高齢者の自立・QOL向上のための機能的支援システムに関する研究

文献情報

文献番号
199900228A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の自立・QOL向上のための機能的支援システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
福井 康裕(東京電機大学理工学部電子情報工学科)
研究分担者(所属機関)
  • 関口行雄(職業能力開発総合大学校)
  • 広瀬秀行(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 高橋誠(北海道大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の目的
高齢者の自立や日常生活の質(QOL)の向上を目的とした機器の開発は、高齢者の積極的な社会参加、豊かな日常生活にとって必要かつ重要な課題である。本研究班では機器開発の中でも移動機器の開発に主眼を置いているが、取り組んでいる4研究テーマは、従来のような完全な移動機能の補助・代行に主眼を置いた機器開発ではなく、高齢者の積極的な行動範囲の拡大、自立意欲の引き出しを狙ったものである。そのため、各研究とも装置の機構、制御法等に力を入れ、機能性を重視した機器開発を目指している。また、実用化を目指し各研究テーマともに実際のフィールドテストの評価を重視している。
研究方法
移動支援を行う機器に関して、寝たきりから→座位→立位→屋内移動→屋外移動・姿勢変換と言った姿勢変換から移動とそれに伴う自立・QOL向上に関連する一連の機器の研究・開発を行い実用化を目指し進めている。
本年度は、昨年までの評価結果に基づき各テーマ以下のように研究を進めた。
①高齢者の離床を目指した座位保持装置に関する研究:新たにダブルリクライニング方式、カンッア方式、モールド方式、ブロック方式のものを製作し、高齢障害者を中心に実際に使用し評価検討を行った。評価に関しては、本人の感想および座面の圧力分布計測などのデータを基に行った。②高齢者の機能を考慮したの電動介護椅子の開発:従来のシステムでは姿勢変換時、最終姿勢までは自力で動作しなければならなかった。そこで、自然な姿勢変換で最終的に起立姿勢をとることができるまで支援するシステムの開発を行った。システムは、機構の簡略化に工夫をし、小型化を図ると同時に快適性の向上を目指し、専用の圧力分布計測装置を開発した。③生活機器、移動機器用パワーアシスト化システムの開発:本年度は、動作全体におけるパワーアシスト制御の実現を目指した。これにより完全なスイッチレス化を可能とした。動作評価では、新たに組み込んだ動作の安定を図るアルゴリズムに関しても検討を行った。④機能的姿勢変換機能を備えた移動支援装置の開発:昨年度の評価にて問題とされた以下の3点について改良を行うこととした。1)パワーアシストのみならず機能低下が著しい高齢者用にフル電動化システムを装着可能にした。2)高齢者の関節可動領域を考慮し設計の変更を行った。3)立位に近い姿勢での移乗を可能にするような機構の変更を行った。
結果と考察
研究結果
各テーマとも昨年度の試作機の問題点の改良を行い、システムへの改良を行い、各々製品化に向け更なる検討を行った。以下に個々のテーマについて本年度の研究結果を述べる。
①高齢者の離床を目指した座位保持装置に関する研究:高齢障害者に関しては、モールド方式の適合性が良かったが、高齢者の多くに関しては、ブロック方式のものが身体状況に応じた調節が可能で有効であることが確認された。②高齢者の機能を考慮した電動介護椅子の開発:本年度は、1個のアクチュエータとリンク機構を組み合わせることにより最終的な目標であった直立に近い姿勢までの動作を行わせることを実現した。実際の高齢者による評価でも自然な姿勢変換および歩行動作への入りやすさ等に関し良好な評価を得ることができた。③生活機器、移動機器用パワーアシスト化システムの開発:本年度行った制御則の全面改良により、評価では、従来のように物理的なスイッチを一切気にせず良好な動作を行うことが可能であった。また動作の安定化に関しては、従来の制御法で時々見られた制御の振動もなくなり安全で簡便なパワーアシストが可能となった。④機能的な姿勢変換機能を備えた移動支援装置の開発:本年度新たに改良を行った3点を中心にフィールド評価を行った結果、昨年度まで指摘された問題点に関して改善が図られたとの評価を得た。また、姿勢変換に関しては、車軸を30mm前方に移動させたことにより高齢者にも無理のない姿勢変換が可能であることが確認できた。さらに、平行機構の改良により、立ち上がり角度を変えたことで移乗が容易となったとの評価を得た。試乗の評価では昨年同様操作に関して慣れが必要との評価が得られたので今後この問題に関して検討を行う。
考察
本年度は特に昨年度までの改良や評価を中心に行い、より完成度の高いシステム開発を行った。以下、本年度行った実験結果に基づき各々の研究課題について考察を行う。
①高齢者の離床を目指した座位保持装置に関する研究:本年度は4種類の座位保持装置を製作し臨床評価を行った。ダブルリクライニング方式は股関節、膝関節の屈曲・拘縮に対応でき、その有用性が確認できたが強度的な問題が残された。一方、カンッア方式は採形の必要がない反面形状が限定され圧力の分散に問題が残された。モールド方式は、適合性が最も良好であり、良い評価を得たが価格面で問題が指摘された。ブロックタイプは、幅広い適合性は期待できないが、価格が安価で汎用性に優れるものと考えられた。今後はこのブロックタイプに焦点を絞り、市販化を目指して開発を進めていくことを検討する。
②高齢者の機能を考慮した電動介護椅子の開発:本年度開発を行った電動介護椅子は、一つのアクチュエータにより座面と背もたれが同時にほぼ直立した姿勢となるまで姿勢変化に合わせて動作するという従来にない機能を備えることができた。高齢者による評価でも昨年同様身体の動作奇跡は自然に近いものが得られ、本いすの有用性が確認できた。しかし、座位の姿勢を長時間とった場合などにおける座面の快適性、姿勢変換時のイスへの圧力分散などに関し検討の余地があり、最終年度では、本年度開発を行った専用の圧力分布計測装置の開発によりより快適な姿勢変換を可能にすることを目指す。
③生活機器、移動機器用パワーアシスト化システムの開発:荷重変化の予測を高速で行い、逐次基準となる荷重を更新させる新規な制御方法は、本システムに有用な方法であると考えられた。本年度は、このように完全なスイッチレス化と安全面、動作の安定化を中心に改良を行い良好な性能を有していることが評価により確認することができた。 
④機能的な姿勢変換機能を備えた移動支援装置の開発:フィールド評価では、昨年度問題とされた点に関しても良好な評価を得ることができた。このため、システムに関しては、本年度にてほぼ完成に近いものが作製できたものと判断された。今後は、最終的な製品化に向けた細かな安全性などに関し検討を行うとともに、操作修得プログラム、利用マニュアルなど実用化に向けた準備を進めて行く。
結論
本研究班では、寝たきりを無くし、積極的に社会参加を可能にするまでの各レベルにおける高齢者の自立意欲、QOL向上を支援する一連の機器に関するテーマを掲げている。これらの各機器は、実用化を目標としその開発を進めてきた。本年度は各研究テーマとも、昨年度までの評価結果に基づいた改良、設計および試作を行い、フィールド評価を行った。評価結果では、今後に検討の余地を残したものがあるが、昨年度に比較して大幅に改善されその幾つかに関しては最終的な製品化に近いと判断されるものがあった。今後の細かな点に対する改良や安全性の確認などにより今後の実用化が期待された。

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