精神医療の機能分化に関する研究

文献情報

文献番号
199900243A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療の機能分化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
浅井 昌弘(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川武彦(国立精神・神経センター)
  • 黒澤尚(日本医科大学附属千葉北総病院)
  • 計見一雄(千葉県精神科医療センター)
  • 伊藤哲寛(北海道立緑ヶ丘病院)
  • 中山茂樹(千葉大学工学部)
  • 守屋裕文(埼玉県立精神保健総合センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレス社会の中では、心の健康増進及び精神障害の予防と治療が緊要な課題である。そのためには精神医療各分野での効果的な機能分化を計り、それらを統合して医療経済的視点からも医療資源の有効活用を目指すべきである。本研究ではかかる見地から「精神医療の機能分化に関する研究」を行ない、研究目的では次の観点を重視した。①厚生省が行って来た「精神科救急医療システム整備事業」の一層効果的な展開に資すること、②精神科と身体疾患診療各科との円滑な協力と連携により心身両面からの総合的診療の充実に資すること、③地域特性や国公立病院での精神医療の特性を考慮した機能分化と統合を有効に行い、貴重な医療資源を人的及び物的に活性化して医療経済の観点からも社会に貢献する厚生行政の実現に資することである。研究目的の具体的内容は、①精神科救急医療では、初発と再発の急性増悪を早期発見と早期治療により短期間で改善するために、精神科医療資源の効果的配置システムの整備実態を調査研究し改善策の検討を要する。それにより入院期間の短縮、社会参加の促進とデイ・ナイトケアや外来診療が円滑に確保し得る。②精神科と他診療科との協力体制では、身体疾患での精神科的ケアの重要性と、精神疾患における身体疾患の合併症治療という両方の観点から、多診療科のある地域中核病院での精神科診療のあり方を機能分化の視点から再検討する必要がある。③地域的に大都市での精神医療のあり方の特徴を検討したり、設置母体が国公立等の公的病院での精神医療のあり方の実際的特徴もその現状を把握してさらに改善すべく検討の必要がある。
研究方法
平成11年度には以下の6項目の分担研究方法を実施した。①「精神科救急医療に関する研究」(守屋裕文)では、厚生省による「精神科救急医療システム整備事業」を実施している自治体と未実施の自治体についてアンケートと聞き取り調査を行い統計的手法も応用して諸要因を解析し、全国の都道府県で精神科救急医療事業の実態調査を行なった。 ②「急性期精神病の入院治療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」(計見一雄)では、各地の精神科救急医療施設に入院した精神病急性期患者について、患者特性、入院時の重症度、身体管理度、病状の推移、必要な回復期間および医療資源につき、前向きに調査した。上記患者の入院から1年後に、病状、治療形態、社会的機能水準、通算入院期間を追跡調査し、これらの相関因子群を同定して、長期在院を要する患者の早期予測法を研究した。  ③「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」(中山茂樹)では、急性期医療を行う精神科病院の治療病棟と隔離個室の建築構造と運用方法、人的資源配置の実態調査を行い、より良い建築基準を検討した。  ④「精神科医療と他科医療の連携に関する研究」(黒澤尚)では、多施設で身体疾患入院患者に生じた精神障害の治療に要する精神科チームの業務量を「分時計測法」で測定し、所要の医療費からより適切な人員等の資源配置を検討した。地域中核病院で精神科がある施設と精神科がない施設において、身体疾患患者に精神症状を生じた場合と精神疾患患者に身体疾患が合併した場合への各対応をアンケートと聞き取りで調査し、心身両面からのより良い総合医療の提供方法を検討した。 ⑤「公的病院の機能に関する研究」(伊藤哲寛)では、国公立病院の精神科医療機能を調査票及び病院事例報告により分析し、
数量化した医療機能評価尺度から病院類型を区分して、公的病院機能を自己評価と客観的指標及びそれらの比較検討により明確化し、効率的な病院運営のあり方を検討した。 ⑥「大都市における精神医療のあり方に関する研究」(吉川武彦)では、大都市でとくに 問題となる薬物依存や単身者等の精神医療の実態調査を行い問題点を検討した。
結果と考察
①「精神科救急医療に関する研究」では、精神科救急医療事業未実施14府県の調査から、他の都道府県との情報交換が有意義であると判明した。精神科救急医療事業を開始した都道府県の調査結果では救急の需要に十分応じられず、搬送体制の整備や精神科救急情報センター設置への要望が高い。包括的な「精神科救急医療ネットワーク」設置の要望も高かった。 ②「急性期精神病の入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」では、423例の精神病急性期入院患者を調査し、自発的受診意志のない患者の4人に1人が警察の援助を受けたことが示された。 ③「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」では、患者の生活は、ベッドと周辺、少人数で過ごすスペース、食事など病棟全体のスペース、病棟外レクやリハビリなどの広い空間など、段階的に拡大する病棟空間構成の重要性が分かった。 ④「精神科医療と他科医療の連携に関する研究」では、たとえばアトピ-性皮膚炎患者調査で、他科診療医に対する精神医学の卒後研修の重要性が判明した。精神科医がリエゾン活動に費やす時間と、精神科医数の充実に見合う診療報酬の必要性が示唆された。高次機能がある病院での精神病棟の設置や、地域連携の中で身体合併症医療と精神科救急医療のシステム整備の重要性が明らかになった。 ⑤「大都市における精神医療のあり方に関する研究」では、住民からのアクセスに適切に対応するため、精神科救急システムの情報センター機能の設置、移送と適正な精神科救急医療の確保が必要性である。情報センター機能は、夜間・休日にも精神科救急へアクセス可能なシステムで、スタッフは「診断を含む判断と振分け」ができる常勤精神保健福祉士、精神保健指定医、看護職員等の確保が必要である。空床情報等をリアルタイムに把握できる救急輪番制とリンクしたネットワーク等も必要である。精神科救急システムでは、他臨床科での合併症治療とリハビリ、長期腎透析等で精神障害者に不利益が生じないよう環境整備が必要である。 ⑥「公的病院の機能に関する研究」では、種々の病院機能の調査分析から判明したことは、国立総合病院の精神科は基本的診療機能と身体合併症治療機能に優れ、国立単科精神病院は教育・研修機能に優れ、自治体総合病院の精神科は基本的診療機能に優れ、自治体単科精神病院は救急・急性期対応機能と地域精神保健活動機能に優れていることである。上記4群の公的病院は個々の基本的診療機能や教育研修機能などの将来的発展を志向している。こうした4群の将来像はお互いの不備を補い合う関係にあり、国公立精神科医療機関総体としての役割を考えると望ましい選択と言える。
結論
種々の角度から精神医療の機能分化を研究した成果の意義と今後への活用は次のようにまとめられる。 (Ⅰ)厚生省が行っている「精神科救急医療システム整備事業」を一層効果的にして全国的展開を促進し充実する上で役立つこと。 (Ⅱ)精神科と身体疾患診療各科とのより円滑な協力と連携を可能にして、精神疾患と身体疾患の合併症例を含めて多様な精神障害症例の実地医療において、常に精神と身体の両面を総合的に配慮しつつ種々の診療を能率良く効果的に行うという実用的および教育研修的な意義があること。 (Ⅲ)大都市の精神医療の特殊性や種々の公的病院精神科の特徴を把握して今後のあり方を示したこと。 (Ⅳ)以上の結果をふまえて精神医療の機能分化と統合を有効に行い、貴重な医療資源を人的及び物的に活性化して、医療経済の観点からも社会に貢献する厚生行政の実現に資することである。

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