緑茶による老年病予防に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900242A
報告書区分
総括
研究課題名
緑茶による老年病予防に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
菅沼 雅美(埼玉県立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松島芳文(埼玉県立がんセンター研究所)
  • 岡部幸子(埼玉県立がんセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の主な疾患であるがん、動脈硬化、循環器疾患、及び、糖尿病などの老年病に対する効果的な予防法の確立が望まれている。本研究は、緑茶による老年病の予防について、3H-(-)-epigallocatechin gallate(3H-EGCG)を用いた薬理学的研究、及び、生化学的、分子生物学的な研究を行い、科学的データを提示することを目的とする。次に、疾患モデルマウスとして、自然発症の高脂血症マウス、間質性肺炎のモデルとなるTNF-alphaトランスジェニックマウス等を用い、緑茶の老年病に対する予防効果を証明することを目的とする。
研究方法
(1)3H-EGCGを用いた薬理学的研究:3H-EGCG 3.7 MBqを含む0.05%EGCG溶液をCD-1マウスに、経口ゾンデで直接胃に投与した。その6時間後、同量の3H-EGCG溶液を再び投与し、血液、尿、糞便、及び臓器を採取し、オキシダイザーで放射活性を測定した。一回投与後の血液及び臓器の放射活性とを比較した。(2)TNF-alpha欠損マウスを用いた研究:TNF-alpha欠損マウスの背部皮膚に100 microgのDMBAを塗布してイニシエートし、5 microgのオカダ酸を週に2回、20週間塗布した。コントロールとしてTNF+/+129/SvjマウスとCD-1マウスを用いた。(3)間質性肺炎のモデルであるTNF-alphaトランスジェニックマウスにおける緑茶抽出物のサイトカイン発現の抑制:TNF-alphaトランスジェニックマウスはSurfactant protein C遺伝子のプロモーターの制御によって、肺胞II型上皮細胞で特異的にTNF-alphaが発現するマウスである。TNF-alphaトランスジェニックマウスに緑茶抽出物を0.1%の濃度で4ヶ月間飲用させた。肺で産生されるTNF-alphaと IL-6の蛋白量をELISA法で測定した。(4)cDNA Expression Arrayを用いたEGCGの遺伝子発現に対する効果:EGCG 200 microMで処理したPC-9細胞から、poly(A)+RNAを精製した。1 microgのpoly(A)+RNAを調整し、cDNA Expression Arrayで588個の遺伝子発現を検討した。(5)自然発症高脂血症(SHL)マウスにおける緑茶抽出物の血清コレステロール低下作用:SHLマウスはapolipoprotein Eの欠損によって、高脂血症を自然発症するマウスであり、埼玉県立がんセンター研究所で維持している。SHLマウスに、0.1%の緑茶抽出物を含む飲料水を投与し、4週ごとに血液を採取した。血清総コレステロール値をフジドライケムシステムで測定した。コントロールとして、水を飲用させたSHLマウスの血清総コレステロール値と比較した。(6)動脈硬化症マウスの樹立:SHLマウスの雄とC57BL/6マウス、BALB/cマウスあるいは、C3H/Heマウスの雌とを交配させ、コンジェニックマウス、C57BL/6-shlapoe、BALB/c-shlapoe、C3H/He-shlapoeを樹立した。血中総コレステロール値と大動脈起始部に生じた動脈硬化を測定し、SHLマウスと比較した。
結果と考察
