文献情報
文献番号
199900249A
報告書区分
総括
研究課題名
アルコール依存症の疫学と予防に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
白倉 克之(国立療養所久里浜病院)
研究分担者(所属機関)
- 白倉克之(国立療養所久里浜病院)
- 杠 岳文(国立肥前療養所)
- 角田 透(杏林大学医学部衛生学教室)
- 猪野亜朗(三重県立こころの医療センター)
- 廣 尚典(日本鋼管病院鶴見保健センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
以下のセクションにおいて、各番号は以下の研究課題を表すものとする。
1) 一般住民における問題飲酒の実態及び長期予後に関する研究
2) 飲酒習慣と健康に関する疫学研究
3) 未成年者の飲酒関連問題の長期経過に関する研究
4) 高齢者のアルコール依存症スクリーニングテスト(KAST-G)の開発に関する研究
5) 否認スケールの開発に関する研究
6) 職場における問題飲酒に対するbrief interventionの効果に関する研究
1)本研究は、一般人口集団の飲酒パターン・アルコール関連問題の実態把握と、調査で同定した問題飲酒者を長期追跡し、飲酒の健康・社会生活に及ぼす影響を評価することを目標にしている。2)一般人口に対する健康診断結果を利用して、飲酒習慣が縦断的に、循環器関連の健康障害にどのように関連しているか評価する。3)未成年者の飲酒行動を長期に追跡していくことにより、年齢とともに飲酒の増大していく状況や問題飲酒の出現状況をとらえ、飲酒の促進因子を抽出する。4)最近増加している高齢者のアルコール依存症者を同定する補助手段としてのスクリーニングテストを開発する。5)飲酒問題への否認、アルコール依存症への否認を客観的に評価できるスケールを開発する。6)職場において、産業医や産業看護職が問題飲酒者に対する効果的なbrief interventionを行なうためのマニュアルを作成すること、およびbrief interventionの方法やその効果を評価することを目標にしている。
1) 一般住民における問題飲酒の実態及び長期予後に関する研究
2) 飲酒習慣と健康に関する疫学研究
3) 未成年者の飲酒関連問題の長期経過に関する研究
4) 高齢者のアルコール依存症スクリーニングテスト(KAST-G)の開発に関する研究
5) 否認スケールの開発に関する研究
6) 職場における問題飲酒に対するbrief interventionの効果に関する研究
1)本研究は、一般人口集団の飲酒パターン・アルコール関連問題の実態把握と、調査で同定した問題飲酒者を長期追跡し、飲酒の健康・社会生活に及ぼす影響を評価することを目標にしている。2)一般人口に対する健康診断結果を利用して、飲酒習慣が縦断的に、循環器関連の健康障害にどのように関連しているか評価する。3)未成年者の飲酒行動を長期に追跡していくことにより、年齢とともに飲酒の増大していく状況や問題飲酒の出現状況をとらえ、飲酒の促進因子を抽出する。4)最近増加している高齢者のアルコール依存症者を同定する補助手段としてのスクリーニングテストを開発する。5)飲酒問題への否認、アルコール依存症への否認を客観的に評価できるスケールを開発する。6)職場において、産業医や産業看護職が問題飲酒者に対する効果的なbrief interventionを行なうためのマニュアルを作成すること、およびbrief interventionの方法やその効果を評価することを目標にしている。
研究方法
1)昨年度作成した飲酒パターン・飲酒問題評価のための自記式質問票を、佐賀県のS村の20歳-70歳の全住民(1,325名)に郵送し(平成10年)、回答を求めた。返答のなかった対象者に対して、平成11年の健康診断時に調査票の記入を求めた。その結果、平成11年までに821名(62%)からの返答があった。この結果を解析した。2)沖縄県S町における経年的な調査研究の資料から飲酒習慣と健康との関わりについて検討してきている。今年度は、Brain Natriuretic Peptide(BNP)の値と飲酒習慣・喫煙習慣・過去13年間にわたる健康診断時の心循環器系の検査成績との関係を検討した。