都市部および農村部の高齢者のうつ病に関する研究

文献情報

文献番号
199900239A
報告書区分
総括
研究課題名
都市部および農村部の高齢者のうつ病に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
清水 弘之(岐阜大学医学部公衆衛生学教室教授)
研究分担者(所属機関)
  • 福澤陽一郎(島根県立看護短期大学教授)
  • 新野直明(国立長寿医療研究センター疫学部室長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者においてうつ病は、痴呆と並んで頻度の高い精神疾患である。またうつ病は、高齢者の社会生活や自殺などの問題行動にも大きな影響を持つことが知られている。近年、都市部ではひとり暮らし高齢者が増加しており、社会的支援の少ない孤独な生活が問題となっている。一方、農村部では家族との同居の割合が高いにもかかわらず、高齢者の自殺率が高いことが知られている。高齢者のうつ病においても、都市部と農村部ではその頻度や関連要因が異なることが示唆される。欧米では、都市化の程度が進むほど、高齢者のうつ状態が増加するという報告もみられる。生活環境や社会構造の異なる都市部と農山村における高齢者のうつ病の予防対策を考案するためには、都市部と農村部それぞれにおけるうつ病の特徴を明らかにする必要がある。本研究では、都市部と農村部に居住する65歳以上高齢者のうつ病あるいはうつ状態の頻度および関連要因の特徴を明らかにすることを目的として、高齢者の抑うつ症状に関する調査を岐阜県、島根県、東京都、静岡県で実施し、既存調査データ(東京都、秋田県)を含めた10の地域で比較した。
研究方法
1)岐阜県調査(1)都市部:岐阜県都市部G市(人口約40万人)の20歳以上全人口から選挙人名簿に基づいて2012名を無作為に抽出した。これらに対して2日間の訓練を受けた面接員(学生、看護婦、主婦)約30名が個別に調査を実施した。面接ではWHO統合国際診断面接(WHO-CIDI) のミシガン大学修正版(UM-CIDI)を用いて、うつ病、躁病、発作型不安障害、全般性不安障害、アルコール・薬物依存症に関するICD-10およびDSM-III-R診断を行なった。同時に自己記入式調査票で、抑うつ症状(CES-D尺度)、生活満足度(PGCモラール尺度)を測定した。G市では1998年5月末までに合計1031名の面接を実施した。入院、死亡、転居者、住所なしを除いた対象者に対する回答率は57%であった。なお、回答率は若年者で低い傾向にあり、65歳以上高齢者に限定した場合回答率は70%であった。(2)山間部:岐阜県山間部T市(人口約7万人)の35歳以上住民全員を対象として実施された質問表調査(回収率92%)の回答者から、50歳以上となる約2万名のうち、500名を無作為に抽出した。これらに対して2日間の訓練を受けた面接員(学生、看護婦、主婦)8名が個別に調査を実施した。 T市では面接実施者は276名であった。遠隔地居住、入院、死亡、転居者、住所なしを除いた対象者に対する回答率は63%であった。以上の岐阜県調査については1998年6月に岐阜大学医学部研究倫理審査委員会で審査を受け、承認されている。2)島根県における調査(1)島根県C村(漁村):島根県隠岐島のある漁村(C村)の40歳以上住民を対象として、1998年8月に留め置き方による質問票調査を実施した。質問票では抑うつ症状(GDS尺度15項目,GDS-15)および生活満足度(PGCモラール尺度)を測定した。男性177名(うち65歳以上高齢者89名)、女性291名(同174名)から回答を得た。回収率は566人中468人であり、回収率は82.7%であった。うち、抑うつ症状の調査項目のGDS15の有効回答の417人の結果をまとめた。また1999年6月~7月に抑うつ症状に関する同一内容の自記式のアンケートを、事前に配布し、基本健康診査の健診会場で回収した。全健康診断対象者482人のうち229人(47.5%)が受診し、調査票には男性60人、女性168人が回答した。ここではこのうち65歳以上の男性38人、女性102人を分析の対象とした。(2)島根県N町(中山間部):1999年6月~10月に島根県N町の5地区の基本健康診査は対象者数2,374人中1,217人が受診し、51%の受診率であった。各地区毎の受診率は45.3%から60.8%の