(1)3H-EGCGを用いた薬理学的研究:血液中の放射活性は、2回投与によって明らかに増加し、1回投与後の5.9倍であった。また、各臓器に分布した放射活性は、血液と同様に1回投与の2倍以上に増加したものと、2倍以下のものに分類された。たとえば、4倍以上の増加を認めた臓器は、脳、肺、肝臓、膵臓、膀胱、及び骨であった。一方、十二指腸、小腸、大腸などの消化管に分布した放射活性は、1.3~2.0倍であった。これらの結果は、緑茶の頻回飲用は、血液、及び、標的臓器において茶ポリフェノールを高濃度に維持することに役立っていることを示唆した。(2)TNF-alpha欠損マウスを用いた研究:TNF-alphaを発現する TNF+/+129/SvjマウスとCD-1マウスは、17週で100%の腫瘍発生頻度に達した。 しかし、TNF-alpha欠損マウスは、19週まで腫瘍は生じず、20週で1匹に1個の腫
瘍が生じたのみであった。この結果は、TNF-alpha欠損マウスはオカダ酸の発がんプロモーション活性に対して抵抗性を持つことを示した。すなわち、TNF-alphaが、発がんの初期の過程である発がんプロモーションのプロセスにおいて、本質的なサイトカインであることを証明した。(3)間質性肺炎のモデルであるTNF-alphaトランスジェニックマウスにおける緑茶抽出物のサイトカイン産生抑制:水のみを飲用したTNF-alphaトランスジェニックマウスの肺組織で、TNF-alphaは蛋白1 mg当たり3.0 microgであった。そのTNF-alpha量が緑茶抽出物の投与によって2.1 microg/1 mg蛋白、すなわち70%に減少した。これは、統計学的に有意であり、TNF-alpha mRNA発現に対する抑制効果より強いものであった。更に、緑茶抽出物の投与は、IL-6蛋白も約80%に抑制した。経口的に投与した緑茶抽出物が肺に到達して、炎症性サイトカインの産生を抑制することを確認した。(4)cDNA Expression Arrayを用いたEGCGの遺伝子発現に対する効果:PC-9細胞は、588遺伝子のうち171の遺伝子が発現していた。EGCGの処理は10種の遺伝子発現を抑制し、また、15種の遺伝子発現を亢進した。EGCGによって、発現が抑制あるいは亢進される遺伝子は、主に、レセプター、細胞周期、細胞増殖制御因子、増殖因子、サイトカインに分類される遺伝子であった。(5)自然発症高脂血症(SHL)マウスにおける緑茶抽出物の血中コレステロール低下作用:緑茶抽出物の投与は、血清総コレステロール値を未処理群の850 mg/dlから630 mg/dlと約26%ほど減少した。緑茶飲用がSHLマウスapolipoprotein E遺伝子の異常によって生じる高脂血症を、緑茶の飲用が抑制することを見出した。(6)動脈硬化症マウスの樹立:遺伝的背景の異なる3系統のマウスとSHLマウスを交配し、コンジェニックマウス、C57BL/6-shlapoe、BALB/c-shlapoe、C3H/He-shlapoeを樹立した。それぞれの血清コレステロール値は、C57BL/6-shlapoe:700 mg/dl, BALB/c-shlapoe:900 mg/dl, C3H/He-shlapoe:1000 mg/dlであった。大動脈起始部の動脈硬化の程度はそれぞれのマウスで異なっていた。C57BL/6-shlapoeが最も強く、続いて、BALB/c-shlapoe、C3H/He-shlapoe、SHLマウスであった。
結論
3H-EGCGを経口的に2回投与すると、1回の投与に比べて血液や臓器に分布する茶ポリフェノールが予想以上に増加した。すなわち、緑茶の頻回飲用は、血液や標的臓器での茶ポリフェノールを高濃度に維持することに役立っていると考える。脳への分布も2回投与で増加することから、脳神経疾患の予防にも緑茶が有効であると期待される。TNF-alphaはがん、糖尿病や動脈硬化に関与するネットワークを介して、次の様々な炎症性サイトカインである。今回、TNF-alpha欠損マウスは、発がんプロモーターに対して抵抗性を示すことを明らかにした。茶ポリフェノールは、TNF-alpha遺伝子の発現、及び遊離を抑制し、がんを予防していると推測する。緑茶の飲用が、自然発症高脂血症マウスの血清コレステロールを減少させることを見出した。

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