対象は、平成10年度検診で、飲酒習慣・喫煙習慣の質問に回答し、BNPを測定し、平成10年までの13年間の住民検診のうち7回以上受診している94名の男性である。3)神奈川県M市の中学生に対して、飲酒行動の追跡調査を行なっている。昨年度、調査参加に同意した802名に対して、1年後の追跡調査票(1998年6月)を郵送し、返答のあった625名(77.9%、男性287名、女性361名、平均年齢14.8歳)のデータを解析し、昨年度の調査結果と比較検討した。4)高齢者のアルコール依存症スクリーニングテストを開発する目的で、高齢者の飲酒問題に関連する78項目の調査票を作成し、一般高齢者(1,083名)、アルコール依存症者60名に実施した。今年度は、同時に実施した飲酒パターン、ライフスタイル、久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)の結果などを解析した。5)昨年度作成した否認スケール(Denial and Awareness Scale: DAS)の本人用および家族用を実際の症例に使用した。本人用のDASは4つのサブスケール、家族用DASは8つのサブスケールからなる。今年度は、治療後の転帰が明らで本人および家族に対して調査をしえた218組を対象に、断酒期間を従属変数にして、単回帰、重回帰等の解析を行なった。6)平成11年度の健康診断において、血清Gamma-GTP値が100 IU/L以上と高値で、その主因が飲酒にあると考えられた者に対して、brief interventionを実施した。その際、独自に作成したマニュアルを使用した。6ヶ月後にGamma-GTP値を測定し、介入前からの変化率を評価した。これらのプロセスをすべて終了した症例は47例であった。対照群は、健康診断でGamma-GTP値が100IU/L以上でありながら、職場の事情でinterventionができず書面による節酒の勧めのみを行なった者(N=59)である。
結果と考察
結果および考察=1)調査票を回収できた821名の飲酒頻度をみてみると、男女で大きな差が認められた。男性の57%は週に4日以上飲酒しているのに対して、女性の61%は、月1回未満と回答していた。AUDITで10点以上を危険な飲酒者(hazardous user)とすると、この割合は、男女でそれぞれ31.6%、1.7%であった。夫の飲酒に対して妻が悩んだことがある、と答えた者は、189 組の夫婦のうち22.2%におよんだ。「妻が悩む」を指標にすると、AUDITは9-10点がcut-offとして適当であることが示唆された。2)分散分析の結果によれば、心電図に虚血所見のある者のBNP値は低かった。また、飲酒との関係では、「ときどき飲む」と回答していた者は、「飲まない」および「飲む」と回
答していた者より、BNP値の低い傾向が認められた。対象者の数が少ない、飲酒頻度の区分があいまいな点はあるが、これらの結果は、ときどき飲酒する者がまったく飲酒しない者および(いつも)飲酒している者に比べて、循環器指標の評価がより健康的であることを示唆している。3)調査エントリー時の有効回答797と1年後の回答650を比較検討した。飲酒頻度・一回飲酒量ともに、頻回・大量飲酒者が増加し、それにともなって、Quantity-Frequency指標は大幅に悪化していた。また、飲酒パートナーや飲酒場面等で多様化が進み、大人の飲酒に近づきつつあることがうかがわれた。これらの結果から、1年間で飲酒行動がかなり変化し、頻回大量飲酒者がふえることが明らかになった。4)飲酒頻度には明らかな男女差が存在した。ライフスタイルとの関係では、男性の場合、社会活動に参加している者に飲酒量が有意に多いことが明らかになった。既に使われているKASTの結果では、男性の7.9%、女性の0.2%にアルコール依存症とみなしうる重篤問題飲酒者を認めた。一般に高齢者の飲酒問題は少ないとされている。しかし、今回の調査から高齢者の飲酒問題は看過できないレベルにきていることが示された。5)DASの下位尺度の信頼係数(α)は、0.61-0.92の範囲にあり、概ね試験的な検討に耐えうる数値を示した。本人用および家族用DASの12の下位尺度を独立変数に、断酒期間を従属変数にして重回帰分析を行なうと、本人用の下位尺度で「本人の病気否認」、「本人の飲酒問題の気付き」が統計学的に有意となった。また、家族用では、「家族の病気理解あり」、「家族に癒す力がない」が有意またはそれに近い尺度として同定された。