福祉型交通システムの開発と運行システムの組織・経済の適正化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900230A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉型交通システムの開発と運行システムの組織・経済の適正化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 哲男(東京都立大学大学院工学研究科・助教授)
研究分担者(所属機関)
  • 三星昭宏(近畿大学理工学部・教授)
  • 鎌田実(東京大学工学部・助教授)
  • 卯月盛夫(早稲田大学専門学校・教授)
  • 木村一裕(秋田大学資源工学部・助教授)
  • 藤井直人(神奈川県総合リハビリテーション事業団研究部・主任研究員)
  • 山田稔(茨城大学工学部都市システム工学科・助教授)
  • 飯田克弘(大阪大学工学部・講師)
  • 坂口睦男(日本道路株式会社技術研究所・主任研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)私的交通:①都市施設の配置が交通行動に及ぼす影響に関する研究(木村):高齢者の充実した生活活動を支える環境について、都市施設整備の観点(施設の種類や密度、配置等)から実証的に分析する。②高齢者の自立移動支援のための移動具を開発する。③障害者を考慮した歩行空間整備(三星):要介護高齢者の外出支援システムに関する研究(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価(磯部):コミュニティバスの利用者の意識調査を行い、同バスの現状と課題を整理する。②要介護高齢者の外出支援システム(藤井):要介護高齢者の健康を維持する「通院」に関して欧米における事業を調査し、神奈川県における「移送サービス調査」の結果から要介護高齢者の通院システムについて考察する。(3)住民参加:①NPOによる障害者移動交通サービスに関する研究(卯月):NPOのサービス内容と行政、民間サービスとの関係を明らかにする。②住民参加によるバリアフリー歩行空間整備(秋山、山田、坂口):バリアフリーの歩行空間整備において住民参加手法を用いて、その参加のプロセスがどのように変化するかを明らかにした。(4)経済:飯田交通費助成事業の評価に対する便益帰着構成表の適用手法(飯田):従来プロジェクトの総合評価に用いられてきた便益帰着構成表を福祉事業である交通費助成の評価に適用するための手法を検討する。
研究方法
(1)私的交通:①都市施設の配置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究(木村):複数の都市圏について、パーソントリップ調査データと、その都市の各種施設密度、施設配置の状況から、交通に要する時間、活動の質(交通目的)、ならびに多様性の相違を分析した。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究(鎌田):高齢者41名の生活・身体・運転能力調査に基づき車両の機能をまとめ、開発企画を行った。それにもとづき試作車両を製作し、高齢被験者による評価を行った。③障害者を考慮した歩行空間について(三星):歩行空間において障害者が安全、快適に移動できるような歩道整備について考察した。(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価(磯部):愛知県長久手町のNバスを事例とし、同町の交通状況、N?バスの利用実態を調べ、同バス利用者にアンケート調査を実施した。②要介護高齢者の外出支援システム(藤井):鷹巣町の「デイケア事業」に合計16名の要介護高齢者本人から直接聞き取り調査を実施した。(3)住民参加:①NPOによる障害者移動交通サービスに関する研究(卯月):ドイツの障害者移動交通サービス施策の実態を文献調査すると共に、代表的なNPOの運営実態を聞き取り調査した。②住民参加によるバリアフリー歩行空間整備(秋山、山田、坂口):藤沢市湘南台を対象とし毎月行われるワークショップ終了後に行ったアンケート調査、および居住者に対象としてアンケート調査の2つのデータを分析した。(4)経済:①交通費助成事業の評価に対する便益帰着構成表の適用手法の検討(飯田):推測される事業の効果について、その存在・程度、波及過程などを把握するために、関係する経済主体に対しヒアリング調査を実施した。そして、その結果を比較統合することによって、定性的な便益帰着構成表を作成した。
結果と考察
(1)私的交通:①都市施設の配
