長寿者の壮年期生活習慣と健康に関するコホート研究

文献情報

文献番号
199900238A
報告書区分
総括
研究課題名
長寿者の壮年期生活習慣と健康に関するコホート研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 昌(東京農業大学公衆栄養研)
研究分担者(所属機関)
  • 水野正一(東京都老人研究所)
  • 小島光洋(宮城県栗原保健所長)
  • 田辺穣(愛知県衛生部長)
  • 吉田紀子(鹿児島県保健福祉部)
  • 郡山千早(鹿児島大学医学部公衆衛生)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の健康状態が長年の生活習慣の蓄積によることは当たり前のことと想像されているが、実際に地域住民を長期に追跡調査した研究は少ない。80歳代、90歳代の高齢者が増えており、この年齢層の実態把握とともに、同一人の40歳、50歳代頃の生活習慣と 比較できれば疾病の原因あるいは健康な生活につながる要因を解明できる可能性がある。本研究は鹿児島県、愛知県において30年前に設立した6府県コホート対象者の追跡調査をし、転出、死亡を確認し、生存者を対象に現状を再調査することを目的とした。本研究で得られる健康な長寿にいたる要因はそのまま健康教育等に実施しうるもので、将来の高齢者の医療費軽減などに多大の成果をもたらすと思われ、衛生行政上の基礎資料となる。
研究方法
愛知県、鹿児島県のコホート地区で作成した1995年の生存者名簿を元に各地域1000人程度を選択し、再調査を行った。3年間で合計6000人を目指した。過去と比較検討できるような質問票による調査を行った。検診可能者については採血により種々の生体指標を参考にした。各地域における調査は保健婦もしくは介護者に依頼する が、本人への調査とともに介護状態等についての質問票を配布し、対象者の被介護状態について調査した。調査票にたいする回答についてvalidity checkを行った。健康長寿者の生活習慣以外の要因としてNEO-FFI性格テストおよび健康意識調査をおこない、生活習慣との関係をしらべた。
また、1965年に6府県で行われた26万人のprospective cohort studyのデータベースを再整理し、広く疫学調査に供しうるものにし、従来のデータの信頼性について再チェックを行った。
結果と考察
愛知県では全地域の調査を終え、7375名の死亡を確認した。愛知県のみでも30年間の死亡者数は1万7千名にのぼり、10年ずつの3期間について別途にリスクを計算できた。愛知県下2保健所管内で4町12地区からランダムに1020名を抽出し、902件を回収、823名の有効回答を得た。既往歴回答者は399人であったが、既往歴としては高血圧が263人(32%)であった。循環器疾患は狭心症43人、心筋梗塞22人、脳梗塞38人、脳出血16人、糖尿病53人、痛風17人で、がんは39人であった。喫煙率はきわめて低く、すわない633人に対して常習喫煙者は106人、以前喫煙者は66名であった。酒類も常習飲酒者99名、時々飲酒者52名に対し、飲まないと答えた者は597名であった。野菜は毎日たべるものが多く、肉、魚もほどほどであったが、牛乳に関しては毎日飲むものと、飲まないものと両極端にわかれた。1999年度に3000名の調査を終えたが現在まだ分析中である。
鹿児島県では1965年に設定したコホートの大口市6477名、加世田市6242名分の1983年以後の追跡調査をおこないそれぞれ2950名、2277名の生存を確認した。死亡リスクについて解析した結果、20本以上の喫煙は男性で1.31、女性は1.36の相対リスクを示した。生存者に対し、2955名へ郵送調査を行い、1797名(60.8%)の回答を得た。対象者が高齢のため本人回答は68.8%であった。1965年時点での喫煙率は43.1%であったが、今回は9.1%であった。食習慣の変化では牛乳摂取の増加と魚、漬物、味噌汁の低下がみられた。食習慣の欧風化と加齢による嗜好変化もあると思われる。将来の遺伝子多形性など生体指標の解析に備えて長寿県の沖縄、長野の厚生省多目的コホート対象者から血液を採取、凍結保存した。
