高齢障害者の立位・歩行に関するリハビリ訓練の為の支援機器に関する研究開発

文献情報

文献番号
199900229A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢障害者の立位・歩行に関するリハビリ訓練の為の支援機器に関する研究開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山本 敏泰(富山県高志リハビリテーション病院)
研究分担者(所属機関)
  • 矢野英雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 野崎大地(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢障害者において、立位・歩行能力を改善し、その維持・向上をはかることは非常に重要である。3年計画の最終年度においては、脳卒中片麻痺者の為の表面電極型ハイブリッド訓練用電気刺激システムの実用化研究を進める。第1に下肢全体の刺激電極の適正な組み合わせなどの臨床に即した改良を行う、第2に健側股関節駆動力を直接的に利用するハイブリッド装具の試作を継続して推進する。及び第3に上記システムの臨床試用とその評価に関する研究を行うものである。
研究方法
上記の課題について、以下のような方法で検討を行った。
1) 刺激電極システムと、電気刺激パターン生成方法に関する研究
第2年度の改良型3次元トルク計測システムを用いた、特に股関節周囲筋の実験的等尺性筋出力評価を継続して進めると共に、具体的な刺激電極の試作を進め下肢全体に展開する。歩行準備訓練時における刺激パターンについて、特に高齢障害者にしばしば観られる大体四頭筋等の廃用性萎縮などに対し筋力増強訓練に有効な刺激電極配置と、その効果の検討をMRI等を用いて評価する。また歩行訓練時における片麻痺者に特徴的な分回し歩行等を改善する為に刺激部位の組み合わせや、強度の調整等について検討を加える。
2) 片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発
健側股関節駆動力を直接的に利用するハイブリッド装具の開発試作を実施する。健側の股関節駆動力を患側に伝達するインタフェースについて、ケーブルを利用した力の伝達方法、歩行時の歩行速度にあわせたトリガータイミングの調整機能等について検討を加える。3) 訓練用電気刺激システムの臨床試用に関する研究
個別の事例による実際のリハ訓練への導入の可能性を検討することが目的である。臨床試用実験における対象者は、発症後比較的長期間を経過した場合と、回復期にある場合に分けて行う。協力施設における十分な患者の同意の下に実施する。一般的になリハ評価指標と共に、電気生理的な評価の他、歩行時の動作分析、及び筋電図分析を利用する。
結果と考察
研究結果及び考察=各検討項目について以下の結果を得た。
1) 刺激電極システムと、電気刺激パターン生成方法に関する研究
基礎的な検討として、股関節周囲の3次元トルク計測システムによる被刺激筋の関節トルク評価を行うと共に、筋骨格数学モデルを利用し、股関節角度の変化に対する各筋の筋出力特性(モーメントアームから)の実験値との比較検討を行い比較的良い結果を得た。
次に本年度の課題の1つである片麻痺者の立位・歩行準備訓練、及び歩行訓練時への当該刺激電極システムの臨床試用を開始した。最初に、従来の電気生理用刺激装置を活用して入念に各筋の刺激部位を検索し刺激電極を作成した。リハ訓練への導入において、第1に回復期などの片麻痺者の立位・歩行準備訓練において大体四頭筋の筋力増強訓練は必要な検討課題である。当該筋は膝周囲の主要な動作筋であるが、皮膚表面から刺激可能な当該筋の内外側部及び大腿直筋について検討した。訓練の経過の中で内側広筋の刺激は膝の支持性の向上に有用であることが示された。入院期間中2ヶ月程度の訓練にMRIによる筋の横断面積についても明確な増加があり、リハ訓練を支援するのに有効であった。以上のことは、表面電極型刺激電極の有用性を確認する結果となった。第2に歩行訓練における分回し歩行改善のための刺激方法として、膝関節に関して大体四頭筋の随意筋出力を指標にしてハムストリングの刺激強度を調整した。発症後の期間が比較的短い症例に対して歩容の改善に有用であったとの訓練士の報告を得た。ハムストリングは股関節の主要な屈筋でもあるが、歩行時において膝の屈曲により大きく作用するとの他の報告もある。