範囲であった。抑うつ症状の記入が不完全であったり、性・年齢が不明のもの113人を除き1,104人を有効回答とした。ここでは65歳以上の男性233人、女性455人を分析の対象とした。3)静岡県における調査(都市部):静岡県浜松市のM町(人口3249人、831世帯、老年人口割合21.7%)における調査データを解析した。対象者は、M町に在住の65歳以上の全員705名のうち、転倒・骨密度検診に参加した534名(男性219名、女性315名、平均年令73.2±6.3歳)である。島根県調査と同じく、GDSで6点以上を「抑うつ症状あり」と区分した。また静岡県浜松市の中心部近く位置するN町(全人口4379名)の65歳以上住民885名を対象に、転倒・骨密度検診を行い、その参加者に、調査票に基づく面接聞き取り調査を実施した。65歳以上の回答者は男性156人、女性250人であった。4)東京都における調査(都市部): 東京都墨田区本所保健所管内(全人口102,153名、男性51,123名、女性51,030名)に在住の60歳以上の人20,976名(男性8,884名、女性12092名)から無作為抽出した1000名(男性425名、女性575名)を対象に、郵送法による調査を実施した。調査内容は、性、年齢、世帯構成(同居者有り/無し)、活動範囲(1人で外出可/不可)、抑うつ症状の有無である。抑うつ症状は日本語版GDSの15項目版を用いて評価した。回答者は248名(男性109名、女性128名)であった。5)その他の地域のデータ:東京都老人総合研究所から公表されている資料にもとづき、「中年からの老化予防・総合的長期追跡研究」データから、東京都K市(都市部)(男性314名、女性349名、合計663)、秋田県N村(農村部)(男性283名、女性423名、合計706名)におけるGDS30項目版を用いた抑うつ症状の頻度を調べ、これと上記地域における抑うつ症状とを比較した。以上の地域データから、(1)都市部と山間部における高齢者のうつ病の頻度の比較、(2)地域別の高齢者の抑うつ症状の比較、(3)都市部と山間部の間での高齢者の抑うつ症状の関連要因の比較を解析した。
結果と考察
10地域の比較から、男性高齢者の抑うつ症状の頻度は農村部では低く都市部で高いことが明らかとなった。女性ではこの傾向は求められずむしろ都市部と農漁村部で抑うつ症状が高かった。岐阜県内の調査では都市部の65歳以上高齢者は山間部都市にくらべてうつ病を早期に経験しており、また有意ではないが調査時点から6ヶ月以内にうつ病を経験した者が多かった。山間部では都市部とくらべて75歳以上、同居者(配偶者以外)あり、治療中の疾患ありがより抑うつ症状と関連する傾向がみられた。社会的支援は都市部、山間部ともに抑うつ症状の低下と関係していた。都市化にともなう要因(独居の増加、環境の変化など)が都市部の高齢者のうつ病や抑うつ症状を増加させている可能性がある。一方山間部では後期高齢者、配偶者死亡後の家族同居、治療中の身体疾患があることが山間部の風土や文化的背景の下で抑うつ症状の背景要因となると考えられた。
結論
高齢者の抑うつ症状に関する岐阜県、島根県、東京都、静岡県調査および既存調査データ(東京都、秋田県)を含む10の地域での調査の比較から、男性高齢者の抑うつ症状の頻度は農村部では低く都市部で高いことが示された。岐阜県内の調査でも、都市部の65歳以上高齢者は山間部都市にくらべてうつ病を早期に経験しており、また有意ではないが調査時点から6ヶ月以内にうつ病を経験した者が多かった。一方山間部では都市部とくらべて75歳以上、同居者(配偶者以外)あり、治療中の疾患ありがより抑うつ症状と関連する傾向がみられた。社会的支援は都市部、山間部ともに抑うつ症状の低下と関係していた。都市化にともなう要因(独居の増加、環境の変化など)が都市部の高齢者のうつ病や抑うつ症状を増加させている可能性がある。一方山間部では後期高齢者、配偶者死亡後の家族同居、治療中の身体疾患があることが山間部の風土や文化的背景の下で抑うつ症状の背景要因となると考えられた。

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