音楽療法の臨床的意義とその効用に関する研究

文献情報

文献番号
199900244A
報告書区分
総括
研究課題名
音楽療法の臨床的意義とその効用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
日野原 重明(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 松井紀和(日本臨床心理研究所)
  • 篠田知璋(くらしき作陽大学)
  • 村井靖児(国立音楽大学)
  • 坪井康次(東邦大学医学部)
  • 丸山忠璋(横浜国立大学教育人間科学部)
  • 川上吉昭(東北福祉大学)
  • 指宿真智雄(東北福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、国民医療費が高騰し、国家医療財政が逼迫している。一方、国民の医療に対するニーズは多様化し、受療者自身が治療法を選択する医療へとその方向性は大きく変わりつつある。これは、従来の与えられる医療から、受療者の身体的、心理的ニーズに応えた、受療者にとって優しい医療への要請にほかならない。
こうした新しい医療や福祉への期待は大きく、それらを反映するかたちで、今日、わが国においても音楽療法が広く行われようとしている。
しかし、現在、音楽療法は、関係する制度が整備されていないこと、医療・福祉の領域での健康保険診療点数に組み込まれていないなどの理由から、様々な雇用形態で、様々な名目で実施されているのが現状である。
音楽療法の実態を把握し、音楽の臨床的効果、健康維持・増進作用について、内外の文献を収集検討し、かつ現在行われている種々の臨床的研究について展望することは、来るべき21世紀の医療行政にとって、多くの貢献をなし得るものと考えられる。
そこで、わが国において行われている音楽療法の実態を調査し、諸外国の実状とも比較しつつ、音楽療法の効果を臨床的および文献的に明らかにすることを目的とした。
研究方法
 以下の調査を行った。
① 全日本音楽療法連盟(全音連)認定音楽療法士の精神科領域での音楽療法についての実態調査
② 高齢者医療・福祉施設における音楽活動についてのアンケート調査
③ 全国地方自治体と社会福祉協議会における音楽療法に対する意識調査
④ 米国音楽療法における音楽療法研究の実態調査
⑤ 大学生を中心とする健常者における音楽の活用ならびに音楽療法に対する意識調査
⑥ 即興演奏による発達障害児に対する音楽療法の効果
結果と考察
精神科領域において認定音楽療法士は、広範な疾患群に対して活動を行っており、薬物療法などでは不十分な患者のコミュニケーション能力や社会的活動の改善に寄与していることを村井らは明らかにした。
福祉・教育領域について、丸山は、今年度とくに高齢者施設を対象とした調査を行い、約98%の関係施設で何らかの形で音楽を取り入れた活動が行われていることを明らかにし、そのうち日常的な活動として取り入れているところは22%あった。音楽活動により得られる効果について、生活の活性化58%、機能訓練効果44%、社会性の伸長24%、情緒の安定性20%があげられている。
指宿らの調査によると、全国地方自治体のうち5件では、すでに音楽療法の普及支援助成を行っているが、全体では音楽療法に対する積極的な理解を示しているとする回答は6分の1程度にとどまっていた。
篠田らは、米国音楽療法学会に出席し、パーキンソン氏病、脳血管障害への治療が医師との共同研究により行われており、また健康維持・増進のためのプログラムが計画されていることを報告している。
坪井らは、健常大学生へのアンケート調査から、音楽は気分転換・安定のために積極的に使用されていることを明らかにした。
松井らは、発達障害児に対して即興演奏による治療を試み、音楽的交流がはかられ、言語的交流にもつながることを明らかにしている。
音楽療法は、諸外国においてすでに有用な治療手段として、活用されている。とくに米国では、各種疾病に対する治療効果について医師との共同研究が行われ、さらに健康維持・増進領域への応用も盛んであることから、今後わが国でもこの方面での研究が盛んになると思われる。
わが国においても音楽療法は、領域を問わず全国的に普及しているが、地方自治体でのこの方面への取り組みは、まだ始まったばかりで、今後、さらに理解・普及のための努力が必要であるものと思われた。
精神科領域、教育・福祉領域での取り組みでは、治療環境、人的資源、音楽療法の内容などについて、さらに改善すべき点の多いことが判明した。
一方、高齢施設領域では治療法として期待が高いことが示唆されており、今後構造化された治療プログラムに則った治療の展開ならびに治療効果についての研究が期待される。
一方、若年健常者で、日常的に音楽が生活に取り入れられ、精神的健康の維持・増進に活用されていることが明らかになった。これらは、音楽から遠ざかっている熟年者や高齢者の健康増進のために音楽療法が貢献しうることを示唆するものとして重要である。
音楽療法の重要な要素のひとつにコミュニケーションがあるが、即興演奏を取り入れることによって、とくに他者とのコミュニケーションに障害を持つ症例に対して有効であることが判明し、今後、他の分野の治療にも応用しうることが示唆された。
結論
音楽療法は、精神疾患や心身症、あるいは高齢者に対する教育・福祉領域で盛んに利用されており、身体・心理両側面への治療的有用性の高いことが明らかとなった。
一方、とくに高齢者施設では音楽療法に対する関心が高く、治療法として導入したいとする要求が高いにもかかわらず、地方自治体での取り組みは遅れているといわざるを得ない。
今後、さらにわが国で行われている音楽療法の内容と効果についての研究が必要であり、健康の回復、増進のために寄与する音楽療法従事者に関する実態を調査する事が必要であるものと考えられた。

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