沖縄における社会環境と長寿に関する縦断的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900234A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄における社会環境と長寿に関する縦断的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
崎原 盛造(琉球大学)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀 博(東北文化学園大学)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 鈴木征男(ライフデザイン研究所)
  • 秋坂真史(茨城大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沖縄における長寿要因の解明を最終的な目的として、沖縄本島北部の今帰仁村に居住する65歳以上の高齢者を対象に社会学的および心理学的研究を中心に実施し、社会関係、ライフスタイル、精神的自立性、知的機能評価等について分析する。さらに百歳以上の長寿者を対象とする生活史調査を実施し、長寿者を支えている要因を明かにする。併せて、大宜味村高齢者の12年間追跡調査を実施し、死亡に関連する要因を明かにする。
研究方法
沖縄県今帰仁村の19地区から8地区を無作為に抽出し、65歳以上人口1,213名の内死亡、入院・入所及び病弱等の高齢者を除く1,085名(男431名、女654名)を面接調査の対象とした。調査は平成11年9月23日から10月5日までの期間に戸別訪問により実施した。調査内容は、健康度自己評価、移動範囲、老研式社会活動指標、ライフスタイル、精神的自立性、転倒経験の有無、失禁の有無等であった。また、MMSEを用いた知的機能調査は、8地区から2地区を選択し、65歳以上の177名(男 73名、女 104名)を対象にそれぞれの公民館において実施した。なおこの調査では医師及び看護婦(士)資格者が面接調査を行った。今帰仁村内には百歳以上が11名在住しているが、その内百歳になった男女各1名を対象に訪問面接による生活史に関する聞き取り調査を実施した。併せて、1987年に実施した大宜味村高齢者健康調査に参加した738名について追跡調査(12年目)を戸別訪問により実施し、生死の確認と生存者については現在の健康状態、IADL、入院歴、転倒・骨折、老研式活動能力指標等を質問紙面接法による聞き取り調査を行った。この調査には地域住民を熟知している民生委員等が調査に当った。
結果と考察
1)高齢者のソーシャルサポートを測定する道具として前年度に作成した尺度(MOSS-E)は、高齢者のソーシャルサポート測定尺度として十分実用的な尺度であるが、その改善を目的として再検討した結果、10項目(手段的、情緒的および提供サポート)より構成される改訂版を作成した。本改訂版は、各下位尺度の独立性も改善され、かつ信頼性も十分であり、高齢者のソーシャルサポートを適切に測定できる尺度であることが確認された。2)ライフスタイルを社会、心理、身体の3側面から評価したところ、心理的領域は後期高齢者で低下したが、社会的および身体的領域は、加齢による明らかな低下は認められなかった。健康指標との関連では、男性ではすべての項目において活動能力指標の一つである「社会的役割」と有意な関連が示された。女性でも同様に「社会的役割」と「知的能動性」はすべての項目と比較的高い相関が示された。これらのことから本研究でとりあげたライフスタイル項目の習慣的な遂行は、高齢者の自立、とくに知的能動性や社会的役割を維持する上で有用であると考えられる。従来の成績ではとくに社会的領域の項目が健康に大きな影響を与えることが示唆されたが、本研究の結果、社会的領域と同様に心理的領域や身体的領域の項目も健康と関連することが示された。3)独自に作成した日本語版MMSEを用いて、高齢者の知的機能調査を実施した結果、年齢が高くなるにつれて見当識(時間)、記銘力、注意力、想起力、文章指示に従う能力、図形描写は有意に低下した。また、教育年数が上がるにつれて見当識(時間)、見当識(場所)、記銘力、復唱および文章指示に従う能力は有意に高かった。本研究では精神神経学的診察を実施していないので痴呆症の有病率を推定することはできないが、先行研究の基準を適用すると痴呆症二次スクリーニングの対象となる者は8.6%であ
り、先行研究(14.6%)に比べて知的機能の良好な高齢者の参加が多かった可能性がある。4)独自に作成した精神的自立性尺度(脱依頼心的自立性、目的指向的自立性、自己責任的自立性)を用いて調査した結果、脱依頼心的自立性を除く他の2指標は十分な信頼性があった。目的指向的自立性は男女とも前期高齢者が有意に高かった。自己責任的自立性は、女性では前期高齢者が有意に高かったが、男性では加齢による有意な差は認められなかった。目的指向的自立性に関連する変数は、老研式活動能力指標の中の知的能動性と社会的役割の他に年齢であった。自己責任的自立性に関連する変数は、活動能力が強い影響を及ぼしていたが、性の影響もみられ、男性の方が高かった。また、後期高齢者について沖縄と他地域を比較した結果、沖縄の後期高齢者が男女ともに精神的自立性得点は有意に高かった。とくに女性でこの傾向が大きかった。5)百歳の男女各1名の生活史に関する面接調査を実施した。男性は8人きょうだいの3番目で次男として隣の本部町で生まれ、25歳で結婚して以来今帰仁村に住んでいる。職業は農業の傍ら行商もしてきた。他人との「和」を大切に、他人によって生かされているという謙虚な気持ちが強いかった。子供は8名恵まれ夫婦仲はよく、性格は短気なところがあるが人間関係には気を遣う方である。食事は野菜を中心に肉や魚を良くとっている。若い時からよく働き、行動範囲は狭いがADLはほぼ自立している。女性は9名きょうだいの7女として今帰仁村で裕福な半農半漁の家庭に生まれ、以来村内に住んでいる。夫は本人91歳の時死亡、96歳まで独居だったが現在は4男夫婦と同居。夫に従順であったが現在は頑固である。ADLは一部介助を要する程度だが行動範囲は室内のみである。6)大宜味村高齢者を対象に12年目の追跡調査を実施した結果、306名(41.8%)の死亡が確認され、死亡は男性55.1%、女性34.7%であった。Cox比例ハザードモデルにより計算した死亡の危険度は、男性では拡張期血圧が高く、心電図総合判定が悪い方が高く、血清アルブミン値が高値である方が低かった。女性では、睡眠時間が6時間未満、BMIが低く、心電図総合判定が悪い方が死亡の危険が高く、老研式活動能指標の高い方が低かった。高齢者の健康づくりには、循環器系機能と栄養状態に留意することの他、女性では睡眠時間や高次の活動能力の維持が有効であると判断された。
結論
1)高齢者のソーシャルサポート測定尺度(MOSS-E)を再検討して作成した改訂版は、因子構造が明瞭で十分な信頼性を有し、高齢者の社会関係を適切に測定できる尺度であることが確認された。2)本研究で採択したライフスタイルの習慣的遂行は高齢者の自立した健康生活を維持する上で有用であることが示唆された。3)高齢者の知的機能は年齢と教育年数の影響が大きいことが示された。4)高齢者の精神的自立性は活動能力の影響を最も強く受けるるが、沖縄の高齢者は他地域と比べて精神的自立性が高かった。5)百寿者を支えている要因はさまざまな身体的心理的因子に加えて固有の生活史において多彩な不特定要因が関与している可能性が考えられた。6)12年間追跡調査の結果、死亡の危険度は循環器系機能と栄養状態の他、適切な睡眠と高次の活動能力も関連することが認められた。

公開日・更新日

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