今後の検討課題の1つとして、大腿周囲の筋について、膝の支持性を向上させると共に、股関節を含む二関節筋などの運動制御にも注目して検討を加えていく必要があると考えられた。こうした具体的事例の結果に基づいて、今後は歩行時各相における筋相互間の役割などについて明確にし、適正な電気刺激パターンの構築を図るべく筋骨格数学モデルの実用化研究を進める。
2) 片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発
本年度は、空気圧を動力源とした方法が、内反尖足等により足部接地に異常動作が混入してフットスイッチによる患側へのインタフェース制御が不十分であること、更に歩調に合わせた制御ができない(オープンループ制御)ことなどを改良する為に、主に健側股関節による駆動を力源とした直接駆動型の歩行補助具の開発を進めた。即ち健側股関節伸展時の腰部と大腿の間の伸張を患側股関節屈曲運動支援に活用する方法を採用した。健側において立脚期股関節の伸展動作により骨盤と大腿遠位部間が2~3cm伸張することを利用して、約3倍に拡大して患側をケーブル牽引することによってその屈曲動作を支援するものである。トリガーのタイミングはケーブルの張り具合、固定位置などで調節するものとした。伝達効率の向上のために、金属ケーブルの採用、潤滑用コーティング材などが検討された。
3) 訓練用電気刺激システムの臨床試用に関する研究
臨床試用は発症後期間が比較的短い場合と、長い場合に分けて検討を加える。共に研究協力施設において被験者の十分な同意の下に実施された。最初に発症後期間が比較的短い事例について述べる。症例は、1名が右肩麻痺、66才、男性、発症後期間24日、他は右肩麻痺、77才、男性、発症後期間29日である。結果は2症例ともに歩行訓練においては交互動作を獲得するのに有効であった。立位・歩行準備訓練においては膝関節の安定性を獲得する事を目的とした大腿四頭筋の筋力増強刺激を実施すると共に、蹴り出し訓練の極初期には膝を安定させるために当該筋を刺激したまま行い(その後変更を加えた、)回復促進に有効であった。2例とも平行棒内歩行訓練で患側の支持性が充分に得られない状態から短下肢装具+T杖を利用して監視歩行が可能となった。回復期にある片麻痺者において、支持性の改善、訓練士の負担軽減などは電気刺激訓練による明らかな効果であるが、通常のリハ歩行訓練過程における当該ハイブリッド型電気刺激システムの効果については更に症例を増やすなどした上での詳細な検討が必要である。
次に発症後数年を経過した事例について述べる。症例は1名が左肩麻痺、59才、男性、発症後期間約5年、他は右肩麻痺51歳、男性、発症後約6年である(但し②の症例については複数回にわたる訓練は無し)である。本症例の報告は、生理学視点からのH反射機能について電気刺激前後において顕著な変化は認められなかった。動作分析において、歩行訓練時のスティックピクチャからは明らかに当該システムを利用することにより歩幅が大きくなり歩行速度が改善されている(約20%)事が判った。また交互動作や腰部の揺動も相対的に改善されている。しかし患側の分回し歩行は多少(側方トルク成分の相対的減少)改善されたが、視認できるほどの変化はなかった。一方訓練初期と終了時の筋電図分析について、終了時には患側において大腿四頭筋・ハムストリングの同期放電パターン幾分改善された傾向が見られた。発症後数年を得た症例にいては歩行速度や交互動作の改善は明かであるが、歩容の明白な改善には至らなかったと言える。しかし訓練終了後に力学的解析や筋放電パターンに変化が観察されている。こうした改善点などを考慮して適正な訓練期間などの検討を含めて、今後は症例を増やした上でより客観的な評価を実施していく必要があろう。
結論
ハイブリッド化電気刺激システムにおける片麻痺者の歩行訓練について、電気刺激による下肢全体の支持性の改善、及び股関節屈曲動作を支援する新しいRGO装具による歩行速度などの改善は本システムの有効性を顕著に示すものである。

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