今後、因子分析等を行ないサブスケールの整理を行ない、DASの最終版を完成させる予定である。6)まず、brief interventionで使用できる節酒の自助マニュアルを作成した。このマニュアルを使い、brief interventionを行なったグループとinterventionの行なえなかった対照グループとの間で、intervention後6ヶ月のGamma-GTP値の変化を比較した。介入後の値が介入前の値より10%以上低下している場合を効果ありとすると、その割合は、intervention群(80.9%)が対照群(55.9%)より有意に高く、brief interventionの有効性が確認された。
答していた者より、BNP値の低い傾向が認められた。対象者の数が少ない、飲酒頻度の区分があいまいな点はあるが、これらの結果は、ときどき飲酒する者がまったく飲酒しない者および(いつも)飲酒している者に比べて、循環器指標の評価がより健康的であることを示唆している。3)調査エントリー時の有効回答797と1年後の回答650を比較検討した。飲酒頻度・一回飲酒量ともに、頻回・大量飲酒者が増加し、それにともなって、Quantity-Frequency指標は大幅に悪化していた。また、飲酒パートナーや飲酒場面等で多様化が進み、大人の飲酒に近づきつつあることがうかがわれた。これらの結果から、1年間で飲酒行動がかなり変化し、頻回大量飲酒者がふえることが明らかになった。4)飲酒頻度には明らかな男女差が存在した。ライフスタイルとの関係では、男性の場合、社会活動に参加している者に飲酒量が有意に多いことが明らかになった。既に使われているKASTの結果では、男性の7.9%、女性の0.2%にアルコール依存症とみなしうる重篤問題飲酒者を認めた。一般に高齢者の飲酒問題は少ないとされている。しかし、今回の調査から高齢者の飲酒問題は看過できないレベルにきていることが示された。5)DASの下位尺度の信頼係数(α)は、0.61-0.92の範囲にあり、概ね試験的な検討に耐えうる数値を示した。本人用および家族用DASの12の下位尺度を独立変数に、断酒期間を従属変数にして重回帰分析を行なうと、本人用の下位尺度で「本人の病気否認」、「本人の飲酒問題の気付き」が統計学的に有意となった。また、家族用では、「家族の病気理解あり」、「家族に癒す力がない」が有意またはそれに近い尺度として同定された。今後、因子分析等を行ないサブスケールの整理を行ない、DASの最終版を完成させる予定である。6)まず、brief interventionで使用できる節酒の自助マニュアルを作成した。このマニュアルを使い、brief interventionを行なったグループとinterventionの行なえなかった対照グループとの間で、intervention後6ヶ月のGamma-GTP値の変化を比較した。介入後の値が介入前の値より10%以上低下している場合を効果ありとすると、その割合は、intervention群(80.9%)が対照群(55.9%)より有意に高く、brief interventionの有効性が確認された。
結論
前述の通り、本研究は疫学研究と予防研究に大別される。疫学研究では、佐賀県S村の調査で、飲酒の実態とAUDITのcut-off点の提示があった。九州の1地域の研究ではあるが、その示唆するところは大きいと考えられる。また、中学生の飲酒行動の追跡調査は、コホート研究そのものがほとんど行われていなかった事情を鑑みれば、この研究そのものにまず価値があるといわざるを得ない。1年間の追跡の間にも、これらの若者の飲酒が確実に増加していることが明らかになり、重要な資料の提供となった。予防研究では、新たなスケール作成を目的とした研究が2つ含まれているが、次年度末までにKAST-G、DASともに作成できるめどがたったと思われる。Brief interventionについては、当初目標の一つに掲げていた自助マニュアルの作成は終了した。また、brief interventionの有効性も確認された。Interventionの方法やマニユアルの改良が今後の課題である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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