置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究(木村):交通に要する時間が少ない構造を持った都市圏において、高齢者のアクティビティの多様性(頻度、より自由度の高い質の高い交通)が明らかになった。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究(鎌田):提案するコンセプト(低速・超小型・簡易操作)に対して、ほぼ肯定的な意見が得られたが、一部に要改善点があり、さらに道路環境整備が重要な課題であることがわかった。③障害者を考慮した歩行空間整備について(三星):車いす利用者、視覚障害者ともに「歩道幅員」、「歩道上の障害物」についての指摘が多かった。車いす利用者は勾配に関して、視覚障害者は他の通行者とのすれ違いに関しての指摘が多かった。(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価(磯部):バス車両、乗り降りの事項に関しては、10?50代で満足率が高いが、それ以上では不満が強い。運行回数、運行日数の事項に関しては、60歳以上で満足率が高い。②要介護高齢者の外出支援システム(藤井):要介護高齢者は生活自立のランクJレベルで乗用車同乗かタクシーを利用した「買い物」「娘の家」等自由な外出が見られた。自立度の低いランクでは、「病院」「デイケア」以外の外出が無くなっている。通院への支援はヘルパーによる付き添い介護と社協のリフトバスにより高いレベルで対応しているが、自由な外出に対応できていなかった。(3)住民参加:①NPOによる障害者移動交通サービスに関する研究(卯月):市は公共交通利用困難者に対して、民間タクシーとNPOによるスペシャルトランスポートに利用できる移動交通チケットを配布することによって、官公民のパートナーシップ関係を築いている。②住民参加によるバリアフリー歩行空間整備(秋山、山田、坂口):住民は一方通行は安全と不便の両方の意見があり、賛成と反対はほぼ半分づつであった。また、ワークショップに参加している人間程理解度や協力度が高いことが分かった。さらに、実験の実施は参加者の増加に貢献することが分かった。(4)経済:①交通費助成事業の評価に対する便益帰着構成表の適用手法(飯田):ヒアリング調査結果から、これまで推測にとどまっていた、効果の存在、その影響の程度などについて明らかにすることができた。そして、その結果を統合した便益帰着構成表を用いて、特に公平性観点から事業の評価を行うことができることを確認した。
結論
(1)私的交通:①都市施設の配置が高齢者の交通行動に及ぼす影響に関する研究(木村):交通に時間を割かなくてもよい都市構造や使節配置が高齢者の生活の充実度を高めることが把握され、高齢者の利用を考慮した各種施設の配置や施設密度について、検討する必要のあることが明らかとなった。②高齢者の自立移動支援のための車両開発の研究(鎌田):高齢者がいきいきと暮らせるためには、モビリティの確保が重要であり、免許保有高齢者には、普通の自動車より簡易で安全な移動具の導入が必要であることがわかった。③障害者を考慮した歩行空間整備について(三星):歩行空間整備において、「幅員」、「障害物」対策が重要だとわかった。(2)公共交通:①利用者からみたコミュニティバスの評価(磯部):N?バスに対する利用者の評価は、総合的には良好的であるが、利用者の年齢により詳細に分析すると、若年層は目的地への速達性を期待し、老年層は、安全性、快適性を期待していることがわかった。②要介護高齢者の外出支援システム(藤井)医療サービス提供機関に行くための移動手段において、身体機能が低下する毎に外出困難になっていることが明確になっている。移動を支援するシステムの構築が急がれる。そして高齢者・障害者の自由な外出を包含した交通システムの在り方が残された課題である。(3)住民参加:①NPOによる障害者移動交通サービスに関する研究(卯月):行政と民間そしてNPOのサービスの明確な役割分担と、NPOの支援方策を充実する必要がある。②住民参加によるバリアフリー歩行空間整備(秋山、山田、坂口):ミクロレベルの住民参加型のワークショップによる整備は、時間がかかるがより質の高い整備ができること。また、参加の
プロセスはみちづくりに有効であることが確認できた。(4)経済:交通費助成事業の評価に対する便益帰着構成表の適用手法(飯田):交通費助成事業は、費用負担者(自治体)と助成対象者との直接的関係以外に、様々な効果を波及している。これらの関係を定量的に明示できれば、財源の効率的運用など有用な情報を提供できる。

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