超音波モータを用いたアクティブひざサポータの開発

文献情報

文献番号
199900227A
報告書区分
総括
研究課題名
超音波モータを用いたアクティブひざサポータの開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
遠山 茂樹(東京農工大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 梅田倫弘(東京農工大学工学部)
  • 桑原利彦(東京農工大学工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アクティブひざサポータの自動制御を行うための研究として、超音波モータの特性を考慮した最適な制御方法を検討する必要がある。また、人体に装着してその運動を補助することが目的であるため、制御を行う際には人体の運動パターンを考慮した超音波モータの駆動パターンを入力する必要がある。そのため、様々な運動状態における人体の運動パターンを把握しなければならない。前年度において、超音波モータの高出力化を進めたが、さらなる高出力化を目指し、ロータ材の材料定数をパラメータとして用いた、高出力を実現するための評価法を検討した。
研究方法
超音波モータの特性を考慮した最適な制御方法を検討するために、製作した高出力超音波モータ単体での制御実験を行った。制御実験システムとして、パーソナルコンピュータと任意波形発生装置をGP-IBインターフェースにより接続し、1軸回転実験プログラムにより出力信号を制御するシステムを構築した。回転速度や位置はロータリーエンコーダにより検出し、フィードバックもこれにより行う。超音波モータの駆動原理としてもっとも特徴的なものは、2相の交流電圧の相間位相をずらして印加するというものであり、今回は制御パラメータとしてこの位相差を採用した。また外乱による制御誤差を補償するためにPID制御を用い、この制御の有効性を評価した。次に、人体の運動パターンを把握するために、人体の運動測定を行った。これは7台のカメラと4枚の床反力計を用いる3次元動作解析システムVICONにより、各関節の空間位置と床反力を計測し、計算により各関節に働くモーメントや回転角を求めることができる。運動測定を行った人体の運動パターンは、歩行、階段昇降、椅子立ち上がりであり、これにより日常生活におけるほとんどの場合の運動に対応することができる。また、この運動測定により得られたデータをドライバとして、動力学シミュレーション上で人体の動力学モデルを作成した。サンドイッチ型超音波モータのさらなる高出力化を進めるために、試験を行うロータ材の種類を増やした。材料は軽量化を考え、すべてエンジニアリングプラスチックの種類の中より選択した。それぞれのロータ材において、同じステータとの組み合わせでトルクを測定し、ロータ材の材料定数との関連性について比較検討を行った。
結果と考察
高出力超音波モータの1軸回転実験において次のような結果が得られた。超音波モータは駆動周波数を変化させたときにヒステリシスを示し、また共振周波数を境にして駆動状態に対称性がなく、制御パラメータとしては不適当である。ここで印加電圧及び駆動周波数を一定にし、印加する2相の交流電圧の相間位相差を変化させたときにおいては、位相差が0度付近では回転せずに摩擦力が減少し、位相差が90度付近では最大トルクで駆動することがわかった。これは超音波モータをサーボモータとして利用することができることを示している。また、この制御方法による速度制御も可能であることが確認され、正転、逆転も行うことができた。理想的にはこの相間位相差を固定すると速度も一定になるのだが、様々な外乱等により一定にならなかった。そこでPID制御を用いて速度の振動を押さえる制御を行った。その結果、目標値に対する速度の振動を抑えることが可能となり、超音波モータにおけるPID制御の有効性を確認することができた。次に、3次元動作解析による人体の運動測定より次のような結果が得られた。本研究はひざの運動を補助する目的で行っているので、ひざに発生する関節モーメント及び関節角度に着目し、床反力のデータと合わせて評価を行った。歩行において
は、床反力のデータより身体を片脚で支持している時期と、両脚で支持している時期が周期的に存在しすることがわかった。また片脚にのみ注目し、床反力とひざ関節モーメントのパターンを評価したところ、床反力が大きくなりはじめる時期、つまり踵接床時にひざには大きなモーメントが発生しており、このときをのぞいてはひざに大きな負担はかからないことがわかった。このことから歩行時においてもっともトルクを必要とするのは踵接床時であり、この時期を床からの反力とひざの角度を検出して知る必要がある。階段昇降においては、床反力のパターンは歩行時と極めてよく似ており、運動パターンを把握するためには同様にして床からの反力とひざの角度を検出すればよい。ただし、発生するモーメントが大きいので、歩行時よりもトルクを必要とする。一方運動パターンが大きく異なるのが椅子からの立ち上がりであった。椅子からの立ち上がりにおいては、サインカーブ的にトルクがかかり、このパターンにしたがって超音波モータを駆動させる必要がある。特に立ち上がりに要する時間が長いとひざにかかる負担が大きくなり、また、上体の姿勢によってもひざにかかる負担が変化する。上体を前方へ曲げることによりひざへの負担が少なくなることがわかった。また動力学モデルによるシミュレーション結果は、実験とよく一致しており、今後このモデルを用いれば、体格の異なる被験者においても、大掛かりな測定実験を行うことなく運動データを生成することが可能となった。サンドイッチ型超音波モータのさらなる高出力化を進めるために、ロータ材を変更しトルクと材料定数の関連性を評価したところ次のような結果が得られた。これまでは66ナイロンにグラスファイバを充填した物を使用していたが、さらに評価する材料を増やしたところ、140kgfcmのトルクを得ることができた。またそれぞれの材料について、弾性率と硬度のバランスを検討してみたところ、高いトルクを実現できた材料は、ある一定のバランスを持っていることがわかった。また弾性率と硬度の値は、共に大きい値の材料が高トルクの実現において望ましいことがわかった。しかしながら、現段階でモータの押付け力が160kgfを超えるほどになっており、ほぼ限界に近く、この構造におけるトルクの今以上の大幅な向上は難しい。そのため、多層化などによる構造上の改善から、高出力を目指すことが必要となる。
結論
本年度はアクティブひざサポータの制御方法を確立するために、超音波モータの制御特性及び制御パラメータの検討、人体の運動測定による運動パターンの解析をおこなった。また、より補助の効果をあげるために、サンドイッチ型超音波モータのさらなる高出力化を進めた。これにより制御パラメータを決定することができ、またPID制御の有効性も確認できた。人体の運動パターンの解析からは、歩行、階段昇降、椅子立ち上がりの運動を補助するためのモータの駆動パターンを決定することができた。さらにロータ材の検討、評価を深めることにより、高トルクを得るためには弾性率と硬度のバランスが重要であるということがわかり、さらなる超音波モータの高出力化も実現することができた。

公開日・更新日

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