精神医療保健福祉に関わる専門職のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199900248A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療保健福祉に関わる専門職のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大井田 隆(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 大井田隆(国立公衆衛生院)
  • 羽山由美子(聖路加看護大学)
  • 山根寛(京都大学医療技術短期大学部)
  • 柏木昭(聖学院大学)
  • 鈴木二郎(東邦大学)
  • 石井敏弘(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,372,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者の医療保健福祉におけるニーズは、疾患の診断・治療に加えて、時代の要請として社会復帰の支援、人権の保護、Quality of Life(QOL)の維持・向上と多岐にわたる。こうしたニーズの充足には身体疾患と異なる環境整備が必要であり、本領域における多くの専門職の役割が重要である。医師、看護婦(士)・准看護婦(士)、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術者や保健所、精神保健福祉センター職員など精神医療保健福祉に関わる専門職のあり方について、職種個別の具体的な機能・役割や医療施設および地域における連携の観点から検討する。これにより、新たな国家資格制度の創設を含む行政的な対応を検討する基礎資料を提供することを目的として、本研究を実施した。現在のわが国の医療施設で主流となっているメディカルモデルでは疾病治療(薬物療法など)に重点が置かれているとの指摘がある。時代の要請となっている社会療法的アプローチ充実のためには、関連職種間の基本概念共有化とチームアプローチのもとでの専門的業務分担が必要である。本研究により、回復過程に沿った医学的リハビリテーションから地域リハビリテーションまで精神科リハビリテーションにおける効果的な連携のあり方が示され、これを基に医療保健福祉制度の改正、専門職の資格制度および教育研修内容の充実が図られることにより、精神障害者の社会復帰、人権の保護、QOLの維持・向上が進むことが期待される。
研究方法
個別職種のあり方に関する研究として、看護婦(士)・准看護婦(士)、作業療法士、精神保健福祉士および臨床心理技術者について「精神科看護の今後のあり方に関する研究」「精神科作業療法の今後の方向性に関する研究」「精神保健福祉士のスーパービジョン及び研修の体系化に関する研究」「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」を実施した。併せて専門職の連携に関する研究として、「医療施設における精神医療に関わる専門職の連携に関する研究」「地域における精神医療保健福祉に関わる専門職の連携に関する研究」を行った。「精神科看護の今後のあり方に関する研究」では、慢性期入院患者の特性とこれに応じた看護ケアの課題を明らかにするため、既存文献による考察と大規模精神病院に勤務する看護職を対象に郵送調査を実施した。「精神科作業療法の今後の方向性に関する研究」では、回復段階、施設形態別の作業療法の現状、他職種との連携に関する調査、連携モデルの検討を行った。両研究における調査は各ブロックから典型を選定するなどして、全国状況の把握を図った。「精神保健福祉士のスーパービジョン及び研修の体系化に関する研究」では、精神保健福祉士国家試験受験資格指定科目としての援助実習に関する調査をアンケートおよび現場聞き取りにより実施した。「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」においては、平成2年から現在までの臨床心理技術者の業務資格制度の検討に関する厚生省としての取り組みの経緯を調査し問題点を明らかにしたうえで、これについて関係各団体等の代表者による会議を設けて検討した。「医療施設における精神医療に関わる専門職の連携に関する研究」では疾病の回復段階毎の専門職連携のあり方を検討し、「地域における精神医療保健福祉に関わる専門職の連携に関する研究」ではニーズ評価とこれを充足するための連携モデルを作成した。両研究とも、医師、看護婦(士)・准看護婦(士)、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術者および保健婦を研究協力者として、
各職種から観た全国的状況を収集したうえで、全職種による合意を基本として一連の研究を遂行した。
結果と考察
「精神科看護の今後のあり方に関する研究」では、精神症状の持続と残遺症状、長期入院による施設症、高齢化に伴う身体合併症といった脱施設化阻害要因が慢性期入院患者の特性として認められた。急性期病棟における早期退院や長期入院の防止の動向を肯定的に受けとめる看護職が多いものの、医療施設内および地域における社会復帰施設数量の不足や看護者における社会資源活用に係る情報の不足があった。「精神科作業療法の今後の方向性に関する研究」では、精神分裂病の経過をベースに再燃再発予防ににむけた危機介入時、入院時、終末期の各期における作業療法の目的および機能を明確にしたうえで、連携の観点を容れたモデルを作成した。「精神保健福祉士のスーパービジョン及び研修の体系化に関する研究」においては、精神保健福祉士養成課程における実習として、クライエントとの“かかわり"を重視した内容、4週間の期間が望まれていた。しかしながら、このための実習施設の理解と協力はあまり得られてないという調査結果だった。「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」で整理された主要な問題は、臨床心理行為のなかに医行為と分離できない部分があることから、医師との関係を明確に規定することであった。研究班会議では、臨床心理技術者の国家資格化が必要であるとの点で意見の概ねの一致があった。しかし国家資格化の方向性に関しては、医療分野における資格化を考える立場と医療分野だけに限定しない横断的な資格化を主張する立場に二分された。これの背景として、心理職としてのアイデンティティの確保、大学教育における臨床教育の不足などが考えられた。「医療施設における精神医療に関わる専門職の連携に関する研究」では疾病の回復段階の基本として、入院時-急性期(急性期-亜急性期)-回復期(回復期前期-回復期後期-退院時)の3つ(さらに細分する場合には6つ)を設けることが合意された。「地域における精神医療保健福祉に関わる専門職の連携に関する研究」では連携を要する状況として、 ①受診が必要なとき ②医療機関から地域へ戻るとき ③地域生活支援を類型化した。医療施設における研究の疾病回復各段階および地域における研究の連携状況各類型において、チームとしての支援内容の中心、必要職種(機能)、中心的役割を果たすべき職種などを検討して、職種間の合意形成を図った。急性期入院者の早期退院、慢性期長期入院者の脱施設化など精神障害者リハビリテーション推進の必要性やチームアプローチによる効果増強に係る認識が本研究協力者では共有されていたが、全国レベルでみると認識が希薄な現場は多い。また本研究協力者においても、精神障害者リハビリテーションやチームアプローチの具体像に当初は差異があった。精神医療保健福祉に係る専門職は同時期に公的資格化されたわけではなく、医師、看護婦(士)・准看護婦(士)が先行し、作業療法士、精神保健福祉士と後続した。地方自治体保健婦が果たす役割も変化してきた。また障害者基本法の施行などにより、精神病者に対する政策的枠組みが全分野的内容に転換した。然るに縦割り的な養成課程カリキュラムが多く残り、ヒューマンパワーや社会資源の配備が不足していることが、前述のような施設間および職種間の差異の大きな原因となっていると考えられる。現場を熟知する多職種の共同によって本研究で示された専門職連携に係る各類型のモデルは、施設間および職種間の連携の標準となり得ると考える。
結論
精神障害者リハビリテーションを効果的・効率的に展開するのに不可欠である、施設間連携および職種間連携に係る標準モデルの作成を試みた。リハビリテーション推進にはチームとしての各種有機的連携が基盤となっており、各専門職の役割の検討や資格創設にあたってもこれを考慮することが望まれる。

公開日・更新日

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