知的障害者に対する適正な医療・リハビリテーションの提供に関する研究 -重い知的障害を持つ人たちへの入所施設でのリハビリテーションのあり方-

文献情報

文献番号
199900245A
報告書区分
総括
研究課題名
知的障害者に対する適正な医療・リハビリテーションの提供に関する研究 -重い知的障害を持つ人たちへの入所施設でのリハビリテーションのあり方-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 雅子(鉄道弘済会 弘済学園)
研究分担者(所属機関)
  • 中島洋子(旭川荘 旭川児童院)
  • 大場公孝(侑愛会 第2おしま学園)
  • 三島卓穂(鉄道弘済会 弘済学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
強度行動障害への援助を検討することを総合的な研究目的とした。サブテーマとして、児童施設での強度行動障害改善への療育援助研究、更生施設での強度行動障害改善への療育援助研究、強度行動障害判定基準の改訂、強度行動障害への医療的研究、児童施設における学校教育との連携のあり方についての検討、を設けた。
研究方法
強度行動障害改善への療育援助研究は、強度行動障害の事例研究を通じて有効な療育の要件を求めた。強度行動障害の判定基準の改訂は、現行の評価尺度に欠けている環境記述の素案を作成しその妥当性を検討した。医療研究では、発達障害児外来医療機関、強度行動障害処遇事業、精神科入院治療の三援助形態での精神科医療の役割について事例をもとに検討した。強度行動障害についての児童施設と学校教育との連携については、全国全ての児童施設ならびに通学先の養護学校に強度行動障害をめぐる連携調査票を送付し分析した。
結果と考察
第1部 強度行動障害への療育要件の検討。その1.児童期の強度行動障害への療育要件の検討。3事例を検討した。強迫性特に強い例への療育方法、年少強度行動障害児の療育方法、パニックの前兆研究である。強迫性の強い例は、自閉症とトゥレット障害を背景にした17歳の男子である。入園時強度行動障害得点21点が4年後1点と改善した。本例は、他者を長時間まきこんで行動を強要する強迫をみせ許容困難なこと、視覚イメージを再現させる強迫観念を本人は表現できず職員も理解できない等々から特に支援困難な例である。 有効な援助はストレスを強めない職員のスタンスであった。強迫には本人なりの合理的な理由があり安心感をえる自己治療という理解をする、それを前提に本人の特異な内面を理解して関わる、破壊も完全強迫の現れであり悪意ではないと捉える、等々視点の転換が必要であった。これらの援助方法を通じ、本人が対処行動を獲得し、立ち直ろうとする姿を見せコミュニケーションをとり始めた。強迫性援助への1視点が示された。他の1例は年少の強度行動障害児である。早期に強度行動障害をみせ、弘済学園で新規に入所してきた強度行動障害で最高点の例である。本例は、過食、拒食、自傷、生活のリズムの乱れ、人へのつねり、パニックなどの強い8歳の自閉症男子であるが、約1年の療育の結果、39点から14点に改善した。児童期ではまだ二次障害が少なく援助しやすいこと、生理的な乱れを整える視点が得られた。他の1例は原因不明なパニック多発例への援助であった。強度行動障害の援助の難しい例の一つに思春期で体も大きくパニックの原因が不明な例が指摘される。薬物療法を基本としながら援助技術の工夫が必要である。ここでは前兆行動に着目し正確に把握することでパニックを予防する視点が示された。今後必要な視点の一つと考えられる。その2.成人期の強度行動障害への療育援助要件の検討について。大場分担研究者は強度行動障害の多数を占める自閉症の障害に対しTEACCHの手法を緻密化させて適用し強度行動障害が軽減した実践報告をした。第1例は、最重度の知的障害を示す自閉症の女子である。入所時点では、著しい多動、自傷、睡眠障害、他者を噛む等の他害他、身辺処理技能が未獲得の例である。本事例には、個別プログラムを作成し取り組んだ。本人の機能レベルにあわせ具体物を利用しスケジュールを伝達した。身辺処理面も自立行動を増やすよう援助した。有効だった援助は、「現存のスキルをうまく利用する」「視覚的に環境をコーディネイトする」「毎日の生活の中で繰り返し学習を積み上げる」であった。第2例は大人への依存が強く、基本的な生活習慣が未獲
