制度上の重要な課題として、精神障害者の身体合併症治療の同意を整備してゆく必要性があることが明らかになった。
(2)後見人等の行動基準及び人材適正について a.行動基準 カナダアルバータ州の後見人業務マニュアル、オーストラリアニューサウスウェルス州の公的後見人及び公的信託事務所の業務の指針から、後見的立場の者がとるべき基本的な行動基準には①最善の利益基準、②本人の希望(wish)、③もっとも制限的でない手段(LRA)の3基準が抽出できる。後見人の活動の実際面では、3基準をあえて排他的に用いるよりは、3つの角度から総合的に業務の適性を図っているのが、上記2カ国の実際である。この3基準から、さらに業務の各領域ごとのできる限り具体的な基準をたてることが必要であり、アルバータ州のマニュアルから、主として身上監護面での行動基準を引き出すことができた。
b.人材適正 人材適正については、アルバータ州(カナダ)及びニューサウスウェルス州(オーストラリア)の調査から、組織体であることが成年後見人の人材適正として優れていることが明らかになった。わが国の成年後見の場合、法人成年後見人がこれに適合しうるものと考えられる。組織体後見活動の効用は、多様な職種の者が意思決定に関わりを持ち、多様な価値観と視点から問題を吟味でき、その意思決定プロセスも組織的に整備されやすい点にある。上記3基準も組織的な意思決定手続きの中で総合的に吟味されることになる。後見人組織の中にはPSWの参加が大きく期待されるところである。成年後見の後見人等の側の問題としては、PSWが単独で後見人等を引き受けることの過重負担があると考えられる。しかし、後見人組織のスタッフとして関わりを持つ場合には過重負担の問題が軽減される。反面で、精神障害者の保佐人、後見人が保護者になること、また、身上に配慮して活動すべきことからすると、PSWによる後見的支援は有効性が期待される。
結論
①精神障害者の後見ニーズとして日常生活における対人関係及び仕事や社会生活上の契約や交渉の問題解決のニーズが成年後見制度だけでは満たし得ず、自治体の財産保全サービスないし地域福祉権利擁護事業の活動によって補充される必要があることが明らかになった。②現時点までの自治体の財産保全サービス等では、人材が不十分で潜在的利用人口に対処しきれないおそれがあることが推測され、人材の充実が期待される。③合併症を有する精神障害者の一般医療の治療同意について法制度の手当が遅れており、成年後見人が事実上その同意に関わるよう求められるなどの問題が生じる可能性が推測され、法整備が求められる。④後見人等の活動準則として最善の利益基準、本人の希望(wish)、もっとも制限の少ない手段(LRA)が基本準則となり、これらを総合的に活用するためにPSWをスタッフに含む法人組織の成年後見人が人材適正を満たすことが明らかになった。

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