中高年齢者の職業からの引退過程と健康、経済との関連に関する研究

文献情報

文献番号
199900231A
報告書区分
総括
研究課題名
中高年齢者の職業からの引退過程と健康、経済との関連に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 博(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、中高年齢者における引退過程と健康、経済との相互関連を解明することを目的としている。具体的な検討課題は、1)中高年齢者の就労継続・能力発揮という点からみた場合の企業による雇用管理、職場環境の整備、教育プログラムの現状と問題点の把握、2)引退過程とそれを規定する要因を、身体的、心理的、社会的要因との関連で多角的に検討すること、3)引退に伴う経済生活、社会生活、家庭生活、健康の変化を分析し、退職に対する社会適応を促す方策を検討すること、4)高齢者の引退過程が、配偶者の就労状況によってどのように異なるかを明らかにすること、5)米国の同様のデータベースを活用し、引退過程と健康、経済との関連の日本的な特徴を明らかにすることにある。2年目にあたる平成11年度の目標は、1)前年度に引き続き、全国調査の実施(初回調査)、2)初回調査の解析、3)第1回追跡調査の準備、4)60歳以上の高齢者に対する縦断調査データ(既存のデータ)の解析であった。
研究方法
1)初回調査の実施: 平成11年の3~4月に55~64歳の男女それぞれ4,000人と2,000人を全国から層化無作為に抽出し、訪問面接調査を実施した。さらに、3か月後の6月に回収不能者に対する2次調査を実施し、初回調査の回収率を向上させる努力をした。
2)初回調査の分析: 横断的なデータからもできるだけ多くの研究成果を生み出せるように、ライフコース的な視点から職業からの引退過程に伴って人々が直面するであろう問題点を取り上げ、解析した。課題とは、(1)高齢者に対する企業の就労対策の評価、(2)企業における高齢者差別の実態と精紳健康への影響、(3)企業の人員削減の雇用者に対する影響評価、(4)良好な再就職に関連する要因、(5)良好な職業からの引退に関連する要因、(6)老後不安に影響する要因、である。
3)第1回追跡調査の準備:(1)初回調査の質問項目の取捨選択、(2)対象者の所在の確認、(3)調査協力者への調査結果の報告を実施し、また、第1回追跡調査において質の高いデータを効率よく収集できるような準備をした。4)既存のデータベースの解析: 高齢者の生活と健康に関する縦断的・比較文化的な研究のデータベースを活用して、就労継続・再就職を予測する要因の解析を行った。
結果と考察
1)初回調査の実施: 初回調査の回収率は男性、女性それぞれ57.5%、69.5%であった。2次調査の回収者を合計した回収率は男性、女性それぞれ62.4%と71.8%であった。中年期の男性を対象とした回収率は一般的には低いといわれている。本研究では1次の調査では男性の場合60%未満であったが、2次調査によって男性の回収率を60%以上とすることができ、2次調査の有効性が確認できた。
2)初回調査の分析結果: (1)中高年者に対する企業の対策の評価については、分析対象者が勤めている企業の中高年向けの対策としては、「労働環境の改善」および「労働時間の調整」が50%以上と高かった。中高年対策を2つ以上実施している企業に勤めている人では、それ以下しか実施していない企業に勤めている人と比べて仕事に対する満足度が有意に高かった。(2)企業における高齢者差別については、その事例として「ある年齢になったら左遷」「年長者の意見が無視」「60歳より前に退職すべきであるという雰囲気」の3つを設定したが、「あてはまる」との回答がいずれも10%程度であった。「年長者の意見が無視」されていると答えた人の精神健康がそうでない人と比べて有意に悪かった。(3)企業の人員削減の影響については、失業者だけでなく、従業員の削減が全従業員の15%以上である企業に勤めている人でも、被雇用者全体と比較して精神健康が有意に悪かった。(4)良好な再就職に関しては、就業に役立つような資格の取得、職業能力を高めるための自己啓発活動などと有意な関係はみられなかった。(5)退職に対する主観的評価は、満足という人が50%を超えていた。満足度に関連する要因としては、健康状態が良好であることと社会参加をしていることであり、人生設計講座や定年前準備講座の受講などとは関連が弱かった。(6)老後の生活不安として、50%以上の人が感じていた不安は、「ボケで家族に迷惑をかける」「介護サービスが不足」「生活費が不足」であった。高い収入、良好な健康、あるいは老後に関連した知識が豊富であることが老後不安の解消とつながっていた。(7)以上を踏まえ、政策への示唆を記述すれば、中高年の就労対策に対しては、①雇用調整が進んでいる企業の場合には、従業員に対するメンタルヘルス対策を強化すること、②良好な転職・再就職のためには、身につけた技術・技能を生かせる職場の創出とともに、資格取得や自己啓発の内容の吟味が必要であること、③企業による高齢者施策の拡充は、雇用者の働き甲斐に貢献することから、その推進が望まれること、が指摘できる。老後への対策としては、①退職後の生活適応の推進には、社会参加の場を確保することが重要であること、②老後の生活不安の解消には、老後に必要な知識を提供する場が重要であることが示唆された。
3)第1回追跡調査の準備: (1)初回調査の分析を通して、尺度の信頼性・妥当性を検討中である。(2)調査対象者に向けての結果報告については、単に結果を要約して示すのではなく、政策の立案・改善との関連でどのような意味をもつのかまでを含めて作成することにした。
4)60歳以上の高齢者に対する縦断調査からの成果: (1)就労継続の予測要因は男女で異なっており、男性では年齢が、女性では配偶者の就労状況が就労継続に関連していた。(2)再就職の予測要因は男性では地元のネットワークが、女性では過去のキャリアが関連していた。
結論
初回調査のデータを解析するなかで、現在の就労対策の問題点が指摘できた。追跡調査の質を高めるために、初回調査で用いた質問項目の信頼性・妥当性を検討について検討中である。次年度は、初回調査のデータを継続して分析するとともに、第1回追跡調査を実施する予定である。

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