宮城県では平成12年度からの公的介護保険制度の開始を控え、高齢者の実態を把握する研究を先行させた。栗原保健所の所管する宮城県栗原郡は高齢化率が25%に近く、町村の保健事業のかなりの部分が高齢者の健康に当てられている。特に平成12年度からの公的介護保険制度の開始を控え、高齢者の実態を把握する機会が多くなっている。町村の保健活動において、(1)高齢者の自立度はどのように把握されているか、(2)その妥当性(代表性、再現性)が保証されているか、を確認した。運動習慣については、(1)高齢者の運動をどのように規定しているか、(2)高齢となった時点での健康を指向した運動指導が壮年者に対しての保健活動として取り上げられているか、を同様の方法で確認した。すべての町村で、高齢者の自立度の指標として用いられていたのは、障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準であった。これは、J(生活自立)、A(House-bound)、B(Chair-bound)、C(Bed-bound)の4ランクに分け、さらに各ランクの中を2つに分けているものである。いくつかの市町での報告を基に、妥当性を検証した。また、高齢者の運動習慣を把握するためには、高齢者にとっての運動を規定することが必要とされた。国民栄養調査の付帯調査による運動習慣の定義は、実施頻度が週2日以上、持続時間が30分以上、継続期間が1年以上の3つの条件をあげているが、これを高齢者に適用することは困難である。運動習慣をテーマにするよりも高齢者の活動空間を拡大することにウエイトを置く方が良い。また、壮年期における有酸素運動の習慣付けが高齢期に体力や自立度を高く維持することが事例として報告された。従って、これらを踏まえた生活状況調査票の作成を行うこととした。
性格が高齢者の健康に影響をおよぼすかどうかは不明である。東京農大ではNEO-FFIの日本人向け調査票を開発していたが、今年度は岩手と東京の高齢者にたいして妥当性調査を行った。
加齢とともに、神経質性、外向性の得点が低くなり、誠実性の得点が高くなっていた。つまり、元気な高齢者は、安定感が増し、内向的になり、いつも目標に向かって一生懸命頑張っているということがわかる。体格は、年齢の影響を考慮しても神経質性の得点が低い方が、BMIが高くなっていた。有意な相関を示したものから性格と生活習慣を考えると、自覚症状を訴える数が多い人の性格は、神経質、内向的、好奇心が旺盛、競争心が強く、誠実性が低かった。健康のために何か実行している数が多い人は安定感があり、好奇心が旺盛、協調性があり、誠実性が高かった。また、健康づくりのために知りたいことが多い人は、安定感があり、開拓性が高い人だった。食品数が多い人の性格は、安定感があり、開拓性、協調性、誠実性が高かった。
長期縦断的コホート研究では観察が長年にわたるため後になって情報の分かりやすさを保証する方法や技術が重要となり、得られたデータ等の情報の維持管理に特別の配慮が必要となる。そこで本年度は各種情報を整理記録する方法を開発及び応用する目的でパソコン上で動作する Application Soft としてのメモシステムの開発を行った。またリンケージ分析のための方法論的開発が検討された。本研究でえられた情報の提示用としては、Operating System は Windows-95, 98, NT 等を試みた。ホームページ記述言語であるHTML言語を用いた。ホームページ作成は簡易言語によったが、これはC言語にて開発を行った。取り扱うべき各種情報としては、テキスト情報、各種ワープロ情報、論文等をスキャナーで取り込んだ絵(jpg)の情報を取り扱い可能となるようにした。
結論
3年度で6000名の再調査により高齢者のコホートを作成する計画は、ほぼ計画通り進行した。予備的な疫学解析で長期間の生活習慣の成人病への影響や、生活習慣を良くした場合のリスク軽減を証明できることが示唆された。また、高齢者の体力評価や長寿に関連した調査方法の開発も平行して進められ、高齢者の体力評価として開発された木村のバッテリーテストが、行政の保健活動において標準化されて適用可能であることを見出した。性格の健康意識や行動に対する影響を分析する方法の開発が図られた。これは疫学分野ではほとんど取り組まれてこなかった課題である。NEO-FFIによる性格テストと健康意識調査により健康な長寿者は健康のために何か実行している人が多く、そのような人は安定感があり、好奇心が旺盛、協調性があり、誠実性が高かった。また、健康づくりのために知りたいことが多い人は、安定感があり、開拓性が高い人だった。食品数が多い人の性格は、安定感があり、開拓性、協調性、誠実性が高かった。長寿と性格の研究は緒についたばかりで今後も研究が必要と思われる。
今回、コホート研究は長期に渡り情報の維持管理が重要であることを鑑み、最近のインターネットの普及や、パソコン等のハード、ソフトの向上を利して、情報を維持管理するための一メモシステムの開発を行った。現在は、パソコン上で展開可能であるがネットワーク上での有効性が試される必要性がある。また、当研究班での様々な情報の維持管理及び分かりやすい提示用に使用されうるものと考えている。

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