得で、激しく額を床に打ちつけ顔が腫れ職員が常についた例である。有効なのは見通しをもてない不安には本人に分かるスケジュールを示す、活動に具体的な手がかりを提供する、機能的なコミュニケーション手段を獲得するがあった。第3例は、本人の機能レベルを超えた周囲からの要求が混乱・不安を招き、その積み重ねが破壊や他害行為等の行動障害となった例である。本人に活動の終了や見通しが分かるスケジュールを提示し、余暇スキルやコミュニケーションスキルの獲得等を支援し、絵や文字で必要な情報を伝える、構造化のシステムを使うことが有効であった。実践を総括すると「見通しを持って生活できること」「何をすればよいのかが分かり自分でできること」「周囲の人達に自分の意志を伝えることができること」等の環境設定で行動障害の軽減や自立行動を促進できた。環境設定に際し、障害特性・機能レベル・個性を了解した上での関わりといったこと等を配慮した支援展開には、TEACCHプログラムのアイデアが有効であった。結論としては、強度行動障害を示す自閉症例で、TEACCHプログラムのアイデアを応用し個別プログラムを作成して援助することが行動障害の軽減と自立的行動の促進とに有効であった。 第2部 強度行動障害判定基準の改訂の検討について。強度行動障害評価基準改訂に関して、昨年度は評価基準の作業版を作成した。今年度は強度行動障害自体が個体素因と環境との交互作用による状態像であることから、環境情報が適切な支援には不可欠であるという認識のもと、環境記述の素案の作成を目的とした。研究協力者を含めた作業班で先行の評価基準で用いられている環境記述を参考にして作業版の素案を作成した。次年度に最終的な作業版を作成する。第3部 第2部 強度行動障害をもつ知的障害児の精神科医療ニード調査。現行の行動障害への医療的関与のシステムのうち、行動障害に関与する外来医療、行動障害処遇事業、入院医療の3形態の精神科医療についてその治療構造の特徴や役割を明らかにする目的で、事例検討を通じて調査を行った。第1に発達障害専門外来医療機関において実施している強度行動障害への予防的または早期介入アプローチを検討し、行動改善にいたる経過での医療の役割を検討し、早期療育機関と発達障害精神科医療機関との初期からの継続的な連携が重要であることが確認された。その際の経過としては、①早期療育機関への精神科医の関与、(障害の評価、行動分析、親への障害特性の伝達)②就学時点での、早期療育機関から学校への適切な療育情報の提供、③早期療育機関または発達障害専門機関での学童対策、相談機能の充実、④学校での不適応事態に対して療育と教育の専門家による早期介入(療育専門家の学校訪問、教育側の現場助言システム)⑤教育実践で解決しない事例への早期医療紹介、医学的評価、病理的行動への適切な薬物療法、が指摘される。第2に、強度行動障害処遇事業におけるタイムアウト(行動制限)手法の治療的検討を行い、その治療的意味を検討し福祉施設内で適切になされるための条件を明確化しマニュアルを作成した。第3に.精神病院への入院医療を事例検討し、強度行動障害処遇事業とは異なる入院のもつ治療的構造の特性を検討した。精神科入院医療のシステムのなかに、強度行動障害を対象にした病棟の整備が必要と考えられた。結論としては、強度行動障害はその形成経過、障害の病理性、緊急度により、対応は一様でなく、医療の関与に関しても、精神科入院医療、外来医療、強度行動障害処遇事業での行動制限を含む治療法など多様な医療的アプローチが必要であり機能の充実が求められる。第4部 児童施設と学校教育との連携のあり方。強度行動障害の援助に重要な児童施設における学校教育との連携のあり方を研究するため、強度行動障害児が在籍する可能性のある全国知的障害児童施設等371施設と本人が通学している養護学校356校に、相互連携の調査票を送付し整理した。有効回答数は、施設226件、学校186件で、それぞれ回収率は61.0%、52.2%であった。強度行動障害をめぐる連携では80%以上の高率だったのは、直接
担当職員の連絡会がある、連絡ノートを実施している、アクシデント時の連絡報告、アクシデント後の対策の話し合いなどであった。しかし、強度行動障害の実際の援助面では低く、行動の共通理解の形態は十分か(学校47%、施設52%)、指導支援の統一性は十分か(学校41%、施設45%)と示された。指導目標作りを一緒に行うは、学校29%、施設20%と最も低かった。学校と施設での連携では、強度行動障害支援で最も必要な障害理解と援助の統一性、指導目標の相互作成が不十分な傾向が伺えた。連携内容は、今後この視点から深める必要性が示唆された。
結論
強度行動障害への援助について、特に強迫性の強い行動障害例ではその特異な内面を理解した支援、年少例への支援、前兆からの予防支援、強度行動障害で自閉症例へのコミュニケーションや構造化を中心にした実践、それぞれに一定の視点と技法が開発された。医療からは、早期療育への医療の関与、行動制限、入院治療など医療側からの支援方法が呈示された。強度行動障害判定基準での環境記述の素案が作成された。学校と施設の連携に関する全国調査が完了し援助・指導での連携が弱い点が示され、今後の連携の方向性が示唆された。

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