地域住民のライフスタイルと老化との関係に関する研究

文献情報

文献番号
199900241A
報告書区分
総括
研究課題名
地域住民のライフスタイルと老化との関係に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
瀬戸山 史郎(鹿児島県民総合保健センター)
研究分担者(所属機関)
  • 秋葉澄伯(鹿児島大学医学部公衆衛生学)
  • 櫻美武彦(国立南九州中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では急速な人口の老齢化に伴い痴呆性老人は年々増加の傾向にある。従って、老化の要因やボケ防止について検討することはこれらの高齢者の心身ともに健康で幸福な老後と増大する医療費の抑制という観点から重要である。最近、食生活、身体活動や社会活動などの生活習慣とボケとの関連が指摘されている。また、脳動脈硬化と脂質過酸化との間に正の相関があるという報告もある。
本研究は地域住民の食生活習慣、身体活動状態、社会活動状態などのライフスタイル調査、MMS得点を用いた痴呆検査、血清及び赤血球膜脂質分析を行い、各種老化の指標との関連を検討し、得られた知見を老人性痴呆の予防に役立てようとするものである。
併せて、本県における高齢者の健康づくりについても検討しようとするものである。
研究方法
研究(1)では鹿児島県離島部に位置するK町で平成6-10年に行われた健康診断データを用いて、この期間に2回以上健康診断を受診したものを対象にして縦断的な検討を行ない、血球脂質レベルとMMS得点変化との関連を検討した。
研究(2)では今年度は20才~50才までの健常者について血清及び赤血球膜脂質分析を行ない、老人保健施設入居高齢者を対象として昨年度までに測定した血清及び赤血球膜脂質データを用いて、検討を行った。
研究(3)については高齢者の生活習慣病の一つとして虚血性心臓病をとりあげ、その危険因子として喫煙、高コレステロール血症、糖尿病との関連について検討した。
結果と考察
研究結果=研究(1)では血球DHAレベルの低いものでは2年間の追跡後、MMS得点が悪化しやすい傾向が示された。これは昨年度(平成10年後)、平成6-9年度のデータを用いて行った検討結果を確認する結果となった。
研究(2)では20~50才代の健常者の赤血球膜過酸化脂質平均値は加令とともに増加する傾向を示し、20才代は40才代、50才代および高齢者群のいずれに対しても有意に低く、30才代でも50才代、高齢者群のいずれに対しても有意に低かった。また、高齢者で痴呆(-)群は痴呆(+)群より有意に低かった。
研究(3)では虚血性心臓病で冠動脈臓造形を受けた男女847名について喫煙の有無、高コレステロール血症および糖尿病の有無を調査分析した結果、心血管障害の罹患率は60才以上の男性喫煙者に最も高かった。
考察=研究(1)で血球DHAレベルの低いものでは2年間の追跡後のMMS得点が悪化しやすいことが示されたが、同様の結果は、すでに動物実験・臨床試験では報告されている。例えば、Yamamoto et alはラットを2群に分け、1群にはn-3系多価不飽和脂肪酸欠乏食としてサフラワー油食を投与し、多群にはn-3系多価不飽和脂肪酸に富むシソ油を投与し、両群を二世代にわたって飼育し続けた結果、シソ油で育ったラットの方が明暗識別学習試験の結果が良かったことを報告している。また、宮永らは脳血管痴呆患者に臨床試験を行ってDHAの効果を検討したところ、DHA投与群で計算力、判断力に改善が見られたと報告している。本研究は一般住民を対象にした疫学研究として我が国で初めてDHAレベルが高いと痴呆の発症を予防できる可能性を示したものである。
研究(2)で20才代~50才代の健常者では加令とともに赤血球膜過酸化脂質が増加する傾向が認められた。昨年度までの本研究では70才以上の高齢者群で痴呆のない群はある群に比較して赤血球膜脂質が有意に低いこと、魚介類摂取習慣のあるものでも赤血球膜過酸化脂質が低いことを報告した。これらの成績は脳動脈硬化と脂質の過酸化とが正の相関があるという報告とも関連して脳動脈硬化の予防・進展防止のためには脂質過酸化を抑えるようなライフスタイル、例えば魚介類摂取習慣などのような食生活習慣が重要であることを示唆するものと考えられる。
研究(3)の結果から高齢者とくに60才以上の男性では虚血性心臓病の予防という観点から高コレステロール血症、糖尿病よりは禁煙が重要であることが示唆された。
結論
研究(1)血球DHAレベルの低いものでは2年間の追跡後のMMS得点が悪化しやすい傾向が示された。研究(2)20才代~50才代の健常者では加令とともに赤血球膜過酸化脂質が増加する傾向が認められた。研究(3)冠動脈造影を施行した虚血性心臓病の罹患率は60才以上の男性の喫煙者で最も高かった。

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